連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2021年①>

「2021年 東日本大震災から10年、インフラ危機とそのビジネスが勃興」
作るから守るへ、インフラビジネスは大きな転換を迎える

P・Politics(政治):働き方改革の一環で、建設現場の生産性革命に取り組む。
E・Economy(経済):建設後50年を経過するインフラが大半に。新規のインフラ投資が減少する代わりに、既存インフラの更新金額が増加。
S・Society(社会):新規学卒者の建設業界への就業が減少。高齢化が進み、60歳以上が大半に。
T・Technology(技術):センサーによるインフラ監視の技術やインフラの長寿命化を図る商品が誕生。

東日本大震災から10年。インフラ整備の重要性が注目されるいっぽうで、日本では建設後50年を経過するインフラが大半になり、かつ補修・更新費が捻出できない状況となる。建設業の効率化向上に取り組むとともに、インフラの監視技術、長寿命化技術などの進化が望まれている。

・インフラ老朽化の時代

日本の高度成長期は1960年代といわれる。そして、おおむねインフラの寿命は50年といわれる。ということはざっと2020年初頭からは、少子高齢化ならぬ、新規インフラ少・旧インフラ高齢化の時代がやってくることになる。
実際に、平成23年度 国土交通白書では「2011年度から2060年度までの50年間に必要な更新費(約190兆円)」としており、さらにこのうち「約30兆円(全体必要額の約16%)の更新ができない」としている。国土交通白書では、2037年には、維持と更新だけで予算をオーバーしてしまうとしている。

前述の数字190兆円自体は、研究者によっても異なるし、仮定の数字によってもばらつく。またどこまでを集計するかによっても答えが違う。ただ注目に値するのは、どの国土交通白書すらも、補修工事などの更新ができないと悲観的な未来を「予定」している点だ。


東京オリンピック以降は大型の案件も考えづらい。大手企業は海外展開をもくろむ。そして、中堅の企業は、何より防災や減災の対策、ならびに老朽インフラの対策などを次の柱としている。新規ではなく、大規模な改修に望みをかける。

実際に、建設から50年を超えるインフラを見てみよう。相当な数に及ぶことがわかる。実際に、すでに国土交通省が指摘をしている。少し前のデータにはなるものの、平成21年度版の国土交通白書を見てみよう。2021年あたりからは、莫大な金額の補修費用が必要だとしている。

たとえば、首都高速道路株式会社によれば、道路の点検により「Aランク 緊急対応が必要な損傷(第三者被害の恐れ等)」「Bランク 計画的に補修が必要な損傷」「Cランク 損傷が軽微なため対応は不要(損傷は記録する)」「Dランク 損傷なし(点検は記録する)」とわけ、Aランクは当然ながら即対応しているものの、補修が必要な損傷は増加傾向としている。国土交通省 道路局が発表している「道路メンテナンス年報」を見ても、緊急措置段階であるものは、40~50年など建設から相当な年数が経っていることがわかる。

また過積載のトラックが通ることによって橋梁の劣化は早まる。かなりの数のトラックが過積載であると予想される。また、幹線道路は43トントレーラーまでが対象となるが、1972年以前は20トンまでだったため、幹線道路によっては文字通り”重荷”となって老朽化を加速させている。

これは国土交通省の資料だが、その他、建物も老朽化している。

2011年3月11の東日本大震災の際、私のオフィスから遠くない、九段会館の天井が崩壊したのは象徴的だった。実際には、天井の場合は、耐震基準が明確に設けられていないために、起訴などは求められていない。しかし、同会館が「軍人会館」として建設されたのは1934年であり、やはり高齢化している建物の怖さを浮き彫りにしたのは間違いない。

実際に、多くの地方自治体において県庁や公共施設でも老朽化について多くの問題が噴出している。

・建設業の革新なるか

たとえば、工事の関連でいえば、建設はやはりひとが携わるため、激的な変化は難しい。土工とコンクリート工で約30年前と現在に要する作業者数を比較してみる。土工は1000m2あたりに要する作業員数、コンクリート工は100m3あたりに要する作業員数だ。結果からいうと、ほぼ横ばいになっている。


建設現場では人手がかかわることが多く、それは激的な改善が難しい。

とはいえ、更新予算と人員が少なくなるなか、できるだけ省人しつつメンテナンスを行うしかない。たとえば地方の役所によっては、技術者を有していないところもある。となると外注せざるを得ないが、その予算がない。では、限られた予算内で、やるしかない。完全に更新できないと知りながらも、その下落に少しでも抗うことが必要だろう。

国家レベルではi-Constructionが推進されている。これはIT技術等を使った生産性向上の施策だ。たとえば計測にドローンを使ったり、3Dデータを使ったりするものだ。

