連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2033年②>

「2033年 30%超が空き家へ」
本格的な空き家時代に、空き家を減らしたり、空き家を活用したりするビジネスが勃興

P・Politics(政治):空き家対策特別措置法など、空き家減少のために国家ぐるみで取り組むようになった。
E・Economy(経済):空き家が増えるにもかかわらず、賃貸物件は建設が続き、負の遺産になる可能性が大。
S・Society(社会):団塊の世代が死亡するとともに、不動産等を相続しないケースが頻発。
T・Technology(技術):インターネットのマッチングサービスを使った民泊などが空き家を活用できる。

空き家は2033年には30%を超える。そのいっぽうで賃貸物件は建設が続く。日本では投資金額にたいして、資産価値が目減りしている。おそらく相続放棄が傾向となり、持ち主の分からない空き家が増えていく。
空き家情報を共有したり、相続を簡易化したりする必要がある。同時に空き家を活用するため、民泊やコミュニティ・シェアハウスなどの取り組みが重要だ。

・土地を相続しない理由

土地の所有者が鬼籍に入り、相続人が継ぐ。そう考えれば、所有者が不明とはわかりにくい。しかし、意外に知られていないことに、相続登記は義務ではない。正確には、表題部と権利部があり、前者が現況を示し、後者が所有権等の登記事項だ。その権利部について義務がない。

私の父親が土地を相続した際に眺めていたが、あまりに煩雑な手続きで、かつ費用がかかっていた。これであれば、相続を放棄するケースが頻出するだろうと感じた。実際にそうなっている。

右肩上がりの時代であればまだしも、人口減少で地下の上昇を示す予想がたたない現代では、土地などを資産として有しない選択肢が有利となるだろう。しかも、地方から都市へ人口が流れ、そして故郷に戻らないひとたちが増えれば増えるほど、実家は使われないまま放置される運命にある。

さらには新耐震基準施行前の住宅であれば、住むためにも、新たに補強工事が必要だ。そのリノベーション費用は誰が出すのか。出せない、あるいは、相続対象の兄弟夫婦で意見が違う、などさまざまな事情がからみ、空き家は放置されていく。

そして更地にしましょうか、と思えば、100万円ほどのコストがかかる。住宅材の不当廃棄はもちろん許されない。だから空き家には親類誰もが近寄らず、問題化していく。再利用のできない状態で放置される。老朽し、危険性が高かったとしても、崩せない。

行政代執行により、行政が撤去し、その費用を請求できる。ただ、想像つくように、費用は回収できず、さらに裁判リスクもある。

・空き家問題を加速する諸問題

くわえて問題は、一部の不動産会社が土地所有者に、マンションの建設を進めることだ。固定資産税の軽減と、そして家賃収入を囁く。しかも、その家賃収入は保障される。さらに管理も丸投げできる。実際に、土地だけにするのではなく、宅地のほうが固定資産税は安くなる。もともと高度成長期に、住宅の増加をねらった制度だ。

しかし、実際の契約条件として、数年のみの保障であったり、あるいは定期的に保障額が見直されたり、さらにはリフォーム時には指定の業者しか使えなかったりする。そして、しばらくすると誰も借りなくなり、がらんとしたマンションだけが地方に残っていく。

そのいっぽうで、では息子娘たちも土地を相続しない、と考え、いまのうちに寄付でもしたらどうだろう。実はそれも難しい。

土地というのはやっかいなもので、手放そうと思っても、買い手がつかなければ実はどうしようもない。完全に放棄して、自治体や国に提供すればいいと思う。しかし、国に提供や寄付しようと思ってもできない。利用する目的がないと、受け入れられない。ややわかりにくい日本語ではあるものの財務省の正式回答によれば、「寄附者の自由意志によると言われる場合においても、その性質上半強制となる場合が多く、或いは国民に過重の負担を課することとなり、或いは行政措置の公正に疑惑を生ぜしめる恐れなしとしない。」(http://www.mof.go.jp/faq/national_property/08ab.htm)としている。

