連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2031年②>

「2031年 日本における宇宙産業市場規模の倍増へ」
宇宙産業は次なる成長産業へ。世界でさまざまな宇宙ビジネスが定着する

P・Politics(政治):宇宙基本計画により国も民間と手をつなぎながら、産業育成が活性化する。
E・Economy(経済):衛星関連ビジネスは市場規模が右肩上がりに拡大していく。
S・Society(社会):衛星測位など宇宙からの通信や、衛星画像分析によって、宇宙の存在が身近なものになっていく。
T・Technology(技術):宇宙空間への輸送、あるいは宇宙からの送電など、技術が真価していく。

世界で宇宙産業の市場規模は拡大している。日本も宇宙産業育成に乗り出した。スマートフォンで使用するGPS情報だけではなく、衛星からのデータはさまざまな用途で活用されはじめている。衛星からの情報を民間が自由に加工・分析できれば、考えもしなかった産業が誕生するだろう。

・宇宙領域の有望な分野

★衛星通信:飛行機でのインターネット、船舶でのブロードバンドなどに衛星からのビームによって通信を可能とする。また、国土が災害時にも衛星からの照射により耐災害を実現する

また、衛星から、世界じゅうのネット環境が不備のひとたちにたいして通信網をつくる構想が広がっている。ソフトバンクも投資したプロジェクトは、地球の40億人にネット環境を提供しようとしている。

★宇宙状況把握:文字通り、宇宙の状況を監視するものだ。このなかでも、とくに注目できるのはスペースデブリ関連だ。スペースデブリとは、宇宙ゴミのことで、ロケットの残骸などを指す。丁寧に、これらはカタログ化されているものの、実際に通信衛星が衝突する事故が起きている。個数は、どこまでを数えるかだが、小さなものを含めると100万個以上になる。

デブリの動きを分析し、衛星の運営側に通知するサービス会社もある。日本では、デブリの除去を専門とするアストロスケールが注目を浴びている。

★衛星リモートセンシング:衛星から地球を撮りデータを分析するものだ。継続的に衛星からの画像が入手できれば、細かな管理が可能となる。遠洋漁業にドローンが使われている。ドローンでまず下見をさせるほうが効率的だからだ。さすがに衛星は漁業者がリアルタイムに確認はできないかもしれないが、海流などを確実に把握できる。

その他、考えられる宇宙サービスは次のようなものだろう。

★農業助言サービス:農地画像を分析して、気象情報の提供や、害虫などの発生状況通知、さらには化学肥料の量を最適化する。また大気汚染予測なども提供する。豪雨情報、台風進路情報などを含む。また台風通過後の被害状況もモニタリングする。

★海洋助言サービス:海洋画像を分析して、最適な海洋ルートを提示する
衛星画像のサービスとしてはグーグルマップが有名だが、他にも画像が利用できるようになれば用途は広がるだろう。

★宇宙科学:子どものころ、宇宙飛行士が、宇宙空間でなんらかの実験をするのが不思議だった。テレビも理由を教えてくれなかった。あれは、無重力状態であれば、タンパク質等の結晶を乱さないので、治療薬の開発などに有効なのだ。そこで、製薬会社に効率的な新薬開発の観点からビジネスが可能だろう。

・その他の宇宙ビジネス動向

もともとスペースシャトルは機体を再利用できないために高コストになっていた。むしろ、回収するよりも、新たに作ったほうが安上がりなほどだった。

そこで、衛星の低コスト化研究が進んでいる。小規模衛星の開発も見逃せない。3Dプリンターを使って、衛星むけの部品を成形する試みもはじまっている。これまで生産個数の少なさがコスト高をもたらした。しかし、民間からの需要が高まれば、衛星を量産もできる。日本でもアクセルスペースが、これまで数百億円かかっていた大型衛星の100分の1ていどの低価格衛星を実現している。

宇宙ビジネスは、やや夢のようなものも含む。宇宙ホテルの構想もある。清水建設は、「シミズ・ドリーム」のなかで、人工重力空間を作り出すことで、「64の客室モジュールを含む104の個室モジュール」で地球を眺める異経験を構想している(https://www.shimz.co.jp/topics/dream/content04/)。

