ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・工場見学で必要なこと

工場見学とは、ほんとうにバイヤーに必要なものだろうか?

そんな簡単な疑問を私は拭うことができなかった。先輩たちは言った。「現場を見ろ。現場にはすべてがある」と。でも、現場を見て、どうやってコスト低減すればよいのかはわからなかった。それに、何を見たら良いのか。何を確認して、何を攻めどころにすればよいのか。まったくわからなかったし、先輩たちに具体論を聞いても教えてくれなかった。

「文系出身のバイヤーが、工場を見ることに意味はないのかもしれない……」。そう悲観的になったこともあった。そのような経験から、私が考え実践してきた工場見学論をこれまで述べてきた。外国の知識を拝借したものもあるし、管理会計の考えを使っているところもある。

今回は、この工場見学論の最終編である。だから、これまでのことをおさらいしてみよう。

まず、サプライヤー工場とは何のために存在するのか。その役割は、付加価値を最大化することだ。付加価値とは、価格から変動費(主に材料費)を差し引いたものである。

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では、工場はどのようにして付加価値を高めていくか。「材料の使用量を抑え」「短時間で生産し」「不良の数を抑える」ということになる。とくに「短時間で生産」するということは大切だ。工場のなかはコストの雨が降っている。何も生産しなくても、工員の給料がずっとかかり続けている。そこで、この図を見てもらおう。

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1.縦線に「時間」と。横線に「工程」を記載する
2.工場見学に行けば、きっと工場の担当者にいろいろ訊けるだろうから、工程数を尋ねて分解する(この場合は5工程)
3.それぞれの工程でどれくらいの時間がかかっているかを調査する。

こうやって気づくことは、次のような事実だ。

1.各工程にかかっている時間は均一ではない
2.3工程目はもっとも時間がかかっている
3.4工程目は逆に、時間が短い。

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第3工程を「ボトルネック」、あるいは「ボトルネック工程」と呼ぶ。ここが処理する製品数以上の付加価値を達成することはできない。このことをまず頭に置いていてほしい。

さて、では現場でこのような工程があるとする。上記の工程とは異なり、今回は6つの工程だ。

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あなたがバイヤーだったとして、この工程の作業費として「90円」という見積りをもらっていたとしよう。さあ、どうするか。この作業費・加工費の計算としては、一般的に加工賃率を求めるとされている。

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しかし、である。これがややこしい。もちろん訊けばいいけれど、作業者何人に一人の監督者がいるのかはわからない。他社(サプライヤー)の作業者の時間レートを知ることは難しい。監督者の時間レートはなおさらだ。どうすればよいか。

そこで私が勧めたのは「工場作業者1秒あたり1円」で計算する方法だ。バイヤーが工場見学をするときに、さきほどの作業がそれぞれ何秒かかっているのかを測定してみよう。この例では、このような秒数になったとする。

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ここまでくれば、あとは工程のコストを簡単に計算できるのだ。

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1秒あたり1円だから、この工程のコストは71円ということである。さきほど、見積りは90円だったといった。つまり、計算上の71円との差額は19円。これが「過剰請求」の正体なのである。

・過剰請求をどうするか

では、この過剰請求をどう考えたらよいのだろうか。さきほどと同じこの図を見てほしい。

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この例では、真ん中の3工程目以上の付加価値を達成できないといった。逆に、この3工程目が作業しているときは、他の工程は何もやることがない。しかし、他の工程にもコストはかかっているのである。当たり前だ。たとえば、上の図で言えば、4工程目の作業は速い。しかし、その分の空き時間にも作業者のコストは発生する。ということは、この工場としては、3工程目の時間、すなわちもっとも作業が遅い工程を基準にして客先にコスト請求するしかないのである。

ここで、もう一度、バイヤーが現場で立ち会った図に戻ってみよう。

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工場は、もっとも遅い作業を基準として客先に請求するといった。もっとも遅い工程は第3工程と、第5工程の15秒である。たとえば、第4工程は作業を短く終わらせていても、第3工程と第5工程が遅い以上は、どうしようもない。

そこで、この工場では、15秒を基準として見積りを作成するしかない。それはすなわち、こういう計算だ。

15秒×6=90秒

この分のコストをバイヤーに提出するのである。さきほど、私が述べた「工場作業者1秒あたり1円」を使うならば、90円だ。まさにこれは、バイヤーが当初受け取っていた見積りの90円と合致する

つまり、私が「過剰請求」と呼んだものは、サプライヤー工場にしてみると必然のことだったのである。特定の工程が速くても、遅い工程を前提にするしかない。

では、これに対してバイヤーはどうすればよいだろうか。ここに私は明確な答えを持っていない。「そんなの知るか。作業した分だけしか払わない」という態度もあうだろう。しかし、私はどうしてもここで教科書的な内容を述べる。それは「バイヤーとサプライヤーの利害が一致した、このようなときこそ、一緒に改善活動に取り組め」ということだ。

たとえば、

  • 第3工程と第5工程の作業の一部を第4工程に移管し、スピードを平準化することはできないか

  • 第3工程と第5工程のなかで、こちら(バイヤー企業)が仕様を変更することで軽減できる内容はないか

  • スピードを平準化するために、作業の一部を外注化することはできないか

などということをサプライヤーとともに考えるのだ。これは簡単ではない。しかし、バイヤーがサプライヤーとともに利益共同体になるということは、ここまでの内容を含む、と私は思う。

昨今、「サプライヤーの工場に技術指導を行い、生産性を改善する」と多くの企業が宣言している。だが、ときにその指導内容はトンチンカンなことも多い。私が知っている例では、全体の生産性に寄与しないところを必死にスピードアップしようとしていた。しかし、重要なのは生産性のキーであるボトルネック工程を改善することだ。

サプライヤーは「過剰請求」をしているのではない(してくる場合もあるけれど)。そうではなく、その多くは過剰請求せざるをえない「必然」が眠っている。その必然を呼び起こし、サプライヤーとともにほんとうの改善活動に身を捧げたい。

工場見学はそれほど可能性が広がっているものなのである。

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