連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)

25回にわたる連載です。調達・購買戦略の肝要を順に説明しています。

・事業ポートフォリオ

さてここから事業ライフサイクルを考慮した調達戦略を考えていきたいと思います。事業というものは、さまざまなように見えて、実は数式上の市場浸透率線に近似するのだという話をしました。

これは極めて大きな意味があります。というのも最終製品の動向に合わせて調達活動をしなければいけないからです。その事業サイクルとは、大きく「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」4つに分かれると説明しました。この4分割というのは製品のライフサイクルを考えるときによく使われるフレームワークではあります。しかしながら、さまざまなフレームワークが生まれては死にゆくなかで使い続けられていることに意味を見出すべきでしょう。

「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」--。これはさまざまな製品のライフサイクルに、実際に当てはまります。例えば自動車、あるいはスマートフォン、あるいは機器類にも当てはまります。すなわち、アーリーアダプターと言われる、新しいもの好きな人たちがまず市場を形成します。これが導入期です。

そのうち、その他の顧客に広がっていき、どんどん市場浸透率が上がってきます。これが成長期です。そして他社の動向を見ながら、あるいは他の消費者を見ながら選択をするといった遅い消費者が手に取るようになり、成熟期を迎えます。この時点でほとんどの顧客には行き渡っていますが例外があり、残りの消費者獲得を目指し、あとは衰退期に向かいます。衰退期以降は、補修や微細なマイナーチェンジなので、製品の訴求力をさらに上げていくことになります。

さて、これを調達・購買から読み解くとどうなるでしょうか。導入期というのは生産個数が少なく、しかしながらある意味、高価であっても消費者が受け入れる可能性があり、どちらかというと、技術や品質にフォーカスした調達行為が必要となります。

次に成長期では数量が増えていくわけですから、それにともなってVAやVEならびに工程改善が必要になっていくわけです。

そして成熟期においては完成した工程を前提に生産数量がまだまだ増えるといった状況です。この時には終わりが見えているわけですから、大量生産を前提としたコスト削減が必要であり、段取り替えや、あるいは原材料のまとめ購入、そしてサプライヤマネジメントによるコスト削減が注目されます。

そしてその後、衰退期においては、これ以上生産数量が増えず、大量生産の時代ではなくなってしまいますので、むしろ保守パーツをいかに安く作るか、そして納期をいかに早くするかにフォーカスされる必要があります。

サプライヤの観点から言えば、導入期には技術優位性があるところとりあえず選び、そして成長期にはその技術を汎用的なものに置き換えることによって競争を活発化し、成熟期においては生産改善に特化したうえで優位性のあるサプライヤを選択する必要があります。そして衰退期にはむしろ成長期や成熟期とまったく違い、少量生産が得意な工程を持つサプライヤを選択するといったことが重要となります。

しかし、実際問題としてこれらのライフサイクルにおいて、同一製品のなかでサプライヤを切り替えることはきわめて困難です。現実的には同一サプライヤを活用しながらライフサイクルに応じた意識の切り替えを行っていただく必要があるわけです。

その際に重要なことは一体何でしょうか。簡単に言えば、アジャイル経営です。アジャイルとは機敏性を指します。機敏性とは文字通り生産変動に耐えうる生産体制を作っていただくことにほかなりません。

そこで重要となってくるのが、これまで以上にサプライヤとの対話を重ねることです。これまで内示という形で生産情報をサプライヤに伝達しているケースは多いでしょう。しかしながらそれはあくまでも近視眼的な生産数量です。中長期的なロードマップを指し示し、それに対してサプライヤに来る将来への覚悟を持ってもらい、ならびに生産準備を迫る必要があるわけです。

概念で指し示したのが次の図です。横軸にはカスタマイズ性と書いています。製品仕様が個々の顧客に応じて作り分けるのかどうか。そして縦軸は生産ロットが小さいのか大きいのかです。

まず起点に19世紀工業と書いています。これは衣類などの生産を指します。当然ですがものすごく小さなメーカー(職人)が一人ひとりのニーズを聞きながら生産をしていた19世紀から20世紀には設備が進化していきました。これにより中量生産された一種類の衣類を多くの人が着ることになったのです。そして20世紀中旬に大量生産を迎えます。この時に活躍したのはフレディック・テーラーでした。

テイラーは従業員を一つの機械のような存在ととらえ、生産性の向上を成し遂げました。これは自動車工場やあるいは電機のような業界にとってはおなじみのとおり、アッセンブリーラインをもたらし、そして一人ひとりの作業者の生産性を見える化することによって最大までその作業者の活動を合理化しました。これはある意味、さきほどの商品ライフサイクルにおける成長期といえるかもしれません。

その後さまざまな業界では成熟され、そして衰退期に向かってきました。その衰退期に向かうと同時に起こったのは消費者の嗜好の変化です。特定の商品を大量生産し、販売し続けることができません。販売しようと思えば、最終的にはマスカスタマイゼーションと呼ばれるように、生産はしつつも一品一品の仕様を顧客に合わせる必要が出てきたわけです。

あるいはBOP(bottom of the pyramid)と呼ばれる、新興国に対するビジネスが活発になってきました。新興国に販売しようと思えば、先進国の仕様は使うことはできませんが、どちらかというとその新興国に特化した製品を作り上げ、それを販売する必要が出てきたわけです。このBOPゾーンは生産ロットが大きくなる可能性を秘めていますが、まだ市場が未成熟なため製品ライフサイクルにおける導入期に等しい場合は生産ロットがさほど大きくなりません。

したがって今起きていることはこういうことです。先進国においては製品が飽和化し、マスカスタマイゼーションが起きている。ならびに後進国では市場開拓の意味で導入期という構図にあるわけです。

いずれにしても製品軸で考えるとカスタマイズ性は結構高く、そして生産ロットはさほど大きくないというのが現代的な問題なわけです。ということは微量生産を前提として調達購買活動を考えざるを得ないという時期にきています。マスカスタマイゼーションの意味ではかなり高度化する顧客を満足させるための調達。そしてBPOは新興国という、たまゆらな市場をつかむための少量生産が必要になってきています。この対応が、調達・購買従事者の次なるミッションであり、それが戦略の基礎ならざるを得ません。

 <つづく>

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