シングルソースサプライヤに対処する方法(牧野直哉)

前回に引き続き、シングルソースサプライヤによって引きおこされる自社および、企業経営へおよぼす悪影響を考えます。

③バイヤー企業が満足する不具合原因究明がおこなわれない

シングルソースサプライヤで、購入対象が市場でも優位性を発揮している場合、不具合の解消はおこなわれても、発生原因の究明がおこなわれない場合があります。通常不具合が発生した場合、購入品を修理し交換した上で原因究明をおこない、再発防止策を実行して、不具合発生にともなう一連の対応が完了します。しかし、サプライヤがおこなった一連の対応の結果、バイヤー企業や、バイヤー企業の顧客が「納得できない」事態はどうなるでしょうか。発生した不具合が特異だったり、使用環境が事前想定と異なる可能性があったりすると、サプライヤは修理もしくは代品提供もおこなったから、これ以上の対応はしないのです。

「納得」する/しないは、大きな問題に発展する可能性を帯びています。納得できないから、満足には程遠い状態です。先週大きな動きがあった舛添東京都知事の問題も、支出内容に政治資金規正法には違反していませんでした。しかし不適切であると第三者の弁護士から指摘されました。法律的には「シロ」です。しかし有権者からすれば「納得がいかない」となり、舛添さんの厚顔無恥な対応も手伝って、辞職に追い込まれました。顧客や社内関連部門の納得が得るために、サプライヤを動かすのが調達・購買部門の責任だ!と声高に主張された経験をお持ちの方もおられるのではないでしょうか。

こういった事例は、購入した後に露見します。シングルソースサプライヤでなくとも、顧客や社内関連部門の「期待」と、サプライヤの「対応」の間で板挟みです。したがって、購入する前に不具合発生時の取り組みに関して、具体的な対応方法を確認します。サプライヤ採用時や、継続審査時の評価内容に加えるとともに、購入契約の条件には、原因究明をおこない、再発防止までサプライヤの責任である旨を明確に記載します。シングルソースサプライヤで、サプライヤの販売力が強い場合、いくら原因究明を求めても、不具合の解消で対応が終わってしまうのです。筆者の経験では、代品提供のみがサプライヤの責任であり、関連して発生する費用も負担しない旨を明確に主張したサプライヤもいました。

日本企業の場合、こういった点は紳士協定的に「お互いが誠意をもって対処し、解決に努める」といった内容で合意する場合もあるでしょう。しかし、シングルソースを背景にして、不具合対処について明確な対応範囲を規定している場合、やはり事前に特別な対応が必要です。シングルソースなサプライヤである場合、短期的には調達・購買部門が独自で事態の解消を図るのは困難です。したがって、営業部門に対して、顧客との契約にもサプライヤとの合意せざるを得ない内容の反映を申し入れます。営業部門からは、そういった一方的な要求は顧客に受け入れられない反応が容易に想定できます。その場合は、なぜシングルソースになっているのかを追求します。顧客も認めるほどにシングルソースになってしまっている根拠が明確になっている場合、購入を継続するなら顧客との合意は無理でも、現在の不具合対応の条件を周知します。サプライヤと合意せざるを得ない条件によって生じるバイヤー企業のリスクを顧客と共有するのです。

バイヤー企業に不利な条件を明らかにして、シングルソースサプライヤとなってしまっている要求内容を見直す「きっかけ」になる可能性もあります。そもそも調達・購買部門がおこなう外部企業からの調達は、社内の複数の部門から出される条件が合わさった総意によって実行されます。自社の業績拡大のためには、社内総意である条件を実現可能なサプライヤを探すのが調達・購買部門の責任です。しかし、優先順位の高い条件を実現するために、その他の条件を犠牲にする事態も想定内です。できるだけ、犠牲にする条件を少なくする取り組みを、社内全体でおこなうために調達・購買部門は主導性を発揮しなければなりません。

④他部門の負荷の増大

シングルソースサプライヤが提示する条件によって、自社の要求内容が受け入れられない場合、バイヤー企業側でさまざまな調整を強いられ、結果バイヤー企業の社内工数、例えば設計工数が大きく増加する事態も想定されます。接続方法や、取りあいの形状、寸法といった点です。

こういった問題は、購入要求部門の希望ですから、調達・購買部門は考慮します。そういったニーズには耳も傾けます。しかし、手間と、ともなって発生する時間によってシングルソースサプライヤとなっている場合は、内製化してサプライヤ選択の幅を広げた場合と、シングルソースサプライヤ状態の費用対効果の比較を調達・購買部門でおこなって、バイヤー企業の業績にどちらが貢献しているのかを数値で判断できる内容を準備します。こういった取り組みは、結果的に社内の主張の妥当性を確認する重要な意味もありますし、シングルソースサプライヤ状態にいたる理由の明確化にもつながります。購入品は多くのサプライヤによって実現できるものの、バイヤー企業の、副次的な要求を実現できるサプライヤが1社である場合、そのサプライヤを採用し続けるのかどうかを、的確に判断します。

<つづく>

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