【連載】調達・購買の教科書~インフラ、非大量生産系(坂口孝則)
今回の連載は色塗りの箇所です。
<1.基礎>
売上高、工事原価、総利益(粗利益)
資材業務の役割
建設業法の基礎
技術者制度
下請契約の締結
<2.コスト分析>
調達・委託品分類とABC分析
取引先支出分析
注文件数とコスト削減寄与度分析
労務単価試算、適正経費試算
発注履歴使用の仕組みづくり
<3.コスト削減>
取引先検索、取引先調査
コスト削減施策
市中価格比較
価格交渉
VEの進め方
<4.取引先管理>
ベンダーリストの作成
施工品質評価、施工納期評価(取引先評価)、取引先利益率評価
優良表彰制度
協力会社の囲い込み、経営アンケートの作成
協力会社への上限設定
<5.仕組み・組織体制>
予算基準の明確化、コスト削減基準の設定
現業部門との連携
集中購買
業務時間分析
業務過多の調整
・注文件数とコスト削減寄与度分析
次に注文件数の分析を行います。これは一件の注文を、価格ごとにカテゴライズし、その年間件数と発注金額を見るものです。
縦軸には一件あたりの注文価格です。この分類を採用すると、100円のものを1個注文する場合と、100円のものを1万個注文する場合があるとすれば、違うカテゴリーに分類されます。なので、誤謬が生まれかねません。
ただし単価で分類するのは非常に煩雑になってしまうため、そのような注文個数の例外はあえて無視します。前述の通り、1個と1万個のケースは無視できるほど例外と考えます。そこで、もとのとおり、一件あたりの発注金額での分類をお勧めしておきます。
そして横軸は、その年間件数と、発注金額の総計と、それが全体の何%を占めるかを示したものです。100円のものをするときと1,000,000円のものを発注するときとは、発注にかかる時間が異なります。1,000,000円の場合はより多くの時間がかかるでしょう。しかし、ここでも単純に、注文件数の多さがそのまま労働時間につながっているとしましょう。
すると、発注金額の低いものに相当な時間がかかっているとわかります。すなわち発注金額でいうと、それほどでもないにもかかわらず業務のほとんどのウェイトを占めているのです。これがわかるだけでも。業務改善のヒントになります。
さらにその次に、それぞれの注文カテゴリーで、どれくらいのコスト削減ができたのかを見てみましょう。年間で、その金額領域で実現できたコスト削減額を集計してみましょう。さらに、そのコスト削減が全体に対するどれくらいの寄与度だったのかも見ていきましょう。
少額のものが時間も取られているし、さらにコスト削減の寄与度もほとんどなかったとすれば、それは省略、あるいは手間をさほどかけない対象となりうるでしょう。もっとも少額品のみ担当している人は、自分の業務をすべて省略することはできないかもしれません。ただ少なくとも、優先順位を考える時に高額品が全体のコスト削減の多数を占め、しかしながらなかなか力をかけることができない業務配分になっている場合は、見直す価値や意味はかなりあります。
たとえば、図の例でいえば、注目いただきたいのは、コスト削減率です。コスト削減率でいえば、少額品のコスト削減率が高いとわかります。もっとも高額のカテゴリーは2.2%にたいして、1円~の少額品は3%台です。
しかし、これは典型的な「率を見て額を見ない」病理です。寄与度を見てください。そうすると、コスト削減額としては、1,000,000円以上の高額品が、全体のコスト削減の43.5%を占めています。
率が高いからと注力してしまうと陥穽に落ちます。もちろん業務に熱中するのは良いのですが、さほど意味のない仕事です。それならば高額品にコスト削減に邁進したほうが良いはずです。
あなたはこのような分析は初歩的なものと思うでしょう。しかし、実際にはあまりに多くの企業がこのていどの分析をおこなっていません。まずは知ることが大切です。
ところで、悩むのが発注価格の区切りをいくらからいくらにするかです(前述の例でいえば、100,000円で切か、500,000円で切るかといった意味です)。
統計における、ヒストグラム作成の原則では、データの数の平方根で区切りとします。たとえば、年間1万件の発注をしているとすれば、1万の平方根ですから100分類しなさいということになります。そして、もっとも安い調達品が1円で、もっとも高い発注品が1,000,000円だとすると、その1,000,000円を100で割り、1万円ごとを区切り、表を作ることになるでしょう。
