調達・購買担当者の意識改革~パート9「見積書依頼書」(坂口孝則)

・見積依頼書作成

解説:サプライヤからの見積書入手が調達・購買担当者の基本業務です。前回は、このRFQ(=Request for quotation)の前提となる見積書フォーマットについて説明しました。次に、その見積書依頼書自体のフォーマット解説に移ります。見積依頼書は、当然ながら各種条件を齟齬なく伝える機能を有しています。そのなかでも重要なのは、次の三点です。まず、一つ目はサプライヤ各社に共通の情報を与えることです。情報の多寡があれば、同じレベルの見積書は出てきません。二つ目は、見積りの有効期間を明確化しておくことです。そして、最後に、見積り価格の年度更新条件を明確にしておくことです。もちろん、見積依頼書だけでは完璧な見積りを入手できません。ただ、見積依頼の段階から、できるだけそのあとの障害を廃しておきましょう。

意識改革のために:「これ見積書ください」とだけ書いてサプライヤにメールするひとがいます。何個必要で、いつまでに見積書を入手したいかも書かない「ぶっきらぼう見積依頼」があらゆるところにあふれています。そのくせに、見積書に難癖をつけるから、サプライヤとしてもやっていられません。

見積依頼書とは、

・依頼事項を明確にすることで、その後の業務効率化となり
・情報伝達のモレやミスを抑え
・精緻な見積書を入手できる

ことに肝要があります。

見積り内容について交渉する際に「そんな条件は知りませんでした」とサプライヤがいったり、「そんな条件ならば値上げさせてください」といったりするリスクを抑える手段ともなります。

この連載に先立ち、見積書フォーマットはみなさんに提示しておきました。

http://www.future-procurement.com/quotationformat.pdf

さて、今回はこのフォーマットに記載を依頼する「見積依頼書」の具体的項目について述べていきます。

・見積依頼書に必要なこと

私は、<重要なのは、次の三点です。まず、一つ目はサプライヤ各社に共通の情報を与えることです。情報の多寡があれば、同じレベルの見積書は出てきません。二つ目は、見積りの有効期間を明確化しておくことです。そして、最後に、見積り価格の年度更新条件を明確にしておくことです>と書きました。

一点目:「サプライヤ各社に共通の情報を与える

ここで私がオススメしているのは、見積依頼書のなかに次の文言を入れることです。「ご質問の内容が、共通性を持つと弊社が判断した際には、他見積依頼先(=他サプライヤ)にもご質問内容と弊社の回答を開示します。基本的にはe-mailによるご連絡をお願いします」

こう書いて、質問票フォーマットを作っておきましょう。なぜ、このように。「他見積依頼先(=他サプライヤ)にもご質問内容と弊社の回答を開示」するべきなのでしょうか。それは、もちろん情報量レベルを統一化するためです。英語では「apple to apple」といいますよね。競合見積りを比較する際には、当然ながら「同じレベルのもの」と「同じレベルのもの」を比較せねばなりません。

たとえば、サプライヤA社が解釈した仕様と、サプライヤB社が解釈した仕様が異なってはいけません。だから、質問管理が重要です。

二点目:「見積りの有効期間明確化

見積りがやってきて、その価格で合意したにもかかわらず、すぐさま値上げを申請するサプライヤがいます。あるいは量産納入前から値上げを申請する……など。もちろん、やむなき事情であればむげにすべきではありません。ただ、どう対応するか以前の問題として、見積書の有効期間を明確に要求せねばなりません。

具体的には見積依頼書に「お見積り価格は納入開始日から適用するものとします。(お見積り価格有効期間は 201X/XX/XX~201X/XX/XX とします)」と付記しておくことです。くわえて「単価には、必要な費用をすべて含めたうえで、規定フォーマットに記載してください」ともハッキリさせておきましょう(ありがちなのは、のちのちになって開発費や追加設備費を請求されるパターンです)。

そしておなじく見積依頼書に「これらの条件・要件を満たさない場合には、必ずお見積書中にその旨をご記載ください」と書いておけば、優位に立てます。繰り返しますと、こう書いたからといって、値上申請がゼロにはならないでしょうし、トラブルもゼロにはなりません。でも、「見積有効期間が不明」なのか「見積有効期間内なのにサプライヤが値上申請をするのか」で異なります。

三点目:「見積り価格の年度更新条件の明確化

これはわかりにくい表現ですよね。二点目からの続きです。もちろん二点目の表記によって価格は値上げしないかもしれない。でも、むしろ値下げしなければいけないときに、価格硬直性を示すのではないか(つまり下がらなくなる)。そう心配するはずです。

実際、これは難しい問題ではあります。安定価格で調達しても、コスト削減はできないからです。そこで、見積依頼書に「年度更新条件」を記載します。要するに、これは「毎年何パーセントずつ下げてください」という意味ですね。

よく使われるテは見積依頼書に「生産性向上条件は次の通りです」とし、「年度生産性向上率:▲2.0%」などと書くパターンです。こうすれば、価格を安定させつつ、しかも毎期▲2.0%低減しながら調達できます。

ちなみに、これは下請法対象企業には「微妙な表現」です。つまり、「買い叩き」に該当する可能性があります。もちろん、下請法違反かは実態に即して判断されますので、「年度生産性向上率:▲2.0%」が即アウトではありません。ただ、「生産性向上条件」と謳い、その条件を強制的に呑ませる場合は、「買い叩き」に該当します。毎年、自動的に一方的な価格改定は、下請事業者の利益を著しく損なうものですからね。

あくまで下請事業者とのケースは、現実的に生産性向上する根拠があり、かつ両社の合意をベースとすることを覚えておいてください。(じゃあ一般企業はデタラメな根拠でも買い叩いて良いのか、という問題にもなるのですが)

・そして最後に

不必要なトラブルを避けるためにも、「お取引先様選定について。最終決定には、QCD等を総合的に判断するものとし、その内容や基準についてはご回答できかねますこと、予めご容赦ください。」との明記をオススメします。

単に価格だけではありません。またサプライヤ選定手法自体がバイヤー企業のノウハウでもあります。「安かったのになぜ採用してくれないのさあ」と苦情を述べたがるサプライヤには毅然とした態度で臨みます。

そして、その両輪として重要なのは、当て馬サプライヤを作らないことです。真摯な態度には真摯なひとたちが集まってきます。バイヤーが他社の価格を引き下げるためだけに、オトリ見積りを入手すれば、そのうちサプライヤは見積りを出してくれなくなります。他社の価格を引き下げたいだけだったら、いっそうのこと、見積りを偽造すれば良いのではないでしょうか。それは冗談としても、無意味なことはやめましょう。

そして、見積依頼書と見積書フォーマットは、競合環境整備に行き着きます。

<つづく>

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