ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
<7 利益を出すコストダウンと改善手法>
10.サプライヤーと協業して実現させるコストダウン
コストダウンや、安定納入といった調達・購買部門の責務は、社内関連部門と同様に、サプライヤーとの相互理解を深め、両社の強固で柔軟な協力関係の構築が、迫りくる難題への回答を得る近道になります。
調達・購買部門に対する社内からの期待は、購入価格の削減です。しかし、サプライヤーは、購入するアイテムの製造なり販売のプロです。プロを相手に、例えば交渉のみでコスト削減を引きだせるでしょうか。購入価格を削減するためには、交渉以外の手段を活用しなければなりません。
また、自社(バイヤー企業)にとっての購入価格の削減は、サプライヤーにとって社内で発生するコスト削減を伴わなければ、サプライヤーの利益を自社(バイヤー企業)に差し出させるだけです。実態としてこういった状況はあるでしょう。しかし、利益が減少する活動に継続性は期待できません。では、どのようにサプライヤー社内を、コスト削減活動へ誘うのでしょうか。
☆見積依頼と価格交渉以外でサプライヤーと面談する
サプライヤーとの面談は、見積依頼の内容の確認や、見積金額の交渉といった内容が多くなります。しかし、自社(バイヤー企業)にとって重要性が高いサプライヤーとは、そういった実務の話ばかりでは不十分です。
自社(バイヤー企業)の購入費用削減=コストダウンがなぜ必要なのか。コストダウンは企業が存続するためには不可欠な活動、こういった考え方に疑う余地がありません。しかし、このような一般的な理由では、営利追求を目的とした営業パーソンを説得する根拠としては不十分です。自社(バイヤー企業)もサプライヤーも、最終的には利益確保を追究しています。したがって、サプライヤーにとって、サプライヤー社内における発生費用のない、自社(バイヤー企業)への販売価格の削減は、サプライヤー利益とのトレードオフの関係が成立してしまいます。この部分が、サプライヤーからの購入価格削減を難しくする大きな要因です。
調達・購買部門は、購入を通じて適正な購入コストを目指します。そのためには、ただ自社(バイヤー企業)の購入価格を下げるとの視点でなく、サプライヤーの社内で発生するコストをどうやって下げるとの視点を持たなければなりません。そして、そういった視線によって見えてきた実情から、自社(バイヤー企業)とサプライヤーとの間に存在する問題について、サプライヤーと語る機会を持たなければなりません。自社(バイヤー企業)に独善的とならないためにも、サプライヤーと一緒に、コストをどのように下げ、双方の利益を最大化するテーマでの議論が、協力関係の第一歩であり、購入価格削減へ向けた最初の協業になります。
☆目的を決めて繰り返し議論の「場」を設ける
日常業務以外のテーマについて議論をおこなうには、次のような「仕掛け」が必要です。自社(バイヤー企業)の周到な準備と仕掛けによって、具体的な成果=購入価格削減への道が開けます。
(1)テーマの選定
まずは、実際の取引全般に関する改善内容の洗い出しといったテーマで、討議を開始します。いきなり「コスト改善」よりも、最初は対象を広くとります。サプライヤーにコスト改善→利益減少→防御といった考えを持たせないためにも重要です。同時に、サプライヤーとの間に胸襟を開いて、率直な話ができる関係性も必要です。
(2)場所と日時の設定
あらかじめ場所と日時を設定します。取り組みに対する意気込みを示しつつ、開催による負担感を減らすため、打合せの時間は1時間ほどを予定します。「ちょっと時間が足りないかな」くらいがちょうど良いと判断し、不足感とともに次回の開催を決めます。
スタート時点は、サプライヤーの営業パーソン来訪のタイミングを狙って設定します。この活動は継続に意議があります。活動のスタート当初は、サプライヤーの営業パーソンの来訪に合わせたスケジュールでもかまいません。しかし、内容を深く検討する場合や、関連部門の協力が必要な場合は、自社(バイヤー企業)とサプライヤー双方の関連部門担当者まで含めた相互訪問を計画します。これは、双方の関連部門のメンバーを、活動の当事者にするために、必ず必要なプロセスです。
もう一つ、こうい
ったサプライヤーとの協業に欠かせない自社(バイヤー企業)内のアクションがあります。それは、調達・購買部門の上位者、課長なり、部長、担当役員から、関連部門上位者への協力要請です。要請には、活動の必要性と、目指すゴールを具体的にして織りこみます。部門ごとに上位者の理解を得られなければ、担当者の活動への協力が難しくなります。実際に活動する担当者だけでなく、上位者まで含めて、その必要性や、目指すゴールを具体的に共有して、組織的な活動展開を実践します。
(3)具体的な改善事項の決め、改善を実行する
一堂に会しておこなう討議の目的は、双方が共同し改善による無理無駄の排除に始まるコスト削減です。討議の冒頭であっても、具体的にすぐ改善できる内容があれば、すぐ対応して具体的なメリットを出しましょう。双方が集まる場ですが、あくまでも討議なので、内容で不明な部分は、お互いが持ち帰り社内で確認して、次回に報告との形でつなげます。この取り組みは「継続」がポイントです。したがって、重要サプライヤーとのみ開催します。実際、こういった取り組みは、バイヤー一人当たり3~4社おこなうのが精一杯でしょう。他部門からの協力、サプライヤーの協力姿勢、双方が費やしたコストへの対価を考えると、そう闇雲にどんなサプライヤーとでも可能な活動ではありません。まず自社(バイヤー企業)にとって重要なサプライヤーとの活動を模索します。
(つづく)