・国土交通省の必死な取り組み

国土交通省は、空き家バンクを試みている(http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/juutaku_seisaku/pdf/akiya_renrakukyogikai_21.pdf)。全国の物件が掲載され、消費者が検索できる仕組みだ。ただ、もちろん、これから、ともいえるが、市町村・自治体のアンケートによると、成立件数が0と答えたのは23.5%におよび、1~4件とささやかな件数の比率とあわせると、全体の50%を超える。まだフル活用にはいたっていない状況だ。

さらに国土交通省は、2016年に「DIY」を用いて、新たな進言をおこなった(http://www.mlit.go.jp/common/001127624.pdf)。「DIY型賃貸借のすすめ」だ。個人住宅の賃貸流通を促進するためのもので、借り主が自分好みの改修をし、持ち家のように居住できる。契約書を交わす必要はあるものの、これなら、貸し手は負担なく住居を提供できる。
これと、中古住宅市場の拡充も求められる。日本は、中古で物件を購入しようとするより、新築で建てようとする。イメージの払拭とともに、情報バンクの充実も重要だ。

2015年には空き家対策特別措置法が施行された。所有者の確定のために固定資産税の納税情報を活用できる。さらに法務局では登記手続きを簡易化した。ただ、前述の理由によって、納税しているひとが誰かはわからず、所有者ではないかもしれない。

自治体も含め、絶対的な回答のないなか、きたるべき空き家率30%の時代が近づこうとしている。

・空き家のもたらす社会

そもそもなぜ空き家がいけないのだろうか。空き家が多いと自治体のイメージが悪くなる。ただ、それ以外の実害も多い。空き家からの庭木が隣家に伸びる。あるいは屋根が落ちて、飛ばされて、隣人に怪我をさせる。倒壊する。また空き家で窃盗が行われる。

あるいは不審な居住者が現れたり、放火魔が現れたりする。害虫や動物が侵入し、周囲に悪影響を及ぼし、また衛生上の問題もある。

このまま空き家と過疎が続けば、公共インフラの提供は難しくなるだろう。電気については指摘したが、水道なども問題となる。民間でも、コンビニも撤退を余儀なくされるし、その他、スーパーなども採算があわなくなる。

それにしても、愛と憎しみ、光と影、といわれるように、かつて個人資産の頂点にあった不動産と建屋が、もっとも価値がなく相続したくなくなるとは、なんという皮肉だろうか。このところ、地方を外国人が買っていくと、批判される。ただ、有効活用ができそうにもない土地は、どうすればいいだろうか。

・空き家とビジネスチャンス

中古でもっとも日本人に売買経験があるのは書籍だ。では、中古書籍ビジネスから、何かヒントがつかめないか。中古本は、なんでもそのままダンボールに詰めて送るだけのものがある。付箋が貼ってあろうが、書き込みをしていようが、その状態で査定してくれる。価格が低くても、時間を考えると、じゅうぶんに割に合う。

そこで、家を回収し、それをリノベーションし、さらにたとえ二束三文であっても、現金化するビジネスが考えられる。つまり、売り手は相続した家を、まったくそのまま業者に渡す。業者は難解な手続きを代行してくれ、そして、家内ゴミの処理から、売却先探索までワンパッケージで行う。親が死んで相続するときに――思い出、という問題は残っているものの――、そのまま業者に渡し、振り込んでもらうサービスだ。

また、空き家問題のいくつかが、その手続の煩雑さにある。法務局では登記手続きを簡易化した。といっても、実際に高齢者には難しい。手続きを容易とするような代理サービスの拡充は必要だろう。

・空き家をコミュニティに昇華できるか

あとは、もういうまでもない民泊として空き家を活用する方法がある。現在は細かな制約があるので、全面展開は難しい。ただ、空き家なので外国人を呼んで地域活性化につなげることは可能だろう。

また、実験的なコミュニティを、空き家活用で開始してもいい。たとえば、現在、孤独死が問題なので、近くの老人が集まって生活する、高齢シェアハウス。あるいは趣味人が集まり、タダ同然で住んでもらうシェアハウス。または、外国からの企業を誘致し、民家をタダで使ってもらう方法もあるだろう。

空き家は社会問題だ。しかし、人口減の局面においては、必然ともいえる。また、かつて誰もがほしがった資産が、いまでは使い放題ともいえる。実際に地方自治体のなかには、タダでもいいので住んでくれるひとを募集している。アイディしだいの時代ともいえるだろう。

<つづく>

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