しかし、やはりもっとも興味深いのは、宇宙エレベーターの構想だろう。これは、カーボンナノチューブのケーブルを使って、宇宙空間と地上を昇降機でつなごうとするものだ。5万キロ以上をつなぐ壮大な距離だ。少ないエネルギーで宇宙との往復が可能となる。

早期の実現を延期しながらも、米国ではリフトポート社が設立され、建設を検討している。日本でも大林組が検討している。それによると2050年に実現、としており、少なからぬひとは、実現の日に立ち会うかもしれない。

その意味では、太陽光発電衛星も、先とはいえ夢がある。これは衛星に積んだ太陽電池パネルからレーザーで地上に送電するものだ。太陽電池パネル等の費用を考えると、もちろん、現在の発電手法のほうが安上がりだ。ただ、太陽電池パネルなどの技術は日本が有しており、期待したい。

・求められるオープン化戦略

突然、話を変えるようだが、日本は公的データが無料公開されている。たとえば官公庁のデータは、米国に比べれば、エクセルではなくPDFであるなど、加工性は悪いケースがある。しかしそれでも、官僚が命を削って書いた白書類や、統計情報などは役に立つ。

そのなかでも、家計調査は瞠目に値する、と私は考えている。これは回答する主体に専業主婦が多いなど、もちろん問題点はあるものの、日本人がいったい何にお金を使ったかを克明に記すデータ集だ。マーケティングの宝庫で、これらを眺めるだけでもヒントがある。

おなじく宇宙関連でもオープン化できないか検討の余地がある。衛星データの活用が期待されるため、種類、データ形式などを規程し、衛星ビッグ・データを加工しやすくするべきだ。もちろんセキュリティの問題はあるものの、オープン化によって事業創出が促進される。

なおアマゾンは「AWS パブリックデータセット」(https://aws.amazon.com/jp/public-datasets/)を展開しており一見の価値がある。「ランドサット 8 号衛星により作成中の地球全土の衛星画像コレクション」などが公開されている。余談だが、ここにある地球観測データの企業使用実例が無数に載っている。事業家や新規事業担当者は見るといいだろう。

・宇宙ビジネスと覚悟と

宇宙ビジネスは、商品であれサービスであれ、構想してから実用までに10年以上はかかる。ということは、サラリーパーソンとしての人生の三分の一を費やす。失敗すれば、それまではなんだったんだとなる。

ある種の酔狂ともいうべき熱狂が、プロジェクトメンバーや社員に求められる。と考えたときに、アマゾンのジェフ・ベゾス氏や、スペースXのイーロン・マスク氏をあげたが、それ以外にも、元マイクロソフトのポール・アレン氏、ヴァージン・グループのリチャード・ブランソン氏など、いわゆるカリスマが率いているのも理解できる。

未知を確信あるものに転換し、全身全霊で取り組むコミットを引き出す。これはもちろん、宇宙ビジネスには限らないかもしれない。ただ、とくに宇宙のような壮大な事業の場合、壮大なビジョンを話す必要があるのではないか。その意味でも、各社の動向を興味深く見ていきたい。

・考察

また前回の冒頭で藤子さんの短編を冗談っぽくとりあげた。ただ、実際に宇宙の資源は誰のものかと議論が進んできた。2015年には米国で宇宙において非生物資源の販売を認める法律もできた。さすがにどこかの星を保有するのはできないとは思うものの、宇宙資源開発はルールづくりがはじまっている。

以前、月にはヘリウム3という物質が地球上よりもはるかに存在すると話題になった。これは核融合発電に使えるもので、自国のエネルギー源として使えるのではないかと、世界各国が注目している。これから宇宙資源をめぐる国際紛争がありうるだろう。よって、実際に法曹界は早めに対応している。これに便乗するビジネスも誕生するだろう。

また、宇宙に気軽に行けるようになったらどうだろうか。本節ではさほどとりあげなかったが、有人衛星が宇宙旅行につれていくサービスはもっと低価格になる。また、宇宙に抜けたあと、すぐさま落下し希望地に到着する、超飛行機も構想されている。その際には、保険業界はどう付保するのだろうか。

こう考えると、たしかに次なる競争分野になると断言するひとはよくわかる。

つまり、宇宙とは、地球でやり尽くしたビジネスが、もういちど展開できる”場所”なのだ。

<つづく>

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