また、技術面でも開発が続けられている。たとえば、光ファイバーをトンネルに這わせ、センサー技術を使ってモニタリングする技術は実現している。トンネルのヒビなどを察知して、警告を出し仕組みだ。もちろんコストとの兼ね合いはある。ただ廉価になれば効率化するだろう。

また、タイヤメーカーは、タイヤに装着するセンサーを開発している。道路の状況を把握する際に、走行する自動車から情報を得る仕組みだ。このセンサーによって凍結状態がわかるため、最適なタイミングで凍結防止剤の散布などができる。長く使うインフラのためにも、保全に役立てる。

実際に宅配便業者も単に荷物を運ぶ役割から、道路等の以上を察知する取り組みを実施している。おなじく車両につけたセンサーから、通行時の橋などの揺れ、あるいは音に変化はないのかを収集する。

繊維をシート状にし、コンクリートに貼り付ける製品もある。これはシートの色変化によってひび割れを察知できるものだ。また路面に貼ることで補修させるシートもある。長寿命化を少しでも進める。

また、旧インフラの補修には遅いが、自己修復素材も注目を浴びている。これは、文字通り、傷がつくと自分で修復しようとする素材のことだ。液状の材料が練り込まれており、ひびがそれを割り、それを材料が埋めていく。ゴム、樹脂、塗料などで研究が進んでいる。

2011年3月11日。数日前から体調を崩していた私の妻は、その日、重要な商談を断って仕事を休み自宅で休養していた。14:46に揺れが日本を襲ったとき、私は東京豊洲から有楽町線に乗っていて、大きな振動を覚えている。もっともその瞬間の私はことの重大さに気づかず、動くまでノートパソコンで仕事をしようとしていたほどだった。しかし、家族に連絡しようとしても、すべての連絡手段が途絶えたあたりから異常な地震と津波が襲ったとしる。妻にやっと連絡が取れたのは、iPhoneアプリのカカオトークで、そこで私はやっと緊急時の連絡疎通の難しさを知る。

震災から数ヶ月が経ったころ、BCP(事業継続計画)の重要性が喧伝されるようになった。おそらく、BCPを震災以前に使っていたひとはほとんどいない。私にも取引先のBCP確立でコンサルティングや講演依頼が相次いだ。注目は極度に高まっており、どんな会場も満員だった。

そこから5年が経った2016年、災害対策を失念してはならないとおなじくBCPのセミナーに呼ばれた。そこにはまばらなひとしかいなかった。各社のBCPが整備されているかというと、事実はまったくの逆で、たんなる飽きにちがいない。

かつて仕事中には小笛をぶらさげ、就寝時には靴をベッドの下に置き、どこかの部屋に入る際には緊急避難口を確認する姿が見られた。しかしたった5年で、その姿は見られなくなった。震災は忘れたころにやってくる、という名言は、きっと私たちが気づいている、それでいてちっとも改善できない飽き性について正確に記述しているからだろう。

道路の崩壊はわかりやすい。だから、皮肉なことではあるが、ふたたび道路の瓦解などをきっかけにインフラ投資の議論が湧くかもしれない。ただ、水道管のように地下にもぐるなど、見えないインフラへの感度はどうしても鈍くなる。

おそらくありうるシナリオは、廃止するインフラと、存続させるインフラを仕分けした上で、存続させるインフラについては、民間に大胆にまかせるものだ。半官半民でも、完全民間化でも、収益事業化していくしか道はないかもしれない。

・考察

老朽インフラを補修、更新するために、さまざまなインフラコンサルタントが跋扈するだろう。また、設備等の老朽化にたいしては、事故後に復旧プランを練る必要があるため、BCPコンサルタントのニーズも高まってくるに違いない。

ただ、最終的には自治体や業者だけの力は限界がある。インフラに日々、接している生活者からのデータを活用しなければならないだろう。たとえばそれはインフラの状態を写真に撮って役所に通報してもらう。または、公共インフラの年齢台帳をつくるべきだろう。

現在、あなたが住んでいる自治体にある公共インフラが、何が何円で何年に建設されたか、一覧になっているページなどがないはずだ。それを公開する。すると、廃インフラにむけた住民理解も進むかもしれない。あるいは、インフラ維持費を削減するアイディアや、あるいは、ユニークな使用法などが提案され、お荷物インフラが、収益を生むようになるかもしれない。

また建設業の人手不足には、既存人員の有効活用しかない。たとえば、個人事業者や小規模事業者がどのような職人を抱えているかデータベースがない。建設職人版の「ぐるなび」「食べログ」があれば、どんなスキルをもっているひとが、何日に空いているかわかる。ただ、現状では、建設関連で人手を集めようと思っても、知り合いに声をかけるほかない。これは職人がパソコンやスマートフォンを使って登録できないことによる。だから、職人と親事業者のマッチングビジネスがありうるだろう。

<つづく>

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