ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

3-5 信頼を得て維持する力~品質保証知識

近年の品質管理は、より源流/上流での管理が必要です。そのような現実を踏まえて、どのように品質を管理し保証するのか、調達購買部門に必要な品質管理の知識を確認します。まず、現在の日本の「品質」について考えます。

☆危惧される食品の安全性

この原稿を書いている時も、大手ファストフードチェーンとコンビニエンスストアで販売されている鶏肉の加工食品工場の衛生管理が問題になっています。以下の表をご覧ください。

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この表は、2000年以降に発生した食品関連の消費者問題の一覧です。上表の問題は、加工工程での問題もありますが、なかにはバイヤが結果的に関与したと判断せざるを得ないケースもあります。表中にある2008年に発生した冷凍餃子では次のようなサプライチェーンが想定できます。

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上図によると、消費者の「買い」を含めば、最低でも4回程度の「購入」が発生していたと考えられます。その中で、3回はバイヤによる「買い」です。終わってからであれば、なんでも言えます。しかし、この事件では、かなり以前から異臭がするといった苦情が消費者から寄せられていました。その声がバイヤに届き、何らかの対策を施していればこの事件はどうなっていただろう、どうしても私は考えてしまいます。

☆「ものづくり」はどうか

以下のグラフは、日本国内における自動車の生産台数と、リコール発生件数と対象台数の推移です。

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点線は、台数の増減トレンドを判断するために近似曲線を追加しました。ご覧頂いてご理解いただけるとおり、生産台数は減少傾向を示していますが、リコールは発生件数と台数のいずれも増加傾向にあります。リコール発生=品質の悪化と見られるかどうかとの議論もあります。また、自動車が「電子の塊」となり、電子部品の増加は、構成部品数の急増につながり、故障率も上昇するといった原因説や、開発期間の短縮といった要因も挙げられています。どんな理由であっても、リコール発生件数の増加は一般消費者にとって品質が悪化したと判断される十分な理由になります。つづいて、以下のグラフをご覧ください。


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http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h26/2605/260530_1houdou/02_houdoushiryou.pdf

上記は、石油コンビナート等特別防災区域内の特定事業所において発生した事故の発生件数の推移です。大規模な地震災害によって件数が突出して多いとの特定要素を除いても、明らかに発生件数は増加傾向を示しています。「安全に品質とコストがついてくる」とは一般的なセオリーとして語られる言葉ですが、こういった事故の発生件数が増加している現実は、日本がかつて誇っていた品質にどう影響をおよぼすのでしょうか。

☆高まる品質管理レベル

これまでに述べたような「品質の低下」につながるデータによって、品質管理は次の様なプロセスで高度化しています。

(1) 不良品を市場に出さない【検査による品質保証】
製品出荷の際に、性能や外観を検査して、不良の有無を確認します。検査基準の作成が必要です。
(2) 不良品を作らない【工程管理による品質保証】
製造工程ごとに、正しく作られているか確認を行い、不良の有無を確認します。また、加工工程ごとに作業標準を設定し、製造方法を規定して不良の発生を防止します。
(3) 不良品を企画・設計しない【源流管理による品質保証】
生産の前段階である製品企画や、設計段階で、リスク発生要因を洗い出します。そして、それらの要因ごとに不良発生を防止する対応策をあらかじめ実施して不良の発生を防止します。

上記(3)は、製品開発の初期段階から、全社的に品質を維持管理するための活動を行う仕組みとなっている点が重要です。このような取り組みは、「不良が起こってから対応する」事後対応から、「あらかじめ不良を起こさないためにはどうするか」との予防管理に重点が移っている事実をあらわしています。原因は少し違いますが、冒頭に示した食品関連の問題では、品質の逸失が商品や企業のブランドの逸失につながって、最悪の場合、企業の存続にも大きな影響をおよぼします。したがって、より上流工程での品質の確立が求められているのです。

☆サプライヤの品質管理

サプライヤから購入要求こちらが要求した通りの製品が納入されているかどうかを確認する場合も、上記で説明した(1)~(3)の3つの考え方に沿って進められます。製造業においては、サプライヤでの予防管理が実践されているかどうかを確認する手段として、サプライヤからの納入時に、次の4つの方法から選択して受入検査を行います。この4つの方法をどのように適用するかは、①サプライヤの品質管理能力 ②要求品質の重要度によって判断します。

(1) 全数検査 納入される製品全数を検査し、合否を判定します。
(2) 抜取検査 ロットから無作為に製品を抽出して検査し、抽出品の検査結果によってロット全体の合否を判断します。
(3) 書類検査 サプライヤ出荷時の検査成績表を確認して、受領した際の検査を省略します。
(4) 無検査 検査成績表の確認も省略します。

無検査の場合は、購入品の検査をしなくてもよい程のサプライヤの品質管理能力を定期的に確認しなければなりません。したがって、サプライヤの品質管理体制の監査は定期的に行います。品質管理の難しさは、高めた品質の維持にあります。品質レベルの維持には、PDCAのサイクルを回し続け、たゆまぬ改善活動の継続でしか達成されません。現在では多くの企業でISO9001等の品質マネジメントシステムの認証を取得しており、定期的な監査を受ける機会も多いはずです。これは、高い品質を維持管理するための仕組みでもあるので、監査をチャンス/よい機会と捉える理解をサプライヤに促し、不良を出さないシステムが構築できているかどうかの確認をサプライヤに求めます。

(つづく)

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