ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・25のスキルと知識が調達・購買を変える

今週号も、調達・購買の5×5マトリクスを使い、調達・購買スキルや知識を紹介していく。この連載をお読みの方はおわかりのとおり、私は調達・購買人員に必要なスキルや知識は25に集約されると考えており、その解説を行なっている(はじめてお読みになる方はお待ちを。有料会員のみなさまはバックナンバーをご参照のこと)。

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今回は、「生産・ものづくり・工場の見方」のC「定性的管理手法」だ。

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ものごとには定量的な側面だけではなく、定性的な側面がある。

しかし、この定性的な側面というのがややこしい。たとえば、生産現場では必ずいわれる「5S」がある。整理・整頓・清掃・清潔・躾。これを徹底することは、たしかに工場の優位性に結びつくに違いない。

だけど、それがどうコスト低減につながるのだろう?

サプライヤの工場に行くときに、5Sを確認せねばならないといわれる。サプライヤのモノづくりの意識レベルがどの程度のものなのかを、5Sの尺度を使って推し量れというわけだ。先輩バイヤーたちもよくそう言う。

けれど、調達・購買担当者からすると、それが正論とわかりつつも、5Sがなぜ大切で、かつどうやって5Sのレベルを見ればよいのかがわからないというのが本音だろう。

たしかに、生産管理・生産技術部門にとっては、専門的な5Sの知識は必要だ。しかし、私たちはモノを買う調達・購買担当者であり、生産管理の専門家ではない。

そこで、私たちは、5Sを割りきって考えてみる必要がある。

つまり、5Sの目的、改善の目標は
・在庫削減によるコスト低減
・固定費削減(作業者削減によるコストの低減)
にあると割り切るのだ。

5Sがなぜ必要なのか。それは究極的には、工場にたまる在庫を減らし、また作業効率(作業環境)をあげることで、作業者が減って全体のコストが下がることにこそ意味がある、と考えるのだ。

もちろん、5Sの徹底は、それ自体に価値がある、という言い方もできるかもしれない。

しかし、ここでは簡略的に「コスト低減」に目的を置いてみる。

そこで、具体的にはサプライヤ工場をどうやって、5S観点で眺めればいいのだろうか。

・在庫削減と固定費削減につながるか考えながらチェックする5Sポイント

ここから5Sのチェックポイントを述べていく。ただし、繰り返すと、5Sのための5Sであってはいけない。調達・購買担当者の立場からは、その工場が5Sを徹底することで、在庫や固定費が低減するかどうかを失念しないようにしたい。

1.整理:必要なものと不要なものを区別、また不要なものを処分すること

チェックポイント:

  • 必要なものと不要なものが区別されているか

  • 不要なものは「判断基準」「処理判定者」「廃棄までの保管期間」「廃棄承認者」が定められているか

  • 作業(仕事)が終わったら何も残らない状態になっているか

2.整頓:必要なものを使いやすい場所にきちんと配置すること

チェックポイント:

  • 職場の人たちが、人に訊かずに(探さずに)物を見つけることができるか

  • 頻度の多いものは近くに、少ないものは遠ざけるなどの工夫がなされているか

  • 区画線が引かれているか、守られているか

  • 「完成品」「保留品」「不良品」の区分がなされているか

3.清掃:道具類や職場をきれいにして、いつでも使えるようにすること

チェックポイント:

  • 作業が終わったらすぐに清掃することになっているか、清掃が日常化しているか

  • 1回1仕事の原則が守られているか

  • 機械設備清掃の目的(「安全確保」「精度維持」「稼働率向上」「寿命向上」)が共有されているか。

  • 清掃・点検しながら、設備をきれいにしているか

4.清潔:きれいな状態を保ち、きれいにしようとする気持ちを共有すること

チェックポイント:

  • 床を清掃業者に委託する場合は、仕上げ具合を文章で提示しているか(清掃の仕方をルール化しているか)

  • 汚れが目立つように色の工夫がなされているか

  • 突発的な床汚れなどに対応できるか

  • 高所(2m以上)清掃に工夫はなされているか

5.躾:職場のルールを順守すること

チェックポイント:

  • 作業者はあいさつをしてくれるか

  • 作業者の言葉遣いは適切か

  • 正しい服装(帽子・耳栓等)をしているか

  • 工場全体で5Sを維持しようとする試みがなされているか(工場長自らが推進しているか)

