緊急論考「紛争鉱物規制」は調達をどう変えるのか(坂口孝則)

・ドットフランク法と紛争鉱物規制のあらまし

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ここでは、簡単に説明する。当法はアメリカの金融規制改革法だ。そのなかで「米国紛争鉱物開示制度」が規定されている。「紛争鉱物の自社製品への使用状況をサプライチェーンをさかのぼって調査し、その結果を年次報告せよ、とするもの」だ。

・紛争鉱物
1.錫(スズ)鉱石 :合金、平板、パイプ、ハンダ、等に使用
2.タンタル鉱石 :携帯電話、コンピュータ、TVゲーム、デジタルカメラ、ジェットエンジン、等に使用
3.タングステン :ワイヤー、電極、照明、溶接機器、等に使用
4.金鉱石 :多くの産業・製品で使用

と定義されている。これら鉱物を「3TG金属」と呼ぶ。本来は、米国の上場企業が開示するものだが、彼らだけでは調べられるはずもなく、部品を納入する企業(当然ながら日本企業も該当する)が紛争鉱物の使用有無を調査せねばならない。コンゴ共和国、およびその周辺国(これらを「DRC諸国」と呼ぶ)で行われている紛争が、鉱物の不法採掘を通じて資金を得ているとされている。米国証券取引委員会は、米国各社にそれら鉱物の産地国や施設を開示するように依頼することになった。

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前回のメールマガジンでは、上記の調査フローの概要とともに、2013年に適用開始の可能性があると述べた。これから書くのは、それ以降の動向だ。まず、この法案は2012年8月に採択された。対象企業であるアメリカ上場企業は、1月31日から12月31日までの範囲で専用開示報告書を作りあげ、開示することになった。原材料の元を遡る面倒な作業を強いるため、実現不可能ではないかと思われてきたこのドットフランク法もついに陽の目を見ることになった。

たしかに、紛争鉱物の利潤がテロ組織の資金源になっている事実はある。データによって異なるものの、コンゴ民主共和国にいるテロ組織の資金源50~60%がこの紛争鉱物によるものだ。これを取り締まる主旨はよくわかるが、サプライチェーンにいるものとすればやっかいだ。

サプライチェーンに関わるひとびとは、QCDのみならず、原材料メーカーの地理的・政治的動向にまで目を配る必要が出てきた。

・3TG金属とDRC諸国、そして各社の対応

まずは、さきほどの紛争鉱物のうちDRC諸国が供給源になっている率を見てみよう。

・紛争鉱物
1.錫(スズ)鉱石 :5%
2.タンタル鉱石 :20%
3.タングステン :1%
4.金鉱石 :
2%

だ。もっとも問題はタンタル鉱物だろう。どんな企業でもタンタルコンデンサくらいは使っているはずで、この影響度は相当なものがある。

どれだけ各社の3TG金属対応が進んでいるのだろうか。米国の「The Enough Project」によるランキング表がこれだ(URLへ飛ぶ)。2ページ目の対応改善ランキングを見てみると、さすがアメリカ企業は上位にあるものの、中間レベルがソニー、東芝であり、キヤノン、シャープ、任天堂は下位にランキングされてしまっている。任天堂に関しては「Nintendo has made no known effort to trace or audit its supply chain.」とまで書かれている(!)。

もちろん、この調査結果がただちに売上に影響はないと思う。ただ、サプライチェーンが対外イメージに直結する可能性を示している。また、他の団体のスコアでも日本企業は総じて低い(URLへ飛ぶ)。

では、どうすれば完璧な調査なり対応ができるのだろうか。残念ながら「これ」という決め手がない。よって、今回は素直にわかる範囲だけを記述しておく。

まず、DRC諸国といっても、具体的にどの地域がダメで、どの業者を使ってはいけないのだろうか。たしかに紛争のマップは出ている(URLへ飛ぶ)。しかし、わかりにくく。これが最新版であると信じても、最終責任は企業が負う。

では、あらかじめ紛争と無関係であると認定されたサプライヤはいないだろうか。これも同じく製錬企業がリスト化されている(URLへ飛ぶ)。このページは簡易的な規約承認が必要だ。その後、リストが出てくる。タンタルタングステン(!)、スズ(!)は、それぞれリンクを貼っておいた。

とまあ、繰り返すと、完璧ではないものの、これらのリストで「あたり」をつけたうえで地道に調査するしかなさそうだ。

・3TG金属の調査

まず前述の図を元にするのは変わらない。ただ、多くの読者の企業は米国企業ではなく(たぶん)、あくまで米国企業へ納入する立場、あるいはティア2として出荷した製品が最終的に米国企業へ納入される立場と想定した。

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部品の一つひとつについて3TG金属使用の有無、そしてDRC諸国が原産地であるか否かの調査は欠かせない。そのあと、残念ながらDRC諸国からの供給とわかったら、まずはサプライヤに原産地を変更できないか働きかける。そして、それが難しい(現実上、変更できない)見込みであれば、自社エンジニアとともに代替部品の検討に進む。

もちろん、「DRC諸国から3TG金属を調達していました。改善もできません」と答える勇気あるサプライヤは少数だろうから、該当する場合は「無回答」「無言」になっているはずだ。そこで、調査が進まない場合は、これまでの信頼・実績と照らしあわせて、「さらに突っ込んで調査すべきサプライヤ」を規定する必要がある。

気の遠くなる作業が予想されるものの、また業界内での情報共有も望まれる。電機や自動車の一部に、業界団体として情報を共有化しようとする動きがある。特に電機業界は早かった。

ただし、小規模サプライヤにとっては、これら調査は追加コストにほかならない。CSR調達とは、短期的にはコスト増でもある。調査の早さや、調査に耐えうる体質を持っているかも、もしかするとサプライヤ選定のファクターとなりうるだろう。

そして、新規製品の部品やサプライヤ選定においても、3TG金属の使用有無調査を失念してはいけない。可能であれば、仕様書のなかにDRC諸国3TG金属の使用不可を謳うように、調達部門から開発部門に申し入れたい。また、調達ガイドライン(あるいはCSR調達ガイドライン)としてサプライヤにあらかじめ配っておくのも手だ。

・そしてさらに先へ

現在、「エシカル(ethical)プロキュアメント」なる言葉が流行している。「倫理的な調達」とでも訳せばいいだろうか。倫理を守った調達。それは、人権、国家、フェアトレード、労務問題……さまざまに及ぶ。これまで私たちが接したことのない領域まで把握せねばならない。その象徴として、今回は「紛争鉱物規制」が変える調達を述べた。

しかし、これらは文字通り「象徴」だ。同様の法令はドットフランク法だけではなく、米国州法にも展開されているし、EUROに広がっていく可能性がある。EUROといえばRoHS規制(規定量を超えた鉛・カドミウム・水銀・六価クロムの使用を禁じたもの)で有名だったけれど、RoHS規制はあくまで物質名調査だった。その一方で、政治的要因の強いドットフランク法等々は、原産地把握という未踏の地に誘う。

ティア構造の把握とは、BCPだけのものではなく、またコスト構成の把握だけではなく、企業存続に関わるコア情報となりつつあるのである。

 <了>

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