抵抗勢力同士の戦いをどうやって納めるか(牧野直哉)

調達購買の現場でも、コンサルティングの現場でも、いわゆる「抵抗勢力」は、企業内の方針や戦略を巡ってどこにでも存在します。コンサルティングの現場では、抵抗勢力の存在によって、その方向性が大きく左右されます。ありがちなケースは、コンサルティングを推進したい人にとって、コンサルタントやコンサルティングの方向性に否定的な考えをもった人の存在です。

調達・購買の現場でバイヤーをしていた頃は、私にとって「抵抗勢力」だった人たちと戦っていました。でも、私が「抵抗勢力」と呼ぶ人たちには、私自身が「抵抗勢力」だったはずです。多数派工作やより上位の意志決定者をどうやって巻き込んで、自分の考えに賛同してもらうかを考えていました。まさに社内の権力闘争ですね。でも、コンサルティングによって企業への支援を行うようになってから、そういった方策は採らなくなりました。

私がコンサルティングを進めるスタンスは、クライアントへより良い意志決定を行ってもらうためのサポートです。あくまでも裏方であり、企業や調達・購買部門の戦略の主役は、バイヤーの皆さんです。そういったスタンスでは「抵抗勢力」の主張にも一理あるケースが多いのです。総論的には反対しているけど、各論的には見逃せない課題や解決策へのヒントが盛り込まれています。

そういったクライアントに有益かもしれない話を引き出すにも、話を聞かなければなりません。そして、これは社外から参加している人間だから、先入観なく、前提条件もなく話を聞き、主張を理解します。どちらかといえば、抵抗勢力以外の人よりも、時間を費やします。すると、たいていの場合、抵抗勢力と呼ばれる人たちは、満足に話を聞いてもらう機会が少ないのでしょう。かなり多弁に話をしてくれます。私が話を聞きながら心がけている点は1つ、決して否定しません。それだけで、抵抗勢力と呼ばれる皆さんは、一時的にかなり満足してくれます。

私は、この抵抗勢力の皆さんが感じる一時的な満足が、とても重要だと感じています。そして、一時的な満足を。どうやって恒久的な満足へとつなげるかが、私の使命と思っています。もちろん、クライアントの業績に貢献する方向性の明確化とか、具体的な施策の導入をした上での話です。私が創る方向性や施策は、まだクライアントにお伝えする段階では机上の空論です。実行には、クライアント企業のバイヤーの実行が欠かせません。方向性に魂を注入するためには、抵抗勢力の皆さんにも理解して協力を仰ぎ、実行が欠かせません。

そもそも近年「抵抗勢力」といった言葉が頻繁に使われたのは、2001年までさかのぼります。時の小泉首相が進めた「聖域なき改革」へ抵抗する勢力を総称していました。その年の流行語大賞のトップテン入賞を果たしましたが、受賞者全員が辞退しました。誰も「抵抗勢力」のレッテルを貼られたくなかったのでしょうね。すべてが「変えなくちゃ」の新興勢力と「変わりたくない」抵抗勢力の攻防の構図でした。コンサルティングの現場でも、「変わりたい」「変わりたくない」の構図で抵抗勢力が表されるケースが多いのが実情です。

でも、これまた冷静に考えれば、人手不足が大きなリスクとして顕在化する将来、「抵抗勢力」のレッテルを貼って、同僚を冷遇している場合ではないのですよね。抵抗勢力から抵抗力を奪うのに「時間をかけて話を聞く」とは、あまりにも芸がない話かもしれません。でも効果あるのですよ。理由は、政治の世界と違って、同じ会社に勤務している共通項があるからでしょう。その「共通項」は忘れずに、あなたの周りの「抵抗勢力」と相対してみてください。あと、相手にとってあなた自身が「抵抗勢力」であることは忘れずに。

(了)

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