ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
8.調達購買部門の納期管理
8-6 海外サプライヤーのリードタイムと物流との関係
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経済のグローバル化の進展によって、海外のサプライヤーから購入も一般化しています。日本国内では、多くの地域間で翌日配送可能です。国内のリードタイムと比べると、海外サプライヤーの納期管理は、引き続き手間と注意が必要です。今回は海外サプライヤーのリードタイムの考え方について学びます。
☆価格面のメリットとのトレードオフとなるリードタイム
為替レート変動や、新興国経済の発展、日本の高い賃金レベルは、日本企業にとって海外サプライヤーの魅力を高めています。引き続き、新興国の人件費は日本と比較しても安価です。結果として海外サプライヤーが提供する製品やサービスの優位性が高まっています。
一方で海外サプライヤーからの購入は、さまざまな問題を引き起こすのも事実です。トラブルの多くは品質問題です。そして、リードタイムに起因する納期面での問題も見過ごせません。海外サプライヤーとの納期管理には大きく次の2つリスクが存在します。
(1)「できない」との回答にためらいをもたない海外サプライヤー
海外のサプライヤーは「できない」との回答にためらいがありません。自社(バイヤー企業)が発注しているサプライヤーが購入する材料の納期が遅れたケースを考えます。多くの海外サプライヤーでは、材料メーカーが遅れた=自分たちの責任ではないと、納期遅延を説明します。当然、納期短縮を要求するものの、改善されるケースは非常に少ないのが実情です。
私は長年の経験から、海外サプライヤーには「頑張る」といった姿勢は、ほぼ期待できません。こういった想定が、良い方向に裏切られるケースも、まれにはあります。契約納期の維持と管理能力は、国内サプライヤーと比較して大きな差が存在します。そして、国内サプライヤーであれば、サプライヤーを呼んだり、自社(バイヤー企業)から押しかけたりして対応を協議できますが、海外サプライヤーが納期問題での来日は、まず期待できません。そして、調達購買部門として先方に行くとしても、海外では駆け付けるわけにもいきません。
(2)納期遅れのインパクトが大きくなる長距離の輸送
国内サプライヤーと比較して長くなる輸送距離によって、その過程でもさまざまなトラブル発生のリスクが存在します。また輸送サービスの品質も、日本国内とは異なる部分が多くなります。せっかく発注条件どおりのリードタイムで出荷されても、サプライヤーによる積み忘れや、輸送途中で発生する破損、汚損によるダメージが起こり、結果納期が遅れる可能性も、日本とは比較にならないくらいに高くなります。
☆海外サプライヤーのリードタイム設定や納期トラブル対応方法
上記(1)(2)のようなトラブルを回避するのに、もっとも重要なポイントは、あらかじめ決めた購入条件の、確実な実行しかありません。取りあえず発注して、未確定の部分は後から指示するといった状態は、トラブルの種をまくようなものです。したがって、国内サプライヤーへの発注以上に、発注前の条件設定が重要です。
こういった状況を回避すべく、国内サプライヤーにはJIT、もしくは限りなく近い日々納入を強いている中でも、海外サプライヤーからの購入品は、安全在庫を確保しているかたもおられるでしょう。もう一つの対応策としては、提出された見積書の内容すべての理解と、すべて合意事項に沿った対応です。
リードタイムが30日と書いてあれば、リードタイムを踏まえた発注をおこなう。加えて、自社(バイヤー企業)からの発注をサプライヤー側で受けつける=社内手配するタイミングを確認して、真のリードタイムを理解する。また、契約内容に、納期遅延した場合の対応方法を明記したり、実務担当者だけではなく、納期管理の部門と担当者を明確にしたりします。
納期は守られるもので、守られない場合は緊急対応を強いるのが、海外サプライヤーでは困難です。そういった状況を回避する、その上で陥ってしまった事態への対処法まで合意して備えます。あらゆる事態を想定して、そのすべてを契約に盛りこむのは難しいとしても、納期問題が発生した場合の対応窓口と責任部門、できれば確認時点での個人名までを確認すれば、発生した時点で、話をする相手が明確になります。ポイントは、担当者だけでなく、部門の責任者(マネージャー)を抑える点です。もし、海外サプライヤーを訪問する場合は、納期管理の責任者とも面談します。
国内サプライヤーの優位性のひとつは、臨機応変で柔軟な対応です。納期遅れに際して、改善活動を行いつつ、状況が刻々と変化し、納入方法や納入先が変化するような場合でも、日本のサプライヤーであれば、現場で作業を含めて対応できます。しかし、海外のサプライヤーにそのような対応力を求めるのは間違いです。ルーティンを決め、その通りに実行し、確実な納入完了を目指します。そのようなルーティン作業の積み重ねの継続による試行錯誤で、サプライヤーからバイヤー企業までのトータルプロセスの管理レベルの高度化を目指すのです。
※海外の人件費情報は、次のホームページから入手可能です。
Jetro 投資コスト比較
https://www.jetro.go.jp/world/search/cost.html
主要輸出国 25 カ国の生産コスト比較
http://www.bcg.co.jp/documents/file172753.pdf
データブック国際労働比較2014(米、英、独、仏のみ)
http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2014/ch5.html
(つづく)