「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 18(牧野直哉)

前回に引き続き「持続可能な調達」を実践するために必要な具体的な9つの取り組みについて述べます。

9.反社会的勢力との従業員の個人的、組織的な接触はない

すでに「反社会的勢力」を「反社(はんしゃ)」と短縮形で読み対応している企業もあると思います。まず「反社会的勢力」とは、具体的にどのような団体なのか。一般的には次の団体が該当します。

①暴力団
②暴力団員
③暴力団準構成員
④暴力団関係企業
⑤半グレ/準暴力団
⑥総会屋
⑦社会運動標榜ゴロ
⑧特殊知能暴力集団

なかなかこういった団体、集団について調べる機会もないでしょうから、簡単にそれぞれの定義を述べます。

①~④の「暴力団」は、耳にする機会の多い言葉です。「暴力あるいは暴力的脅迫によって自己の私的な目的を達しようとする反社会的集団」とされています。⑤半グレ/準暴力団は「暴力団のような明確な組織ではないが常習的に暴力的な不法行為をしている集団」と警察庁が定義する不良グループを指します。かつて、有名な歌舞伎役者を襲った犯人が所属していたグループが該当します。⑥総会屋も大手企業の利益供与がこれまで何度も問題化しています。これは「多くの会社の株を少しずつ持っていて、それぞれの株主総会に出席し、いやがらせの発言をしたり、その反対に議事進行係を買って出たりして、会社から金をもらうのを常習とする者」と定義されています。⑦社会運動標榜ゴロは「一定の社会運動若しくは政治活動を仮装し、又は標ぼうして不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うおそれがあり、市民生活に暴力団と同じような脅威を与える者及びその集団」と定義されています。⑧特殊知能暴力集団は、反社会的勢力と連携して、法律などの専門知識を悪用して、株価操縦やインサイダー取引などで証券市場や企業から金品の要求を繰り返す集団を指します。

上記に述べたような団体や、団体に所属する人とは、会社で組織的にはもちろん、従業員が個人的に接触し、関係するのはダメです。調達・購買部門では、自社や従業員だけではなく、サプライヤーにもこういった考え方を示す必要があります。企業によっては、新たな取引を開始する際に、反社会的勢力との関係遮断に関する誓約書が必要です。自社で反社会的勢力との関係の断絶を宣言し、取引をおこなうサプライヤーにも同意させます。

まず「自社の宣言」ですが、一般的な取り組みは「企業倫理規定への反社会的勢力への対応の盛り込み」が一般的です。すでに多くの企業のホームページで方針が示されています。トヨタ自動車の例(https://toyota.jp/antisocial/ )をご紹介します。極めてシンプルに、必要事項が網羅されています。

まだ企業として倫理規定がない場合は、同業者や業界で対応が進んでいる企業の内容を参考に、いやはっきり言えばマネして規定を作成し、調達・購買部門であればサプライヤーからも「誓約書」を入手しましょう。インターネットで「反社会的勢力 誓約書」と検索すると、行政レベルから民間企業、弁護士事務所といったさまざまな提供元からサンプルが入手できます。

この点について、もし取り組んでいなければ、すぐにでも取りかかるべきです。理由は、取引しているサプライヤーが反社会的勢力と関係遮断できない場合、業務上不可欠であったとしても、すぐに取引関係の断絶が必要だからです。いろいろなサンプルを参照しても、数値化して点数を評価する内容ではなく、すべての質問に「Yes」と回答する必要のある極めて明確な内容となるためです。

ここまで、CSR/持続可能な調達に必要となるサプライヤー管理のポイントを9つ述べてきました。改めて9つの内容を列記します。

1.自社に適用される法令の内容と動向を理解し順守している
2.法令違反しない社内外教育や、順守状況の定期的なチェックをおこなっている
3.人権侵害やハラスメントの通報・相談ができる体制にある
4.環境(地球温暖化、汚染物質、自然環境)に配慮する具体的な取り組みをおこなっている
5.製品、商品、サービスの安全性が最優先事項と社内で認知されている
6.公開すべき情報と、守秘すべき情報が区別して管理されている
7.地域との共存を意識した貢献をおこなっている
8.公職(公務員、政治家)との接触は、関連法規を理解した上でおこなっている
9.反社会的勢力との従業員の個人的、組織的な接触はない

こういった内容について、すべてサプライヤーにやっています、対応しています=Yesと回答させるためには、まず自社がYes=やっている、対応済みでなければなりません。自社内でおこなう場合、すべて調達・購買部門で対応できる内容ではありません。だからこそ、このテーマで社内的に不備を感じたら、調達・購買部門から社内に発信しましょう。何か問題が顕在化すれば、企業として受ける被害は、ブランド、信用、金銭といった面で非常に大きくなるリスクがあるのです。

(おわり)

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