昭和13年の購買論(牧野直哉)

私は、このメールマガジンや、文献、セミナーを通じて、調達・購買論を語るために、さまざまな文献や資料に目を通しています。このたび昭和13年に刊行された「購買管理及倉庫管理」を入手しました。この本の著者は上野陽一さん。産業能率大学の創立者であり、フレデリック・テイラーによる科学的管理法を「能率学」と名付け邦訳し、日本初のマネジメントコンサルタントと呼ばれているかたです。

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本文には「購買の集中」と題され、調達・購買部門の存在意義、調達・購買部門が必要性のポイントが九つ記されていました。元々存在していた調達・購買部門に配属され、どのように効率的に仕事を遂行し、大きな成果を獲得すべきかを考えていた私には、調達・購買部門はもともと当たり前に存在していた調達・購買部門であり、存在理由についての記述は新鮮で、納得できる内容でした。

そして九つの記述は、77年が経過した現在にも十分に通用する考え方です。引用の形で原文のままご紹介します。

第二節 購買の集中
しかるに従来購買といへば,経験とカンによつて行ふよりほかに方法がないもののように考へられ、かつ製造に従属する仕事であるかのように見えるため、購買の仕事がソノ品物を使ふ各部門に分散されてゐることが多かつた。各部門は.その品物の性質や用途に明るいために。適切な購買を行ひ得る利釜もあるが、方では工場全値を通して原材料.用品などの統一を保つことが困難であるばかりでなく、購買については全くの素人が、カケヒキに熟達した商人を相手に取引をするのであるから.乗ぜられる機會も多く。有利な購買を行ふことができない。
故に種々の話から考へて、購買は一係に集中して行ふほうが有利である。購買を集中することによつてつぎの利益を得ることができる。

(1) 購買は商才と経済知識とを必要とする特殊技能であるが、これを集中することによつて、練達した人が専門に営ることができる結果。有利な購買を行ふことができる。
(2) 市場の調査および分析を完全に行ふことができ、従つて最もよい條件のもとにおいて購買を行ふことができる。
(3) 各部門に共通する原材料を標準化して。統一することができるから手持が少なくなり、資金の固定が避けられる。
(4) 原材料の検査、受入、計算、支払などの事務が簡単になる。
(5) まとめて買ひつけができるので単価が安くなる。
(6) 購入物品の原価を研究し有利な買ひ付けができ同時に買手の利益を保護することができる。
(7) 記録によつて消費量の標準がわかるから、消費の多すぎる品物につき検討することができて、濫費を防ぐ。
(8) 過去の記録と技術上の研究とを参酌して公干なる仕様書を作ることができる。
(9) 製造方法の改良を促し、又は代用品をすすめることによつて、購買および使ひ方の経済を計ることができる。

「購買は商才と経済知識とを必要とする特殊技能」などは、ぜひ調達・購買人として自信をもって言いたい言葉ですし、「最もよい條件のもとにおいて購買を行ふことができる」とは、すべての調達・購買部門が目指している姿ですね。それ以外にも、現代の調達・購買部門に必要な最低限の機能が網羅されています。こういった基本的な部分は、事あるごとに戻って確認してこそ、その主旨が深く理解できるものです。忘れずにありたい内容です。

<了>

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