転職を考えない人が読む「転職」のおはなし(牧野直哉)

「怖い!」 前職から現在の勤務先へと会社を変わる前に、私が抱いていた転職へのイメージです。

私は日本の大手製造業から、米国系のおなじく製造業へと会社を移りました。実際に経験してみて、転職に感じる「怖さ」はどうなったか。やっぱり怖い、慣れるものではありません。現在の勤務先から、他の企業へ転職を考えると、同じように不安を持っています。人は安定を求めますね。きっと、今転職を経験して、新しい会社で新たな安定を得たのでしょう。転職して良かったな、大成功とすら思えます。それは、もちろん自分の力だけで勝ち得たものではありません。

これから、なぜ私の転職が成功したのかについて、その原因を探った内容をお伝えします。日本の大手製造業から外資系企業への転職は、日本の製造業の現状を考えるとき、今後増えることはあっても減ることはないでしょう。また、私は調達購買部門でのキャリアを武器に現在の会社への転職を実現しました。しかし、転職の過程を振り返ってみると、実は調達購買部門における主要業務での経験・実績だけでは現在のポジションは実現しなかったことがわかりました。そして、いわゆる世間の転職に関する常識には、極めて疑わしい内容があることも体感してきました。

前書きであえて本書の結論を書くことにします。転職、特に従来の終身雇用制度を持つような日本企業にお勤めの方にとって転職とは、自分の人生の進むべき道の決定権を、自らに取り戻すことです。これから述べるようなことを経た上で、最終的に転職しないという結論も、もちろんありです。転職について巷で話されていることで、一つ大きな間違いを指摘します。現在の勤務先ではたらき続けることが「楽(らく)な道」で、転職が「茨の道」という大きな誤解です。もし「楽(らく)な道」と感じているのであれば、それは大きな過ちです。「楽(らく)な道」ではなく、「楽(らく)な未知」です。自分がどうなってゆくのかわからない未知の世界で、でも先人たちと同じような道を進むことができるとの考えは、すでに妄想です。今も、そしてこれからも、勤め続けること、転職することのもどちらも茨の道です。どうせ厳しい道なら、自分で選んで、自分の意志で歩きたい。未知の怖さを、見通したいとの意志で克服したいのです。

「克服」と書くと、なにか困難さを思い起こしますね。しかし、これから述べることに、そんな難しいことは書いていません。そもそもズボラな私ができたことです。誰もができることです。一緒に人生の進むべき道を自分の手に取り戻しませんか。

1. 転職してはならない転職理由

冒頭に、転職に対して「怖い」というイメージを持っていたと書きました。転職に関する「怖さ」とは、転職のプロセスの中で、克服してゆくべきものです。しかし「いざ、転職!」と思い立った理由によっては、克服することなく「勘違い」で転職を進めてしまい、最終的には人生を誤ってしまうことになります。「人生を誤る」ことの典型的な例は、転職をくり返してしまうことです。実力を兼ね備えた人に、転職の回数は関係ありません。しかし、転職回数が多く、かつ責任あるポジションを獲得する人は、例外なくプロフェッショナルとよべる非常に高度なスキルをもっています。高度なスキルについても、後で述べるとして、ここでは以下に当てはまる人は、現在の勤務先でやり残した事があります。やり残しをやりきってからでも、転職は遅くありません。それでは、具体的な例と共に述べてゆきます。

(1) 現在の勤務先の不満が基点の転職

人間関係であったり、業務内容、そして受けている処遇だったり、現在の勤務先に100%の満足している人は少ないでしょう。当然、私も以前の、そして現在の勤務先にも満足はしていません。無駄な時間だとは思いつつ、気の合う、志を同じくする同僚とは、愚痴を言い合ったりします。でも、今の勤務先に感じる不満によって、転職するとの帰結に至ることはありません。これは、不満のとらえ方の問題です。

現在の勤務先への不満とはどのような内容でしょうか。不満ですから、なんらかの問題ですね。問題は解決すべきものです。解決への取り組みを十二分におこなったかどうか。問題の根源を、勤務先だったり、同僚だったり、自分以外の責任にしていませんか。断言できるのは、現在の勤務先へのなんらかの不満の基点に転職を思い立つ場合、運良く転職を実現したとしても、同じ不満を持つことになります。理由は、不満を問題化して、自分で解決にむけた取り組みをおこなっていないことです。問題解決のスキルが欠如している、そう考えるべきなのです。不満を持つのはやむを得ません。しかし、それを問題化して、解決するために具体的に取り組みをおこなったかどうかがポイントです。そんな経験の有無は、実際の転職活動におけるあらゆる局面で、如実に転職者の実力として表われます。

私は、これまで大学新卒、中途の両方で、採用活動に携わってきました。不満が基点になっている候補者は、すぐにわかります。漠然とした不満を、問題として扱う分析・理解能力。そして、なんらかの阻害点を見つけ出して、改善する問題解決能力が徹底的に不足しているのです。

転職者を企業が求める場合、求めるものはなんでしょうか。同じく企業に就職するための活動ですが、新卒の採用とは徹底的にことなる点があります。新卒の場合、基本的には基礎能力と可能性で判断します。新卒者に求められないのは、実務における経験であり、実績です。転職、中途採用の場合は、現在の勤務先での仕事をどのように進めてきたのか。今の仕事を、エピソードの中からどんなことを実行してきたのかをアピールする必要があります。もちろん数値的な実績も重要です。しかし数字は、勤務先の規模による要因もあります。したがって、自分を主語にして、どのような問題に対して、どのように改善を施して、解決してきたのかが重要なのです。不満を基点にしているということは、そもそも問題解決への取り組みを放棄したことになり、転職時の候補者の特徴とすれば、あまりオススメできることではありません。

したがって、今の会社に不満がある、嫌だという場合は、まずその不満を解消することから始めることが必要です。会社に勤務するとは、ストレスフルな世界に身を投じるものであり、好きか嫌いかといえば、私も嫌いです。しかし、その「嫌い」な部分に、どのように向き合ってきたかが転職では問われることになるのです。

不満の解消に取り組んでも、次から次へと問題は出てきます。当然、頃合いや見切りのタイミングが存在します。一つの目安としては、現在の勤務先の直属の上司だけでなく、一緒に仕事をしてきた同僚たちにも、堂々と退職することを伝え、かつ退職後にも人間関係を継続できるかどうかがあります。少なくとも一定時間、同じゴールへ向かって、苦労を共にした仲間です。同じ会社であるかどうかに関わらず、人間同士のつきあいができていたかどうかが、顕著に表われます。日々の業務に正しい貢献をしていれば、同僚もあなたという人間を認知してくれているはずです。現在の会社でも、これから働く会社でも、組織/チームで仕事を進める場合に必要になってくるものは同じです。その部分から逃げる「不満」基点での転職は、避けなければならないし、そもそも転職先に受け入れられる物では無いとの認識を持たなければならないのです。

<つづく>

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