ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
●社内関連部門とのコラボレーション力6~営業部門
営業部門と調達購買部門は、社内の業務プロセス上、少し遠い存在になります。しかし、調達購買部門の業務も、営業部門が顧客へ販売して成り立っています。直接業務には影響せずとも、営業が認識する市場動向は注視が必要です。
企業は下の図のように、2つの市場に接しています。下の図では、表現上、市場を2つ表現しています。当然2つに表現された市場には繋がりがあります。したがって、調達購買部門からの市場だけでなく、営業部門の目を通して見た市場からも、示唆に富んだ情報を得られるはずです。
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●サプライヤーの営業担当者は受注見通しに興味を持っている
サプライヤーの営業担当者の興味は何でしょうか。
1. 当面の売上が確保できるかどうか
2. その売上に伴い、適正な利益が確保できるかどうか
3. 将来的にどのくらい受注できそうか
以上、3つのポイントにサプライヤーは興味を持っています。短期的な見通しは、バイヤー企業の生産管理部門によって立てられた生産計画によってサプライヤーにもたらされます。しかし、中長期的な見通しとなると、どこから情報を得れば良いでしょうか。それは、バイヤー企業の営業部門が持つ、中長期の販売見通しを活用します。バイヤー企業の営業部門が持っている情報は、そのままサプライヤーに具体的な発注量を提示するものではありません。その内容は、あくまでも可能性を示すものです。そのような前提で、サプライヤーと共に将来のビジネスを考えるネタとして活用します。ビジネスのネタとは、最初は曖昧でつかみどころがないものです。しかし、自社だけでなくサプライヤーとも共同して、将来的なビジネスを探し出す取り組みこそ重要なのです。
サプライヤーマネジメントの一環としておこなうサプライヤーミーティングでは、調達方針や技術ロードマップと並んで、営業戦略もサプライヤーへの説明に加えます。サプライヤーの興味へ答える意味はもちろん、バイヤー企業全部門で、サプライヤーへの対応を行っている姿勢、サプライヤーを重要視している証を示します。
営業部門からの説明内容は、調達購買戦略と整合性を保たなければなりません。実際の説明内容は、事前に確認が必要です。特に、主張のポイントは内容の整合性を保ち、調達購買部門の主張の裏付けとして活用します。
●中長期的なサプライヤーとのリレーション構築
営業から入手した中長期の受注見通しは、調達購買部門にとっても、どのようなサプライヤーを確保していくかの重要な指針となります。サプライヤーも目の前の短期的なビジネスだけでなく、中長期のビジネスプランを立てているはずです。バイヤー企業として中長期の経営計画の見直しをする際、サプライヤーとの将来的な事業の方向性を討議する場を持ちましょう。その際には、バイヤー企業として実際購入している事業だけでなく、サプライヤーの全事業に関する方向性を確認します。最近ではサプライヤーも、ある製品や加工技術だけに特化しているケースは少ないでしょう。現時点では購入していないもの、複数のリソースを持っている場合が多いはずです。普段、目の前の仕事に集中している分、年に1~2回程度は、じっくりと時間をかけて、過去と現在だけではない、将来的な関係の方向性を見いだします。時間と将来像の共有が、中長期的な関係を築いていくうえでは重要になってきます。
両社がいきなり将来を語る場を持ったとしても、なかなか話が盛り上がるものでもありません。したがって、次の様なステップを踏んで、個々のサプライヤーと将来的な方向性を確認します。
(1) サプライヤーミーティングや、サプライヤーを訪問時に、バイヤー企業の中長期的な展望を含めた営業戦略を説明する。
(2) 説明内容にコメントを受ける形で、ヒアリングを行う
(3) 説明内容に合致するサプライヤーの活用方針を、調達購買部門から説明する。
(4) サプライヤーの営業戦略とのマッチング度合いを確認する
このような取り組みは、一度行って効果的な成果を生み出すことは、少し難しいかもしれません。何度かおこなってみるのと同時に、サプライヤーのマネジメントサイクルをヒアリングして、どのような時期に開催するのが効果的なのかも確認します。
●競合他社情報
自社の営業が、どんな企業と競合しているかを認識していますか。市場で競合するのは、営業部門だけではありません。調達購買部門のアウトプットも、競争力を構成する重要な要素です。社内の各部門の力を総括した力が、社全体の競争力になります。自社よりも優位性がある競合他社の強さの源泉はどこにあるのか。強さの要因を分析する場合、競合他社が取引しているサプライヤーの強さが影響している場合があります。そのような場合は、営業からの情報を活用して、自社のサプライヤーにも同じような優位性の確保を促します。加えて、競合他社のサプライヤーへアプローチして、自社との取引の模索も必要です。自社のサプライヤーの取り組みが思わしくない場合には、思い切って競合他社のサプライヤーとの取引を開始して、自社の不利な要因を取り除きます。
<つづく>