ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●決定版サプライヤーマネジメント 18

これまで、つくられる製品の数量的な特性をベースに、サプライヤーのカテゴライズをおこない、それぞれのカテゴリーにおけるサプライヤーとの関係継続法をおつたえしてきました。今回は、量産品/受注品のいずれにおいても、最上位に分類されるカテゴリーに分類されるサプライヤーとの関係継続方法です。

分類名称を、「共有した戦略をベースにした共同開発」をおこなうサプライヤーとしました。ここでのポイントは「どうやって戦略を共有するのか」です。まず、双方の戦略について定義をおこないます。

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59号で「購買戦略のつくり方」をお伝えしました。その時の図を上記図の通り、バイヤー企業とサプライヤーに分けてみました。

バイヤー企業とサプライヤーは別法人です。資本関係がない限り、企業・事業レベルで戦略を共有することはできません。まして調達購買とは、実際のビジネスでの現場です。戦略という抽象的なものを上位概念のレベルで共有させることには無理があります。もちろん、利益を獲得するといった点は共有できますです。しかし、そもそも利害的に対峙する存在でもあるバイヤー企業とサプライヤーが、抽象的なレベルを共有したところで、実際の活動には結びつかず、まったく意味を成しません。したがって、バイヤー企業がサプライヤーと共有する戦略とは、購買戦略と、販売戦略や営業戦略です。加えて、双方の技術戦略の一部も含まれることになります。共有すべきは、機能戦略レベルです。それでは、機能戦略をどのように共有し、事業へ効率的に貢献すべきでしょうか。ここで、企業経営に必要なリソース毎に、具体的な対応を述べてゆきます。

1. ヒト

そもそも戦略を考え、編み出すのはヒトです。したがって、調達購買の担当者は、あらゆる場面を活用して、自社の戦略をサプライヤーに伝えなければなりません。また、サプライヤーの戦略も聴取して理解する。その上で、自社の戦略実行に有利となるような影響力をサプライヤーの戦略構築に際して行使しなければなりません。これまで、このサプライヤーマネジメントで語ってきた具体的な方策を活用して、影響力を行使するのです。サプライヤーと共同でPDCAサイクルを回し、様々な形態でのサプライヤーとのオフィシャルなミーティングを通じて、サプライヤーとのコンタクトを綿密に継続します。当然、異なる法人ですから、双方の戦略にはミスマッチが生まれます。それはやむを得ません。しかし、できるだけ早い段階で、バイヤー企業にとって不利な状況を察知し、バイヤー企業にマイナスとなる戦略構築に至った経緯を踏まえ、修正を働きかけます。結果、修正されれば良し。修正がむずかしく、かつバイヤー企業側も譲歩ができなければ、あらためて別のサプライヤーとの協業を目論むといったことも視野にいれなければなりません。

2. モノ

これは、サプライヤーから提供を受けるモノ、サービスが該当します。同業の他のサプライヤーと比較して、明確な優位性を持っていなければなりません。QCDDの中、どれでもかまいません。他のサプライヤーより抜きんでたメリットの存在は不可欠です。調達購買としては、「C:コスト」に評価の軸足を置きたくなります。もちろん、コストは重要です。しかし、ここでは貪欲に、コスト+αの優位性の確保に向けたサプライヤーへの働きかけをおこないます。コストだけに留まることなく、QCDD全般へ目を配るバイヤーでなければなりません。

3. カネ

これは、双方の利益を念頭に置きます。バイヤーとしては、自社の購入価格がどのレベルにあるのかに一番の興味があるはずです。しかし、前述の「モノ」のところで、購入価格、バイヤー企業にとってのコストには十二分に注目し、諸策を講じ、結果として安価で変えているはずです。その上で、バイヤー企業にとって、もっとも重要なサプライヤーへの取り組みを論じているのです。調達購買部門のみならず、関連部門を含めた全社的な協業で、メリットを生み出さなければなりません。そのためにまず、妥当性が保たれた協業にともなう発生費用については、積極的に支払うスタンスが必要です。もちろん、支払額が適切であるかどうかは十二分に吟味します。しかし、ささいな費用をサプライヤーに負担させることで、サプライヤーと共同して進める様々な取り組みを阻害することがあってはならないのです。ここでは、バイヤーにとっては経験のない「積極的な支払い」を志向して頂きたいと思います。なにをするにも原資が必要なのです。

もう一つ、前述した内容と一部重なりますが、サプライヤーからの購入価格を問題するのでなく、サプライヤーがどの程度儲けているか、どのくらい利益を稼いでいるかについても関心を持たなければなりません。事業を進める上では、サプライヤーにも適切な利益が必要です。重要なのは「適切さ」です。ボロ儲けでなく、サプライヤーとバイヤー企業の双方で適度な利益の確保を実現することなのです。

4. 情報

最後に一番新しい(といっても、最近の話ではありませんね)経営資源です。これは、双方にとっての「希少性」に注目します。といっても、噂話ではないので、しっかりとした機密保持契約を締結した上で、技術開発や商品企画に関して、サプライヤーに関係する部分を開示するのです。他のサプライヤーに先んじて知ることで、サプライヤーの事業運営にメリットをもたらすことを目的にします。

ここまで、サプライヤーマネジメントについて論じてきました。調達購買部門に属するバイヤーは、サプライヤーマネジメントがもっとも重要な責務であるとは、私の持論です。サプライヤーマネジメントを正しく実行する過程では、交渉もしますし、価格決定のためにいろいろなことを調査することもあります。交渉にしても、価格決定もサプライヤーを相手にして初めて成立します。調達購買部門にとって不可欠な存在を、どのように適切に処遇するか。サプライヤーマネジメントは、私のライフワークと行っても過言ではないテーマです。これからも環境変化に対応する新たな考え方、新たなサプライヤーマネジメントを模索して行きたいと考えています。

<終わり>

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