バイヤー現場論(牧野直哉)

4.仕事を教えるとき

知らない人に物事を教える機会に、どのように対応するか。異動者や新入社員がはいったときに、一刻も早く戦力化して、自分の仕事をラクにするには、どうすれば良いでしょうか。

①教えるタイミングの見極め

仕事を教える場合、いろいろな状況が想定されます。必ずおこなわなければならない必須業務や、自分が持っている独自(そう思っている場合も)のノウハウを伝える場合もあります。なにかを教える場合、教わる側の姿勢によって、理解度も異なります。教わる側の欠乏感が強く、困っている場合は、それだけ教わる姿勢も積極的になります。まず、教わる側が積極的になっている瞬間の見極めが重要です。

例えば、理解度が低さが原因で、なんらかの処理を間違ってしまった場合は、その瞬間に、どのように対処したのかを確認し、具体的になにが間違っていたのかを指摘します。その上で、正しい処理を教えます。基本的な処理方法で、マニュアルが整備されている場合は、参照をうながします。その上で、同じ間違いを繰りかえさないために、次に同じ業務をおこなう場合には、教える側が注意して見守ります。

②自分の理解を確実にする

部門内で指導的な役割を担う場合、教える側として業務内容を正しく理解しなければなりません。例えば、自部門でおこなっている業務内容を100としたとき、同じく100理解している状態では、教える側の知識量として十分とはいえません。部門内の業務内容だけでは無く、社内プロセスの前後工程含めて、少なくとも教える内容の倍以上の知識量がなければ、極めて限定的な内容に留まってしまいます。

調達・購買部門の業務内容を100と仮定すると、理解すべき前後工程には次のような部門の業務が該当します。

前工程:購入要求部門、生産管理(生産計画)部門
後工程:購入要求(購入品の使用)部門、検収部門、アフターサービス部門、財務経理部門

一見、部門内で完結している業務でも、さまざまな前後の部門との関連性のなかで進みます。関連する部門、特に前工程の業務は、調達・購買業務の「根拠」です。したがって、調達・購買業務の「なぜ」を考えるとき、その答えの多くは前工程部門にあります。そういった関連性まで含めると、自分の果たすべき役割や機能がより明確になります。

③社内用語に気をつける

異動した場合は、ある程度社内用語にも理解があるでしょう。しかし、新入社員や中途入社の場合は、まず社内で使っている社内しか通用しない言葉の意味から教えます。これは教育の場だけではなく、外部の人間と話す場合も、意識すべき内容です。日常的に外部であるサプライヤーと話をする機会が多い調達・購買部門では、言葉の意味(定義)に、気を遣わなければなりません。

社内用語そのものが悪いわけではありません。使われている言葉には歴史と背景があります。お互いに理解している関係では、汎用(はんよう)的な言葉を使うよりも、より短時間で効率的なコミュニケーションが達成されるでしょう。しかし、共通の理解を持たない相手にとって、社内用語は話を難しくするだけです。

例えば、仕事がしやすいサプライヤーの担当者の特徴を考えてみます。サプライヤー社内での影響力を持っていたり、バイヤー企業の都合を正しく理解していたりといった特徴とともに、バイヤーが使う言葉を、必ず自分の話の中にも織りこんで使っています。言葉の意味をとり違えると、良かれと思って発した言葉も、違って理解されてしまいます。そんなささいなきっかけで、サプライヤーとの関係が悪くなる可能性もあります。優秀な営業パーソンが、バイヤーに言葉を合わせるのであれば、バイヤーにもそういった部分の気遣いは、社内外を問わず関係者とのコミュニケーションの阻害要因を減らせるのです。

(つづく)

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