連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)
戦略を25のマトリクスにわけて説明しています。
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今回はKPI設定について考えます。
・KPI設定
KPIとは、Key Performance Indicatorの略で、「重要業績評価指標」といわれます。学校でいえば、通知表の採点基準です。
KPIは、部員あるいは課やあるいは部の単位で、調達機能を測定する際に必要となるものです。「これができているからOK」あるいは「これができていないからNG」といった尺度になるものです。
もっとも分かりやすいのはコスト削減でしょう。たとえば「今期のコスト削減目標が2%で、それに対して3%達成できたので、今年はOK」とか。
ここでは、いったん、代表的なコスト活動のKPIについて取り上げます。表にまとめましたので、一つひとつを説明はしません。これらの指標がKPIと呼ばれ、調達・購買部門で多く使われているのが実態です。
しかし、考えてみるに、担当者にそれぞれ目標を割り振った際、市況の問題や、あるいは突発的な事情でコスト削減がうまくいかないケースがあります。担当者はものすごくがんばっていたとしましょう。それであれば、プロセスを評価することはできないのでしょうか。
またこのような場合もあり得るでしょう。担当者はまったく努力もしていないにもかかわらず、担当している品種がたまたま下落基調にあった。だからこそコスト削減ができた場合です。その場合、もちろん結果オーライかもしれません。ただ、正しいプロセス遂行を怠っていたのに高評価でよいでしょうか。
結論からいうと、この例のように、これまで調達・購買で使われているKPIは、KPIではなくKGIの場合がほとんどです。KGI(Key Goal Indicator)とは、重要目標達成指標とも呼ばれます。
これは極めて重要なことなので、繰り返し強調したいと思います。本来はKPIすなわちパフォーマンスを評価してあげなければいけない。にもかかわらず結果だけを押し付けているのが、これまでの調達・購買部門の実態です。
KGIはズバリ結果についての評価基準です。したがって先ほど例として「コスト削減目標2%」と述べましたが、これはKGIだとお分かりいただけるはずです。本来は、そのコスト削減2%を達成するために何をしなければいけないのか。そのプロセスを細かく分けたものがKPIであり、そのKPIを着実に遂行しているかが問われるべきなのです。
そうすれば、ある担当者の不遇や、あるいはある担当者がたまたまコスト削減できた場合も、過程で評価できるのです。
言葉を変えれば、「上司はコスト削減何%と目標を設定するのであれば、KPIとして具体的に、何をどのようにそして何回すればいいのか教えてあげる必要がある」わけです。上司は評価者ではなく教師である。そして、教師はその生徒(この場合は部下ですが)がしっかり行動を行っているか評価を行います。こうすると部下と上司の関係がすっきりします。もちろん、部下は、その場面その場面で創意工夫を凝らさなければなりません。しかしながら上司がいう基本路線を守りつつ成果を出すのです。
これからほんとうのKPIの設定の方法についてお話ししていきたいと思います。
しかしあまり調達部門ではほんとうのKPIの測定をしておりません。ここでは意図的に、営業部門のKPI設定を活用しながら、KPIとKGIの違いをじっくり考えていただきたいと思います。
まずやるべきは、自分たちの業務の分解です。これは以前の節でお話ししましたので既に行われているものだと思います。営業は、目的が受注だとすると、「営業先調査」から始まってさまざまなプロセスに分解することができます。
そもそも業務を分解していない場合は、なぜ受注できたのかがまったくわかりません。属人的な業務になってしまうのです。組織は属人的ではなく、あくまで仕組みで動くものですから、属人的ではいけません。社員を一つの機械ととらえると、素晴らしい機械の真似をすれば、他の機械でもほぼ同じ成果が出ると考えられます。とすればその機械が、どのような動きを、いつ、何回行っているか、を分解して明らかにすることこそKPI設定の始まりです。
分解した結果このようになったとします。
初回面談を100回する。そうすると、具体的に案件の仕様ヒアリングをさせてもらいのは30件あった。そしてそのうち見積書を出した例が25件ある。そのうち2件受注できたとします。これまでプロセスがブラックボックスだとすれば、むやみやたらに面談を繰り返しやっと受注が2件だった事実しかわかりません。
この2件を設定するのがKGIとすると、 KPI設定は行動として具体的に「初回面談を何回しなければいけないのか」「仕様ヒアリングは何回しなければいけないのか」そして「見積書提出件数はどれくらいか」を考えることです。そして、各プロセスの精度上げるために、各担当者は知恵を絞らねばなりません。あくまで確率の問題として捉えていくわけです。
根性論ではなく、具体的な行動レベルに落とし込むことが重要です。たとえば、たまたま確率が上がることもあるかもしれません。たまたま確率が下がることもあるかもしれません。そういう偶然もあるでしょう。しかし、この場合、「ちゃんと初回面談を100回繰り返しているのか」と回数で管理するわけです。
<問題>
あくまで、例として考えてください。下の図を見ていただき、答えてください。
営業マン5人で年間売上目標が2億4000万円。客単価平均が100万円だとします。
・初回面談から仕様ヒアリングにいたる率は20%
・仕様ヒアリングから見積提出にいたる率は90%
・見積書提出から受注にいたる率は10%
この会社が必要な、営業マンのひとりあたり
(1)月間初回面談数
(2)月間仕様ヒアリング数
(3)月間見積提出数
をそれぞれ計算してください。
計算すれば、
2億4000万円÷12ヶ月=2000万円/月
2000万円/月÷5人=一人あたり400万円/月
平均単価100万円であることから、月に4件の受注が必要
(3)4件÷10%=40件であるので、4件の受注のためには見積書を40枚提示する必要あり。
(2)40枚の見積書を提示するためには、40枚÷90%=44件のヒアリングが必要
(1)44件のヒアリングのためには、
44件÷20%=220件の面談が必要になる。
(一日あたり10件の面談~4・5件を超過しており、事実上困難)
とわかります。この例では、結果、KGI設定が間違っていたのではないか、とわかります。現実的であれば、KPIを設定し、行動レベルで管理します。
そこで考えてみましょう。
あなたの調達部門の目標がコスト削減2%だったとします。この考え方を応用して導くことができるKPIは何でしょうか。それは、もしかしたら「サプライヤにコスト削減のお願いを1日5回メールする」かもしれません。これは冗談では無いのです。あるいは「設計者に1日3回ほど机のところに行って『コスト削減のアイデアありませんか』と聞いてくる」かもしれません。いやこれも冗談では無いのです。または「サプライヤと1日4回の面談をして、既存の製品の図面を広げながら、コスト削減のアイデアを練る」かもしれません。これまた冗談では無いのです。
あなたの会社のあなたの製品が、どうすればコストが下がるかどうか、私は具体的にはわかりません。しかし、行動レベルに落として、自分たちのKPIは一体何になるのかを考えることが重要です。これが、ほんとうのKPI設定であり、そして個人ならびに組織の目標設定につながり、評価軸にまでつながります。
極めて重要なのでふたたび繰り返します。KPIとKGIは違うのです。そしてKGIを導くKPIを教えてあげることこそ、評価者や上司の役割なのです。
<つづく>