連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)
25回にわたる連載です。調達・購買戦略の肝要を順に説明しています。
・組織の設計戦略
次に調達組織の設計についてお話します。調達業務は大きく二つに分かれます。ソーシングとパーチェシングです。
Sourcing(ソーシング)とは、業界調査から、サプライヤーの選定や価格決定を行うことです。Sourcingは「契約業務」と訳されることもあります。また、Purchasing(パーチェシング)は、発注から納期調整、検収(サポート)等を行うことです。Purchasingは「調達実行」と訳されることもあります。
これを前提として調達業務を考えてみます。
ここでは「機能別組織」「事業部制組織」「マトリクス組織」という、三つの代表的な組織設計を上げています。これは、どれかのみが正解ではありません。当然ながら、組織の目的・目標があり、それを効率的に達成できる組織になっているかが問われています。
現在ではネガティブな意味に使われますが、組織の前提というのは、「官僚型」です。たとえば、ある案件は組織が処理したのに、違う案件は組織が処理しないのであればアンフェアな状況を導きます。特に、調達部門というのは他部門からの業務依頼を受けて調達行為を行います。その際にもっとも理想的なのは「官僚型」です。
多くの部員はルールや規則にのっとって業務を行う。もちろん、個々の努力が求められますし、ルールや規則といっても完全に規定できません。そこで現場での柔軟な対応が求められるわけです。
しかしながら、現場担当者だけでは判断のつかないような、難解な、あるいは複雑な、あるいはどちらを選択しても問題があるといったケースに出くわします。この際に、責任を取って判断をするのが「上司」という役割です。上司というのは経験があって、能力があって人望がある。だから上司になっているわけです。決断とは、「決めて、他を断ち切る」と書きます。なので給料が高い分、意思決定を行い、そしてリスクを取る。この役割が上司と考えると、組織の意味がすっきりします。
さらにその上司が判断できない場合は、さらに上の上司に掛け合う。これが「部長」という存在です。その部長も判断できない場合は、「本部長」やあるいは「執行役員」「取締役」などに相談する(なお誤解されていますが、執行役員とは社員のトップであって、取締役のような会社法的意味がある役職ではありません)。つまり、組織の例外処理を行うのが上司の役割だと考える方がよほど明確なのです。
ほんらい、もっとも優れているのは、一人の調達担当者が存在するとして、その調達担当者がすべての業務を行うというものです。しかし、なかなかそれがうまくいかない場合、開発購買を行う担当者と分けてみたり、あるいは品種ごとに分けてみたり、製品ごとに分けてみたり……。そのような試行錯誤が取られます(これが前述の図の(参考)調達内タテヨコ組織等々を生みます)。
ここで注意すべきは、組織の現実的な問題と、中長期的な問題は異なるということです。少なくとも、その差異を認識していなければいけません。
つまり目の前の仕事をいかにまわすかと、中長期的に強い調達基盤づくりを行うというのは、違う観点から検討されなければいけないのです。組織というのは変わり続けます。完璧な組織がないからです。現在、マトリクス組織が流行となっています。しかし、マトリクス組織というのは、縦と横の利害関係がぶつかる組織です。したがって、ぶつかった際に、縦と横の組織の代表者や担当者が問題解決を図らねばなりません。合意できなかった場合は、このマトリクス組織はうまく機能しません。
形式ではないのです。型の中で、どのように活動するのかが問われているのです。
重要なのは、決断です。誰も決断できない体制では、その下の中間管理職は決断しません。そうすると、その下の部下も決断しないよう「成長」します。社内内部の批判ばかりが組織からは溢れ出てくるようになります。対外的に活動せねば付加価値を生まないはずなのに、誰かと誰かの人間関係や、特定の人間の特性を議論するのに終始してしまうわけです。
現在は、調達機能として何を果たしていて、そして本来は何をしなければいけないのか。それを表現するのが、上記の表です。調達実行から、契約管理までさまざまな業務があり、ここに現在の配置人数を記載します。もちろん、この配置人数というのは、一人がすべての仕事をやっていないでしょうから、「0.5人工」といった表現になるでしょう。
ただ、業務分析から、おむね何人工を置いているのか記載してください。その上で将来の必要な人数を記載します。現在配置人数として0かもしれません。0だからといって問題なるわけではありません。あくまでも現状把握としてしっかり記載しておくべきです。将来、調達機能が果たすべき役割として、例えば「BCP立案支援」があるとすれば、そこに人員を置く必要があります。現在0人であれば、人材補強の必要があることになります。
調達機能として、もちろん上流購買といわれるような開発購買的な機能は重要です。しかしながら、本当にすべての品種に重要でしょうか。たとえば、少額調達品の場合は調達機部門が絡まなかったとしても、コスト削減や品質に影響を及ぼさない場合があります。考えるべきは調達機能の限られた人数で最大限のパフォーマンスを発揮するため、どの調達品をどこまでやらなければいけないのかの区別です。
重みづけ分析のように、力をかけてやるべき品種と力をかけずにやるべき品種をわけることです。もっと細かな分類も可能でしょうが、大きく分けると上記、A、B、C、のようにわかれます。
また、一般的に調達部員の数というのは、組織の数の1%から2%を占めます。幅があるのは調達機能がどこまでを負うかによります。単なる伝票処理か、あるいは開発購買を超えて、品質の責任までもつのかによって、だいぶ人数が異なります(もちろん役割が増えるほど調達人員数は増えていきます)。
調達の組織戦略で重要なのは、「部下の顔を思い浮かべずに組織図を作る」ことです。部員の顔を思い浮かべながら組織図を作ってしまうと、「全員が必要だ」という結論ありきの組織構成になってしまうのです。あくまでも作業分析したように、部員の顔ではなく「実際に必要な工数」「役割」にフォーカスして組織図を作るべきです。
できれば、名刺大のカードに機能を書きながら、どこに何人が必要かどうかを見てみましょう。そうすると必ず余っている人が出てきます。機能に工数をあてはめて考えても、少なからぬ社員があまるのです。その人員が余剰人員です。
その余剰人員をどうするのか。それは調達戦略では語りきれない、会社の理念によります。ただ重要なのは、人ではなく役割にフォーカスすることです。そこから組織戦略が始まります。
<つづく>