ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●2-7 調達購買のあるべき組織論

近年、調達購買部門の組織を強化する企業が増えてきました。「組織がどうあるべきか」の答えは一つではありません。それよりも、調達購買部門のさまざまな業務の中で、どんな機能に焦点を当て組織を強化するかが重要です。組織の性質は業務の進め方にも大きな影響を及ぼします。1つ言えるのは、組織的に強化されているからには、その明確な根拠が存在します。これまでも再三述べていますが、調達購買部門は近年より大きな課題に直面しています。一方到来する課題の増大に伴って、調達購買部門、バイヤーへの負荷も高まっていますが、人員増強はおこなわれません。近年の調達購買部門における組織強化の目的は、限られた人員の有効活用と言えます。そんな背景を踏まえて、ここでは調達購買部門における一般的な組織のあり方について考えてみます。

☆集中か分散か

これは、複数の事業所や工場を同一企業内に抱えている場合を想定して考えます。本社機能の中に調達購買部門をもって、各拠点は本社調達購買部門の出先とするのか。それとも、各拠点に本社の調達購買部門と同じ機能の調達購買部門を持つのか。この場合、組織的には、前者を「集中組織」、後者を「分散組織」とします。

「集中組織」が良いか、それとも「分散組織」が良いか。それぞれ一長一短があり、一概にどちらが優れているとは言い切れません。しかし、最近の動向としては「集中組織」が増加しています。これは、一製品もしくはサプライヤー1社あたりの購入量を、集中して大量に購入している状態を演出し、価格的なメリットを引き出す狙いを持っています。しかし、集中組織には注意が必要です。そもそも、ほんとうに同じもの、あるいは類似するものを地理的に分散する場所で購入しているかどうかを、事前に確認しなければなりません。

サプライヤー側も事業を多角化し、製品のバリエーションを増やしています。異なる事業所や工場では、同じサプライヤーであっても、まったく異なる製品を購入しているかもしれません。バイヤー企業側の都合で集中化による購入量の増大を、サプライヤー側が同じように認識してくれるかどうかは、重要なポイントです。また、複数の事業所や工場ごとに異なった背景を有する購買活動を、一カ所、一担当者に集中しておこなう場合、集中して購買活動をおこなう担当者には、 もともと購入していた担当者と経緯の共有化が不可欠です。

このような窓口の集中では、社内に複数ある同じサプライヤーの窓口の中で、どこに集中させるかも重要です。購入金額が大きな窓口が、他の窓口の購入分をまとめて対処する方法がもっとも社内的にはフェアーです。しかし、集中する際はどうしても「本社」となる傾向が見られます。この場合は、各窓口の購買力を本社で奪うわけですから、しっかりとした仕組みを本社と事業所・工場間で共有し、統一感を持ったサプライヤーへの対処が不可欠です。集中するといいつつ、窓口ごとに発言がバラバラでは、まずサプライヤーが混乱し、集中した効果が失われてしまうのです。全社で組織的な一体感、意思の集中がなければ、成功しない取り組みです。

☆サプライヤーリソースか、自社製品か

どのポイントを強化した調達購買部門を目指すかを考えるうえで、

(A)サプライヤーのリソースにフォーカス(商社かメーカーか。メーカーであれば、完成品か加工外注品かといったサプライヤーのリソースごと)した組織
(B)自社の販売製品ごと(自社の製品毎、販売ライン毎)の組織

といった点を考慮する必要があります。

(A)サプライヤーのリソース毎に集中した組織を構築する⇔価格的なメリットあり
(B)事業別組織⇔販売製品毎に調達購買の機能を持つ⇔市場変化に機敏に対応

となるのです。

調達購買部門として優先事項はなにか。ポイントは、すべてを優先事項とすることは避けつつ、どんな機能にフォーカスするかの決定です。その上で、優先事項から外れた機能をどのようにカバーするのかも合わせて検討することが必要なのです。

☆調達購買部門内に必要な新しい機能

サプライチェーンの重要性が企業経営者層にも認知されるようになり、調達購買部門にも従来になかった成果が期待され、実際に組織に反映されている例もあります。

例えば、情報システム機能を調達購買やサプライチェーン内に持つケース。これは、調達購買業務の効率化には、所属するバイヤーにとっても、サプライヤーにも、関係の深い情報システムが有効かつ、効率的に機能しなければならない必要性からです。

また、調達購買部門に品質管理機能を置くケースも増えています。顧客の品質要求が高まる今日、不良品がサプライヤーから社内に流入するのを防ぐ効果があります。

加えて、環境の持続可能性を確保するために、化学物質管理、二酸化炭素排出量管理を、サプライヤーまで含めたサプライチェーン全体で管理が求められています。サプライヤーを含むサプライチェーン全体での取り組みとして、調達購買部門が対応を余儀なくされています。近年の環境や人権への配慮に代表されるCSR調達の実践は、企業のブランド維持には不可欠な対応です。組織論は、こういった時代の要求に答えるために必要な機能を踏まえて考える必要があるのです。

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(つづく)

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