ドットフランク法対応について(坂口孝則)

・第二の黒船がやってくるか

今回は通常号ではなく、増刊号であるため、ちょっと毛色の違う話をしてみたい。それはドットフランク法のことだ。一部の読者は聞いたことがあるこの法律も、門外漢のひとたちにとっては「何のこと?」かもしれない。ただ、これは今後、大きな問題になることは間違いないため、説明していきたい。各社の調達・購買・資材部門に大きな影響があるからだ。

では、ドットフランク法とは何だろうか。

これはアメリカの金融規制改革法のことだ。この法律は、J-SOXのからみで聞いたことがあるかもしれない。ただ、ここで話題としたいのは、そのなかでも「米国紛争鉱物開示制度」についてだ。では、「米国紛争鉱物開示制度」って何だ?

一般的には「米国ドッド・フランク法(金融規制改革法)に定められた制度で、紛争鉱物の自社製品への使用状況をサプライチェーンをさかのぼって調査し、その結果を年次報告せよ、とするもの」と定義されている。

紛争鉱物は、コンフリクトマテリアルと呼ぶひともいる。それの使用状況を年次報告せよとはどういうことだろうか。これには他国の政治状況を把握する必要がある。というのも、コンゴ共和国、およびその周辺国(これらを「DRC諸国」と呼ぶ)で行われている紛争が、鉱物の不法採掘を通じて資金を得ているとされているのだ。そこで、米国証券取引委員会は、米国各社にそれら鉱物の産地国や施設を開示するように依頼することになった。これが「紛争」鉱物の由来となった。

米国の証券取引等委員会が命令するのは、あくまでも米国に籍をおく製造業者に対してである。しかし、なぜ私たちもこの法律について知らなければならないか。それは、米国企業に開示義務がある以上、米国企業に納入する日本企業も必然的に、それら紛争鉱物の使用状況を調査せねばならないからだ。

対象は次のとおりだ。

・米国製造業に部品を納入する企業(日本企業も該当する)

・紛争鉱物
1.錫(スズ)鉱石 :合金、平板、パイプ、ハンダ、等に使用
2.タンタル鉱石 :携帯電話、コンピュータ、TVゲーム、デジタルカメラ、ジェットエンジン、等に使用
3.タングステン :ワイヤー、電極、照明、溶接機器、等に使用
4.金鉱石 :多くの産業・製品で使用

上記「紛争鉱物」を見ていただきたい。おそらく、多数の日本企業が、タンタルや金を利用し製品を作り、それを米国企業に納入しているはずだ。この読者の企業も例外ではないだろう。そして、これらの鉱物を通称「3TG金属」と呼ぶ。

・ドットフランク法(米国紛争鉱物開示制度)の具体的な調査方法

では、この米国紛争鉱物開示制度について、私たち調達・購買・資材部門はどのような調査を行うことになるのだろうか。

当然ながら、各社が属す業界団体がガイドラインを提示しているならば、それに従うことが望ましい。それに、すでに各社で対応策が練られているかもしれない。次に書くのは想定される一般的な調査フローだ。

まず、「部品の含有物を調査」する。そのときに、自社で(米国企業に納入している製品のなかで)3TG鉱物が無い場合はおしまいだ。しかし、使っている場合は「原産地を調査」する必要がある。さらに、「DRC諸国か否か」を確認し、違っていたとしても、(米国企業は)アニュアルレポートを開示することになっているから、具体的な原産国の特定は必須だろう。そして、運悪くDRC諸国を原産とするのであれば、武装勢力(テロ組織)を利するかどうかによって、紛争鉱物報告書を作成することになる。

おそらく、米国企業もバカではないから、サプライヤー(この場合は日本企業のことを指す)がDRC諸国から3TG金属を調達していると知ったら、即時改善を求めてくるだろう。それに、サプライヤー(繰り返しだが、この場合は日本企業を指す)も、即時安全国からの調達に切り替えざるをえない。

私たちは、さらに下のサプライヤーたちに、どのようにヒアリングすればいいのだろうか。もちろん、それは多様な方法が考えられる。したがって、次に掲げるのは、これも一般的に想定できるヒアリングシートだ。

中小企業に3TG金属の使用有無や、原産国を特定してもらうのは困難が予想される。商社経由であればなおさらだろう。

かつて情報購買なる言葉が流行した。どこにどのようなサプライヤーがいて、価格レベルはどうで、どのような製品を生産しているか。それらを積極的に社内に展開する勾配のありようを指した。しかし、昨今の情報購買は、まさにサプライヤーからいかに情報を吸い出すかが重要となってきたようだ。震災のときの情報入手しかり、タイ洪水のときの生産状況把握しかり。今一度、情報入手の速度と正確さがテーマの一つになってよい。

・ドットフランク法(米国紛争鉱物開示制度)の施行時期

最後に、この米国紛争鉱物開示制度について、施行時期を探っておきたい。

これはまだ予想ベースであるものの、2013年3月期から、というひとがいる。あるひとは2011年からの施行といっていた。それは実現しなかった。だから、2013年の3月期というのも、延期される可能性がある。

先日、ある方とお話ししていると、米国企業の一部は2011年の半ばまで積極的に調査を続けていたようだが、いまでは一段落しているという。おそらく、2011年中の施行がなくなったからだろう。では次は?

ここでは株の予想屋よろしく、無責任なことは述べない。いま言えることは、来るべき調査開始に備えて、各業界ごとの対応策を練っておくことだ。あるいは、各業界団体のガイドライン策定有無を調査してもいい。おそらく、RoHS調査並の困難さがあるのではないか。

なお、本来であれば参考図書を紹介したいところだ。ただ、残念ながら市販のものを調べた結果、あまり勧められるものはなかった。このメールマガジンでも継続的に報告していきたい

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