調達業務には、歴史的視座からの戦略が必要である~第二回(坂口孝則)

・垂直統合型モデルの誕生

前回も記したとおり、垂直統合型と水平分業の定義はこのようなものです。

●垂直統合型:中長期的な関係構築を前提とする。ピラミッド形の産業構造ともいわれ、上位のアッセンブリーメーカーがティア2メーカーに、ティア2メーカーがティア3メーカーをコントロールし、すりあわせながら製品を設計・生産するやりかた。付加価値の源泉をグループ内で共有しながら、上流から下流までを統合すること

●水平分業:製品の開発や生産等を、それぞれが得意な外部に発注をすること、各社の強みを持ちよって商品を効率的に作る。製品の各要素がモジュール化していることが前提で、アッセンブリーメーカーは顧客の要望を聞きながらモジュールを組み合わせる

さてこの垂直統合であれ、もともとは欧米から生まれたモデルです。どんな生じる必然性があったのでしょうか。歴史は18世紀まで遡ります。それ以前は、製造業といっても、身内の数人のみで、周囲の親戚が加わるていどのものでした。しかし、織物業においては、機器の革命が起きます。ご存知の通り、織り機が発明されました。

すると、あるていど成功をおさめたものは、その織り機を活用し、はるかに効率を向上させました。そして、ここでさらにあるシステムが発明されます。それは、その資金で資本家が労働者を雇い、さらに大量生産するシステムです。その当時の労働者は、織り機を法外な値段で貸し付けられ、その支払がギリギリだったと歴史は語ります。これが石炭を利用した蒸気機関を産み、さらに産業革命にもつながっていきます。

さらに19世紀から20世紀前半にわたって鉄道会社が誕生します。近代の経済と物流は切り離せない関係にあります。さらに、鉄道は物だけではなく、人間の移動も可能としました。当時、鉄道は時速90キロメートルしか出なかったようですが、その異常な速度は人々を興奮してやみませんでした。蛇足でいうと、地方の労働者などに「時間」なる感覚が誕生するのも、鉄道と切り離せません。いつくらいに鉄道が通過する、集荷する、といった感覚は鉄道とともに誕生していったのです。

さて、そのような鉄道会社を運営するには、小資本では不可能でした。極度に集中化され、トップダウン方式の指揮系統がなければ運営が難しく、それは必然的に大資本家が独占する運びとなりました。これが現在でいうところの中間管理職を生み出し、そしてグループ会社全体で生産から販売までを管理する統合企業の嚆矢となりました。

もちろん必然性は、指揮系統にだけあったのではありません。集中管理で運営したほうが、はるかにグループ会社全体で効率的でしたし、コスト削減が可能でした。

さらにヘンリーフォードの彗眼が発揮されます。アメリカで電気の重要性にいち早く気づいた彼は、工場に電気を導入します。石炭から電気への変換はさらに効率化を達成させ、自動車メーカーへの産業集約を可能としました。

・そもそも垂直統合型モデルはなぜ生まれたのか

つまり、垂直統合型企業は、各企業の思惑が重なったというよりも、むしろ、歴史的な産業転換の結果だったのです。それはフォードがいなければ、他社がやっていた、と断言できるほどの歴史的必然性をもっていました。個人個人が生産するよりも、はるかに効率のよいシステムだったからです。そして低コストで生産し、それを鉄道網で全国に行き渡らせる、最適な手段だったともいえます。

取引コストは、したがって無数のプレイヤーを参加させるよりも、特定の企業に限り、そのグループ会社の文化や風習、暗黙知までを熟知させる形で行われていきました。フォードは近代的なサプライチェーンシステムを構築しました。サプライヤはフォードとともに開発をおこないそして生産をおこないます。フォードにとってみても、そのサプライヤが自社向け生産のみをやってくれたほうが都合よく、さらに売上高も安定します。中長期的な関係を構築するほうが優れている、という結論は自明なものでした。

もしかすると日本人は自国文化から導き出した(導き出さざるを得なかった)垂直統合型という仕組みを、アメリカは資本の理論で導いていったのです。

簡単に考えてみましょう。1億ドルの固定費があったとします。そのときに、1万台を生産すると、ひとつ1万ドルで生産できます。しかも、1万台作るよりも、1万1000台作ったほうが、1万1000台作るよりも、1万2000台作ったほうが、一台あたりの限界費用は安くなる。これがフォードの発見でした。

限界費用とは、一台を追加で生産するときのコストです。そして、このように一台あたりの追加コストが減っていくことを、費用低減といいます。

そこで、こう考えてみるとわかりやすいでしょう。垂直統合型企業が解体され、水平分業に移行しようとする理屈は何か。それは、アメリカが資本の理論で垂直統合型を開始したのだとすれば、おなじく終了も資本の理論ゆえのはずです。とすれば答えは簡単です。限界費用が低減しなくなったのです。

どういう意味でしょうか。いや、もちろんたくさん作るほど低減します。ただ問題は、相対的に低減しなくなったのだ、と考えるほかありません。つまり、これまでと違って、たった数台作ったときの低減効果と、数万台作ったときの低減効果がさほど変わらくなったということです。

その観点から、ドイツが推進しているインダストリー4.0などを読み解くと面白いでしょう。あれは、ものづくりの統合からはじめ、生産効率をさらに向上させようとしています。たとえば、生産数に限らず生産が熟成したり、あるいは段取り替え時間がゼロになったりすればどうでしょうか。限界費用は、少量生産でも大量生産でもほとんど変わりません。この視座から読み解くべきではないか、と私は思うのです。

<つづく>

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