短期集中連載!バイヤーのトラブルシューティング 4(牧野直哉)
今回が最終回です。これまでバイヤーが直面するおもに納期、品質のトラブルに関して、対応方法についてお話をしてきました。今回は品質トラブルについて、発生直後の緊急回避的なトラブルの解消が行われた後、恒久的に再発防止策をどのように行うのかについて考えてみたいと思います。
品質や納期とは別問題ですが、昨今サプライヤーの能力不足、そして需要拡大によって、購入品の確保にご苦労されているバイヤーも多いと思います。現在、調達環境としては、あまり良い状況ではありません。こういった局面では、サプライヤーの納期、品質に関するトラブルも発生しがちです。トラブルへの対処は、比較的どんなサプライヤーであっても対処されるでしょう。しかし、恒久的な再発防止策の設定は、厳しい調達環境のもとでは、抜本的な対策が行われない可能性があります。
というのも、多くの場合、特に品質トラブルでは、その対応策がコストアップにつながるためです。確認項目を増やしたり、新たな対応策を設定したりといった面で、サプライヤーに対して新たな費用負担を強いるケースが多くなります。
もちろん、そういった要求内容が、もともとバイヤー企業を要求する購入内容に含まれていれば、一方的なサプライヤー負担で実現する可能性もあります。バイヤーとしては、トラブルの対応に新たな購入価格のアップといった事態は避けたいと考えるでしょう。しかし、そういったバイヤーの都合を一方的に、そして過度に押し付ける姿勢は、後々に新たな問題を誘発する可能性があります。
ここで発揮しなければならないのは、バイヤーの適切なバランス感覚です。もちろん、サプライヤーの責任において確保しなければならない品質はあります。当然、そういった要求を発注する前に行っているのが、目指すべき調達・購買業務の姿です。したがって、バイヤー企業として新たな費用負担はできないと考えるのもやむを得ません。しかし、事前に十分な確保しなければならない品質に関する情報提供が行われていたかどうか。要求内容に盛り込まれていたかどうかは、バイヤーとして最低限確認しなければならないポイントになります。
また、サプライヤーの責任による新たな費用負担であったとしても、その内容をしっかり掌握しなければ、将来的にサプライヤーのバイヤー企業への受注意欲に影響を及ぼします。例えば、直接的な品質問題ではありませんが、昨今のCSR調達意識の高まりによって、有害な原材料の有無の確認や、労働環境の確保、法令順守状況の確認といった内容は、サプライヤーに新たな負担を強いる結果になります。バイヤー企業が大企業であれば、関連部門の取り組みに沿う形で実現できている内容も、比較的リソースが乏しい中小企業であれば、バイヤー企業の窓口である営業パーソンの新たな負担になり、サプライヤー側で一体誰が対応するのかといった問題を引き起こします。
本質的には、品質問題の解消もCSR調達の実践も、サプライヤーに応分に費用負担してもらい実現すべき内容です。問題は「応分」の考え方です。バイヤー企業からも多額の発注を行っており、サプライヤーにとっても大手顧客になるような取引関係が存在すれば、ビジネス上の付き合いの範囲でこういった問題に対処可能でしょう。問題は、発注金額もさほど多くなく、サプライヤーにとってもさほど重要ではない取引関係の場合です。取引額の多寡にかかわらず、品質問題やCSR調達の実践には、コストが発生します。そういった負担を、果たしてサプライヤーに求められるのかどうか、特にサプライヤーの生産能力が不足している今、厳格な判断がバイヤーに求められています。
品質問題の恒久的な解消に際しても、サプライヤーとの関係性が取引額を含めどのような状態にあるのかとの正しい前提認識がなければ、後々の取引関係に大きな影響を及ぼします。バイヤー企業にとって最も避けるべき事態は、従来であれば問題なく納入を受けられたサプライヤーからの取引解消です。問題の発端がサプライヤーにあったとしても、過度な要求を行った場合、サプライヤーがバイヤー企業とのビジネスのモチベーションを失い、よりビジネスのやりやすい顧客にフォーカスして対応するといった傾向はいま、発露しやすくなっていると言えるのです。
本来あってはならない品質問題が発生した場合、担当するバイヤーも後ろ向きな仕事が発生し、時に感情的に対処してしまうケースもあるでしょう。しかし、品質問題に関しては、発生直後の緊急避難的な対応、そして問題が解消された後の再発防止策の設定のいずれにおいても、対象となったサプライヤーとの取引関係を踏まえた冷徹な判断は欠かせません。特に昨今、サプライヤーの生産能力確保に一抹の不安がある場合には、取引関係の解消といった動きにサプライヤーが出る可能性を踏まえて、新たな対応の要求を行いましょう。最も避けなければならないのは、自社の購買力を過度に盲信して、サプライヤーへ一方的な対応の強制です。自社の購買力を有効に活用するためにも、サプライヤーとの関係性を正しく認識して、本来の目的である再発防止の徹底を図る必要があるのです。
(おわり)