しかしながら、これはあくまでも統計的な処理をする際のヒストグラムの場合です。実務的に考えれば、100もの分類は、不可能ではないでしょうが、あまりにごちゃごちゃしてしまい、その後の活用につながりません。なによりも、美しくありません。したがって、よく取られるのは、発注品の特徴による分類か、あるいは決裁金額による分類です。
つまり発注品の特徴考えるに、「300,000円以上だったら特殊な工事である」とか、あるいは「1,000,000円以上だったら注意しなければいけない外注工事である」といった場合は、それらの区切を採用します。または「担当者は200,000円まで決済できるが、それ以上は課長決裁が必要で、2,000,000円以上は部長決裁が必要で、さらに10,000,000円以上であれば支店長決裁が必要である」といった場合には、その価格区切りカテゴリーに応じて発注品を分類する方がわかりやすいでしょう。
・単純作業への処方箋
なお、先ほど申し上げた通り、少額品が全体のコスト削減にほとんど寄与していないとわかった場合、どうすればいいでしょうか。その際、おもに三つの方向性があります。
●一つ目は、価格交渉自体を割り切って考えることです。もっといえば、価格交渉せずに伝票を右から左に流すだけだと、それはたしかに効率的かもしれません。ただし、とはいえ、難しいのは、取引先が「どんな金額でも承認してくれる」と思えば本来の価格の+5%+10%などと値上げされた見積書を提示してきます。意図的ではなくても、中長期的にはコストを安くはしません。
もちろん、そうであっても無視する覚悟もありえます。ただし、すべてを価格交渉しないのではなく、ある一定率で、抜き打ちによる価格査定するなどの方法が考えられます。
●そして二つ目に、取引先からの価格根拠が妥当であれば、それを深追いしない方法です。これは少額品の場合は、たとえば「以前の納入単価と同じだ」とか、あるいは「類似品と同じだ」とか、または「市中価格と同じだ」といったていどでかまわないので、見積書をもらうタイミングでヒアリングするのです。一言でいいので、その合理性が認められれば、それ以上は信頼をベースに承認します。
もちろん、自分で納入実績を見て承認してしまっても良いでしょう。すくなくとも取引先に聞いて承認する場合は、抜き打ち検査をすることです。そうすると、「ちゃんと見ているんだな」と取引先に思わせることができます。
●三つ目は、その低価格品の発注行為等そのものを外注化してしまうことです。外注化することで、取引先からの見積書入手やあるいは注文書の発行等の業務が軽減します。ビジネスプロセスアウトソーシングと呼ばれるBPO業者を使っても構いませんし、あるいは関係会社の力を借りて、シェアードサービスセンター(グループ会社間の業務統括企業)を活用することもあるでしょう。
実際に私が手がけたコンサルティング顧客の事例では、3万円以下の発注が手間はかかる割にはコスト削減に寄与していないわかり、そのすべてを外部に委託する戦略としました。
私が紹介した、この注文件数やコスト削減額の寄与度から見る分析は、もちろん一例です。自社の調達・購買機能が求められている役割によって、さまざまな仕分けが可能でしょう。しかしながら、この例だけでも、さまざまな施策が思い浮かぶはずです。
ところで、ときに「少額品であっても1円単位で大切に交渉することが大切だ」という考えをもつマネージャーに会います。私は、大変、この考えについて複雑な感想をもっています。というのも、私が現場の人間だったときは賛成でした。これは実感としても、1円を大切にしない組織は、100円も1万円も大切にできません。だから、どんな少額品であっても必死に交渉する姿勢は評価できます。
しかし、コンサルタントになってから、経営側にちかい立場のひとたちと接するようになると考えが変わってきました。なにかというと、そのバランスです。経営側も別に、1円を無駄にしてほしいと思っていません。しかし1円を大切にする代わりに、調達・購買組織はあまりに大事な何百万円をないがしろにしているのです。
その意味で、バランスを考えて、戦略を考えることが大切です。
(つづく)