バイヤー現場論(牧野直哉)

2.設計・技術部門との関係

設計・技術部門は、購入するモノやサービスの「内容」を決定するために必要な前工程の一つです。設計・技術部門が作成する仕様書や図面の内容を、調達・購買部門がサプライヤを活用して実現します。

設計・技術部門と調達・購買部門の関係は、市場とサプライヤの変化に、どのように対処するがテーマです。これまでは、仕様書や図面を設計・技術部門が作成した後、調達・購買部門の仕事が開始されました。こういった「前後関係」の位置付けが、近年の市場、そしてサプライヤの状況のミスマッチし、さまざまな問題の温床となっています。ミスマッチによって生みだされる問題点から、最適な関係を模索します。

① 設計・技術部門の最新状況を理解する

設計・技術部門における検討内容は、考慮すべき範囲が拡大しています。機能性や品質の追求のみならず、製品の安全性や、廃棄時の環境負荷の考慮、同時にコスト削減も検討しなければなりません。設計・技術部門が作成する仕様書や図面の完成は遅く、顧客の納期要求は短縮化が進み、結果的に、調達・購買部門が発注先設定に割ける時間が減少する事態は、ほぼすべての企業に共通した問題です。しかし、そういった問題の解決は、設計・技術部門だけではできません。あらゆる市場ニーズが高度化し、設計・技術部門に大きな負荷を強いている現実を、他の社内関連部門よりもまず調達・購買部門は理解し、社内で一番の理解者になります。設計・技術部門と協力して責任を果たすために、これまでとは違った工夫によって成果を生みださなければならないのです。

② 同じスタートラインに立つ

「これまでと違った工夫」の第一歩として、設計・技術部門が「前工程」である認識を捨てます。同じスタートラインに立ち、役割分担をおこない一緒に前進する「並走者」になります。同じラインからスタートして、役割を分担します。設計・技術検討に専念してもらい、サプライヤへの打診は調達・購買部門で引きうけるといった具体です。初期の検討段階に、適切なサプライヤ情報を提供したり、サプライヤと打ち合わせを提案したりし、設計・技術部門が検討を進めるために必要なサポートをおこないます。

「適切なサプライヤ情報」は、サプライヤのインターネットのホームページで参照できる情報ではありません。ホームページの情報は、従来の会社案内と同じ誰もが入手できます。調達・購買部門は情報収集をおこない、設計・技術部門の業務に貢献する情報を提供します。具体的には、ホームページ情報の真偽の確認や、自社とサプライヤの戦略の適合性、自社事業へのサプライヤの評価、設備能力だけでなく、サプライヤ内のサプライチェーンのすべてにおける人的リソースの状況、経営戦略といった立ち入った情報を収集して設計・技術へ提供します。

また、入手した情報を、設計・技術部門のすべてのメンバーが、簡単に共有できる環境も構築します。従来製品よりも、ある部分を向上させた製品を購入したい場合を考えます。採用できるすべてのサプライヤを知っている担当者と、一部のサプライヤしか知らない担当者では、想定するサプライヤが違います。一部サプライヤしか知らない担当者では、サプライヤのリソースを最大限有効活用した仕様選定ができない可能性があるのです。

調達・購買部門が持っている、他の企業とは異なるサプライヤ情報は、貴重な経営資源です。有効活用するためには、調達・購買部門だけでなく、社内関連部門、特にサプライヤのリソースを活用する設計・技術部門はメンバーすべてに情報共有を実現します。

③ サプライヤのリソースを活用する

事業の維持拡大を目指してきたサプライヤは、自社製品に関するさまざまなノウハウを蓄積しています。蓄積したノウハウを活用して、他社にはまねできない優位性を実現しています。自社にとって、サプライヤの優位性は魅力的に映る半面、サプライヤの活用方法によっては、購入条件交渉で難しい対応を強いられる場合もあります。交渉したものの、ほぼサプライヤの提示条件を受け入れなければならない事態も十分にありえます。そういった場合、調達・購買部門はどのように対処すべきでしょうか。
自社製品に欠かせない構成部品は、サプライヤとは対峙せず、協調路線を選択します。設計・技術部門をはじめとした、各部門間の緊密な関係を構築し、全社的に足並みそろえサプライヤを攻略します。関係構築の途上は、サプライヤの提案内容をそのまま受け入れる事態もやむを得ません。しかし、より深い相互理解により、自社のニーズを、深い関係を通じ顧客ニーズとしてサプライヤ-の製品企画や開発に反映させる影響させます。そういった極めて戦略性の高い取り組みは「サプライヤーリソースの活用」として調達・購買部門が主導します。

<つづく>

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