【連載】調達・購買の教科書~インフラ、非大量生産系(坂口孝則)

今回の連載は色塗りの箇所です。

<1.基礎>
売上高、工事原価、総利益(粗利益)
資材業務の役割
建設業法の基礎
技術者制度
下請契約の締結

<2.コスト分析>
調達・委託品分類とABC分析
取引先支出分析
注文件数とコスト削減寄与度分析
労務単価試算、適正経費試算
発注履歴使用の仕組みづくり

<3.コスト削減>
取引先検索、取引先調査
コスト削減施策
市中価格比較
価格交渉
VEの進め方

<4.取引先管理>
ベンダーリストの作成
施工品質評価、施工納期評価(取引先評価)、取引先利益率評価
優良表彰制度
協力会社の囲い込み、経営アンケートの作成
協力会社への上限設定

<5.仕組み・組織体制>
予算基準の明確化、コスト削減基準の設定
現業部門との連携
集中購買
業務時間分析
業務過多の調整

・労務単価試算

調達先から決算書を入手してみましょう。そして現場で雇用している人数も聞いてみましょう。その2つが武器となります。

まず、決算書のうち、損益計算書の詳細を見てください。そこには、工事原価あるいは製造原価、あるいは、売上原価の項目があるはずです。さらに、その中身に労務費があります。この労務費には、賃金給与、賞与、法定福利費、福利厚生費、等々が計上されています。

そこで、コロンブスの卵的な発想で作業者の一日コストを計算してみましょう。

作業者の一日コスト(a)×作業者数(b)×作業日数(c)=労務費(d)

上記が成り立っているはずです。最終的には、(a)を求めたいのですが、現時点では(d)しかわかっていません。そこで次の通り、情報収集をしてください。

作業者数(b):ヒアリング
作業日数(c):ヒアリング、あるいは、厚生労働省が発表している、「毎月勤労統計調査」( http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1.html )などを使用し、業界平均を知る
労務費(d):決算書より入手

これによって労働者の一日あたりコストが逆算できます。なお、作業日数(c)については、意味として、当然ながら年間の稼働日数です。まずはなんらかの数字で計算したい場合は、242を使えばいいでしょう。これは年間242日の稼働がある意味です。こうすると約70%の稼働率となります。みなさんの業界に応じて変化させてください。

・適正経費試算

また、次に適正経費試算をしてみましょう。これは、いわゆるインフラ系企業の取引先が、工事原価にどれくらい経費を加算すれば、適切な価格といえるかという問題です。

工事原価+適正経費=適正価格

調達・購買側としては、あまりに買い叩くわけにはいきません。同時に、あまりに払うわけにもいきません。そこで、ある基準を把握しておく必要があるわけです。

そこでふたたびご覧頂きたいのが、取引先の決算書です。

売上高
工事原価
労務・外注以外の工事原価
売上総利益

上記の数字を把握のうえで、実態の経費率を計算してみましょう。

売上高-(工事原価+労務・外注以外の工事原価)=売上総利益

これが、いわゆる粗利益といわれるものです。この(工事原価+労務・外注以外の工事原価)と、売上総利益がわかれば、(工事原価+労務・外注以外の工事原価)に何%をかければ売上総利益になるかがわかります。

そこで、売上総利益÷工事原価を計算いただければ、適正経費率が試算できます。もっとも、その取引先が莫大な利益を稼いでいれば、その比率は多大なものになります。しかし、常識的なものであれば、経費率の実態がわかるはずです。

なお、よく見られる見積書では、工事原価に5%とか10%をかけて、売上総利益(粗利益)を計算するものです。しかし、残念ながら、この5%とか10%では、ほとんど企業活動が成り立ちません。せめて、20%~30%はほしいところです。

実際に、取引先の決算書をご覧いただければ、20%~30%を確保していることがわかるでしょう。

・労務費と外注費の混在

なお、実務的に難しくするのが、取引先の決算書を取り寄せたのはいいものの、労務費にはさほど金額が計上されておらず、外注費に多額が計上されている場合です。つまり、この取引先は、自社の社員ではなく、外部の力を借りることで、仕事を成り立たせています。

このとき、もちろん、労務費に計上されている、正社員だけで試算するのも一手です。ただし、外注費を含めて、ほんらいのコストですから、外注もふくめて一日あたりのコストを試算したい場合もあるでしょう。

通常、自社で雇うよりも、外部に任せたほうが安価なので外注へ依頼します。したがって、外注費にいくばくか修正をくわえなければなりません。そこで目安ですが、各種の調査を見ると、自社の社員と、外注のコストを比較すると、▲15%と考えることができます。

これは、外注先の企業が、自社よりも規模が小さく、それだけ安価に請け負ってくれる事実に依存します。そこで、例で考えてみます。

●労務費:1億円(←社員20名)
●外注費:1億円

上記の場合は、まず、労務費:1億円(←社員10名)から、1億円÷242(日)÷20(人)=20,661円が導けます。つまり、一人あたりコストは一日2万円ほどです。

次に、外注費1億円÷(1-0.15)=1億1800万円に相当すると考えられます。つまり、自社の社員だったら、それくらいかかっているわけです。おなじく計算すると、1億1800万円÷242(日)÷20,661(円)で計算すると、おおむね23人に相当すると考えられます。

したがって、社員20名+外注23人=43人が実質的な稼働作業者と考えられます。そこで、加重平均で考えると、(1億円+1億円)÷242(日)÷43(人)=19,220円が、おおむね一日あたり作業者コストではないかと類推できます。

このように、まず、会社の実力として、作業者の一日コストを把握しておくことは有益です。

(つづく)

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