連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)

戦略を25のマトリクスにわけて説明しています。

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今回は事業と部門配置について考えます。

・事業と調達部門配置

現在、グローバルかローカルか、といった議論があります。グローバル化に伴い、販売先を拡大、さらに現地化仕様を試みるのか。あるいは、ローカル(日本)で培った技術を世界に売っていくのか。考えてみるに、これに単純な答えはありません。一言でいえば「時と場合による」としかいえません。

また、業界によっては、かつて図面一枚なる言葉がありました。これは、日本で作成した図面さえあれば、そのままの仕様で世界に販売できるの意味です。しかし嗜好がさまざまになった現在、現地仕様にあわせて開発が求められるようになっています。

そこで使えるのが「I-Rフレームワーク」です。これは分析手法で、あくまで分析ではありますが、前者部門配置のみならず、調達機能についても多くの示唆をもらえます。

この分析では、二つの軸で分析します。

・「グローバル統合への圧力」:付加価値創造において複数の国をまたいで効率性や相乗効果、創発を生み出すために、多国間に存在する共通性を活用

・「ローカル適合への圧力」:付加価値創造において個々の市場に存在する多様な事業機会とリスクに対して、個別市場ごとの特殊性に根ざした解決策を提示

という二つの軸ではあるものの、もっとわかりやすく日本語化すると次のようになります。

・「グローバル統合への圧力」:開発などを共通のプラットフォームなどを用いる。または、本社が地域ニーズを吸い上げ統括し、開発や設計を行う。「弱い」が指すのは、各地でバラバラの開発。「強い」が指すのは、一括での開発。

・「ローカル適合への圧力」:現地ニーズによるバラバラの仕様開発をするか、あるいは、一種類の製品を販売するか。「弱い」が指すのは、グローバル統一仕様。「強い」が指すのは、現地嗜好にあわせた仕様をそれぞれ開発。

こう考えてみましょう。そして、伝統的には

そして、さらにここから導かれる4象限について、各名称をつけます。

・トランスナショナル 戦略
・グローバル 戦略
・マルチドメスティック 戦略
・母国複製 戦略

の4つです。

順番は変わりますが、ざっと説明します。

・母国複製 戦略:まず本国(日本)で製品を立ち上げて、そのままローカル拠点が模倣します。ただ、ローカルでも独自仕様を生産するわけではありませんから、戦略とは呼べないレベルのものです。

・マルチドメスティック 戦略:まず本国(日本)で製品を立ち上げて、そして細かなニーズの吸い上げはローカル拠点が行い、微修正を行います。イメージは、本国の製品を使い、ローカル嗜好にあわせたパッケージングなど、あるいは製品デザインの一部修正などを行います。

・グローバル 戦略:本国が先導し、各地のニーズなどを吸い上げたうえで、統一仕様の開発等を行います。本国(日本)で製品を立ち上げて、拠点はそれを販売します。

・トランスナショナル 戦略:本国が先導し、各地のニーズなどを吸い上げたうえで、なんらかの開発プラットフォームや本国の研究施設等で各拠点に応じた仕様製品の開発等を行います。本国(日本)で製品を立ち上げて、各拠点は、各拠点にマッチした製品を販売します。

・I-Rフレームワークと調達戦略

上記で母国複製戦略は、戦略と言いづらいと説明しました。そこで、母国複製戦略を除いた、調達カテゴリでいうと、次の戦略内容が考えられます。

これは一つの例にすぎませんが、上図ではこのようにまとめました。

・トランスナショナル 戦略:ベース機種、ベース製品は、本社主導で調達構造を決定、そしてコスト決定を行う。ただし、各国拠点にも調達部門を置き、各国独自ニーズの発掘と、それに合致したサプライヤ選定を行う

・グローバル 戦略:本社集中での調達を進める。仕様統一などの開発購買業務は本社が主導し、各国はQD(品質・納期)改善に努める

・マルチドメスティック 戦略:完全分散型調達を推進する

まあ、これらは私の考えですけれども。こういうアイディアが出てくるわけです。自分たちの事業の形におうじて調達・購買部門も形を変えるのは当然ではあるものの、あまり的確なフレームワークがありませんでした。参考になれば幸いです。

ところでこのI-Rフレームワークの優れている点は、答えを一つに求めないことだと私は思います。企業の状況によって答えは変わってきます。

というのも、これまでこの連載で紹介してきたいくつかの戦略フレームワークは特定の企業の関係者が作ったものが少なくありません。たとえばアルフレッド・チャンドラーの「組織は戦略に従う」という有名な本がありますが、あれは彼自身がデュポン社の創業一族で内情をよく把握していました。

そして、そもそも戦略計画というもの提唱したアンゾフはロッキードエアクラフト社で副社長を経験していました。また、例えばゼネラルエレクトリックは、マッキンゼーやボストンコンサルティンググループを活用しながら経営セオリーを打ち立ててきたわけです。

つまり欧米から輸入されたフレームワークのほとんどは大企業の内部の人間が論理化した、ならびに超・大企業のゼネラルエレクトリックが、同じく高いフィーを要求するコンサルティング会社を活用して作ったものばかりということです。これ自体は悪いわけではありません。

しかし、このフレームワークが想定している対象企業があまりにも巨大なのです。したがって、普通の日本企業がこのフレームワークをそのまま使おうとすると問題が出てきます。要するに当てはまらないわけです。そこで、このようなフレームワークを一通り紹介したので、次に自社に活用するための手法、言葉を変えれば、身の丈に合った戦略の立て方を説明していきたいと思います。

<つづく>

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