  • ルールや規範が明確になっているか

たとえば、整頓のなかに「職場の人たちが、人に訊かずに(探さずに)物を見つけることができるか」がある。もちろん、物を見つけることができなければ、それは生産性の低下につながる。コストアップそのものだ。整頓とは単なる精神主義ではなく、具体的なコスト影響のあるものなのだ。

定性的観点なので、定性的な言い方をすると、キレイな工場の製品は総じて品質が良く、利益率も高い。キレイさは定量化できないので、統計上の正否は問わないものの、工場自体をショールームとしてお客に見てもらうことによって、受注にもつながる工場運営までできれば理想だろう。

・工場内のモノの動き

また、定性的観点としては、モノの動きに注意しよう。いくつかの工程を経て生産物は完成する。その工場内物流がめちゃくちゃでは、同じく非効率的だ。ここでも、その工場内物流の改善によって、在庫や固定費が低減するかどうかを念頭に置いてほしい。

当然ながら、複雑な動線ではいけません。理想はU字になっていることだ。

加えると、入口付近に有休設備や、ごくまれにしか使用しない設備を置いている場合も非効率化につながる。これは難しいことではなく、調達品の生産を追っていくなかで、指摘しやすいポイントだ。

さらに、この工場内物流の途中段階において在庫(仕掛品)が発生していることがある。これは以前にバリューストリーミングマップで説明した通り、少ないにこしたことはない。ただし、事情によって在庫が生じてしまうこともあるだろう。そのようなときにも在庫を減らす工夫がなされているかをチェックしてみてほしい。

これらは物理的な制約を加えることで、在庫を抑えようとする試みの例だ。
①はみ出し禁止線:在庫範囲を規定
②じゃま板・じゃま立て看板:文字通り「じゃま」をすることで在庫量を規定
③高さ制限:②に同じく物理的な高さで在庫量を規定
④棚表示:なんでも在庫化しないように特定物のみを在庫として許可

また同業他社の工場を見学したことがあれば、比較することができる。もちろん、他社情報をペラペラ話してしまうことはご法度としても、すぐれたアイディアを示唆することはできる。

・工場作業者の動き・環境

また、工場作業者の動きや作業環境も確認していく。作業者の動きとして重要な点をいくつかあげておこう。

工場作業者観察時のチェックポイント(1)身体
① 両手を使って作業をはじめ、両手を使って同時に終えているか
② ジグザグではなくなめらかな動作をして作業しているか

工場作業者観察時のチェックポイント(2)工具・設備
③ 工具は作業者に近接しているか
④ 作業者が作業しやすい照度になっているか

工場作業者観察時のチェックポイント(3)機能設計
⑤ レバー操作は作業者が姿勢を変えずにできるか
⑥ 工具類は作業者が持ちやすいものとなっているか

これらをチェックしていこう。

とくに作業者の作業が遅れることはコストアップそのものだ。もし時間外の作業が発生してしまえば、工場は作業者に時間外割増率として数十パーセントもの上乗せ費用が発生する。また、休日に稼働してしまえば、指定休日割増率として、さらに高い上乗せ費用となる。

あまりに酷い生産状況であれば、サプライヤに

  • 「生産計画の精度向上計画」

  • 「生産性の向上(多人数作業化、治検具化、外注化、段取り時間削減)計画」

  • 「多能工化による作業効率の向上計画、負荷の平準化計画」

などを質問したうえで、作業者へのヒアリングしてみると実態が見えてくるかもしれない。

私たち調達・購買担当者の目的は、在庫や固定費が低減するかどうかを頭に置いた上での改善指導や指摘でなければならないと話をした。ある公認会計士の先生は「コストという雨が降っている」と表現した。工場はコストという名の雨が振り続けていると考えてほしい。その雨は、材料だったり、作業者だったり、設備だったりする。その雨に濡れ続ければ、すなわち工場の生産時間が長ければ長いほど、コストが比例的にかかる。

そしてこのコストの雨をできるだけ回避するためのものとして、5Sがあり、動線改善であり、在庫量改善があると私は思う。雨に濡れ続けないために、調達・購買担当者がサプライヤに伝えることのできる内容は何か。私たちはそれをずっとずっと考えなければいけない。

それがたとえ定性的なものであっても。

 <つづく>

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