ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・ほんとうの中小企業の切り方の話をしよう~パート2

前回からドロドロとしたテーマを取り上げている。それもズバリ「中小企業の切り方」だ。「切る」とはあまりにどぎついかもしれない。その場合は「取引停止」でも良いだろう。日系企業の多くは、サプライヤーについて「選択と集中」を掲げてきた。サプライヤー集約によって、優れたサプライヤーのみからコスト競争力のある製品を調達しようとするものだ。

ただ、そのときに「選択され集中されるサプライヤー」だけに目を向けるわけにはいかない。サプライヤー数を三分の一にするのであれば、残り三分の二は、取引停止の運命にあるサプライヤーだからだ。

私のかつてからの疑問は、なぜこの「サプライヤーを切る手順」を明確に述べた書籍がないのだろう、ということだった。もちろん、大企業のサプライヤーを切るのであれば問題は生じないだろう。しかし、バイヤー企業に100%依存しているサプライヤーを、そうたやすく切ることができるとは思えないのだ。それに法律的な問題もあるだろう。

前回の連載では、次の2点をあげておいた(バックナンバーを読めない方は、1ヶ月ほどお待ちいただきたい)。

・下請法、下請中小企業振興法など社会ルールに則った「正しい」やり方とは何か
・法に限らず、商売上の倫理を踏まえた「正しい」やり方とは何か

おそらく読者の企業でも、サプライヤーの絞り込みが検討されているだろう。その際は、次のようなステップを経る。

ふたたび、「下請中小企業振興法(振興基準)」から引用しておく。下の図の上部がそれだ。

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ポイントは次の通りだ。

・継続的な取引を有する下請事業者が対象
・大幅に取引額が減るときに問題となる
・相当の猶予期間をもって予告しなければならない

そして、上の図の下部には、弁護士のいう一つの目安を載せておいた。「下請中小企業振興法」であれ「下請代金支払遅延等防止法」であれ、下請中小企業の安定した経営と発展を目的としている。ゆえに、中小企業の経営に大影響を与えない配慮が必要となる。取引を停止する際にも、「1年程度(他者からの受注が見込める期間)を置け」と弁護士が勧めるのもそのためだ(「他者」あるいは「他社」)。

・中小企業を切るためのスケジュール

さらに、これらを実務的なスケジュールにするとどうなるだろうか。概念的に表現したものとして、下の図をあげておいた。

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いきなり「発注削減期間」を設けるのではなく、「改善依頼期間」を置いている。これによって、サプライヤーに問題点を改善してもらうのだ。前回の連載をお読みいただいた人はおわかりのとおり、「評点」とはサプライヤー評価結果を指す。もし、サプライヤーの集約を目指すのであれば、なぜあるサプライヤーは残し、なぜあるサプライヤーは切るのか、について定量的な評価を行っているはずだ。

・Q(品質)
・C(コスト)
・D(納期)
・D(開発)

についての評価(評点)を有しているので、なぜ、そのサプライヤーが切られるに至ったかを説明しなければいけない。これは考えれば当たり前で、「はい、おたくはダメだから、来期からは仕事ないよ」と宣言するだけであれば訴えられてもしかたがない。

だから、真摯で誠実であろうとするのであれば、そのサプライヤーの「何が悪くて」「どれくらい悪くて」「どうすべきなのか」を伝える必要がある。そして、それでもなお改善の兆しが見られないサプライヤーについては、実際に取引を停止する段取りとするのだ。

そうなると、実務的にはさらにもう一本の線が加えられる。

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「改善依頼期間」に「1年程度」と線を加えた。

・サプライヤーにも改善期間(猶予)を与え
・法的にも問題のない手順を踏む

これこそが、中小企業の切り方としてふさわしいものだ。よって、中小企業の切り方とは、すなわち、2年にもわたる長期戦にほかならない。このことをどれだけの人が理解しているだろうか。継続的な取引を有するところであれば、仕事を奪って他社に仕事を流して終わりではない。

・優先的に切るべき中小企業とは

では、不遜な話をもっと続けよう。最後に考えたいのは、「優先的に切るべき中小企業があるか」という問題だ。極端にいって、コストを削減するためだけのサプライヤー集約であれば、集約しなくても危機的なことになることはない。危機的になる場合とは、すなわち、中小企業の経営が立ち行かなくなり、製品を供給してもらえなくなることだ。

経営的に危険なサプライヤーから調達していると、いつか供給がストップしてしまうかもしれない。もちろん、そういうサプライヤーであっても、コストや開発力に優れていれば、支援してあげるべきだろう。しかし、QCDDの観点から低い評価のサプライヤーであれば、優先的に(早めに)切ることを考慮せねばならない。

では、経営的に危機的なサプライヤーとは? たとえば、「流動比率」だとか、「自己資本比率」だとか、「インタレストカバレッジレシオ」だとか、そういうことを考えればよいのだろうかーー。もちろん、答えは「YES」だし、私も授業ではそれらの指標を総合的に考慮することを伝えている。

ただし、実はもっと簡単な見方がある。

それはサプライヤーの「借入金依存度」を見ることだ。直観的な意味では、サプライヤーがどれだけ借金にまみれているかを見るのだ。借金だらけであれば、営業利益を支払利息に費やしておしまい。とても安定した経営はできない。

そこで、ひとつ覚えていただきたいのは、「中小企業の財務指標」だ。このなかに、2005年度のデータがある(ちなみに、これが最新だ)。日本とアメリカという国は、このように一般公開されているデータを紐解くだけで、かなり面白いことがいえる。ただ、ほとんどの人は、このようなデータの場所や扱い方を知らない。ただ、このことについては本題ではないので、省略しよう。

そこで、たとえば、「建設業」を見てみよう。59ページだ。そこの下のところに「借入金依存度」とあるのがわかるだろうか。56.3%となっている。これが、一つの平均だと思って良い。

具体的には、みなさんがつきあっているサプライヤーの貸借対照表を取り寄せ、

・短期借入金
・長期借入金
・手形割引高(ほとんど記載されていないと思われる)

をチェックする。そして、それを総資産と比べるのだ。

借入金依存度=(短期借入金+長期借入金+手形割引高)÷総資産
で計算できる。

この計算によって、付き合っているサプライヤーを一覧にしてみよう。今回のテーマは中小企業だから、各社ごとで借入金依存度にかなりの違いが出てくるはずだ。なかには90%を超えているところもある。

そして、あえていってしまえば、この借入金依存度の高いサプライヤーと、「ロクでもないサプライヤー」はほぼ同じことが多い、と経験上いっておこう。

ちなみに、借入金依存度が100%に近いサプライヤーから製品を調達し続けることは、火事で燃えている家に住み続けるようなものですよ、と私は言っている。

借入金依存度の高いところは、リスクそのものである。借入金依存度の高いところから、取引停止を考慮していくことは当然なのだ。

中小企業の切り方は奥が深い。

<つづく>

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