ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
サプライヤーマネジメント原論 4~関係断絶理論
前号では、自社製品のライフサイクル上のポジショニングを、サプライヤーマネジメントの一環である、関係断絶の判断基準に利用するお話ししました。
ライフサイクルとは、次の4つのステージになります。
1. 導入期
2. 盛況期
3. 成熟期
4. 衰退期
前回は、上記4の衰退期の製品へのモノ・サービスを納入しているサプライヤーとの関係を断絶するとしました。しかし、上記の4つのステージの4項にのみ納入をしているサプライヤーの数はいったいどの程度でしょうか。日々、多くのサプライヤーからの調達を行っているバイヤーの実感としては、上記の1~4の各期にそれぞれモノ・サービスを納入してもらっているのが実態となるかもしれません。それでは、その実態に即したかたちを見てゆくことにします。
次の表1を参照してみます。
<表1~クリックしていただくと大きく表示されます>
表1は、あるモノ・サービスの仕様に共通性のある3社の、ライフサイクル毎の納入割合を示しています。ライフサイクル毎の割合を見いだすことは難しくても、まずモノ・サービスの共通性で見分けることは比較的容易ではないでしょうか。そして限定されたサプライヤーにおいて、まずライフサイクルの各期での割合を見極めてみます。そして、仮にこの中で1社を関係断絶するとしたら、という前提で話を進めます。
まず赤字は、各社の特徴です。納入するモノ・サービスの中で最も割合の高いライフサイクルの時期を表しています。上記の表によれば、A、B社が盛況期を中心としており、C社が成熟期を中心にしているサプライヤーです。そしてC社は衰退期の売上比率も3社の中で一番です。そして導入期の比率は一番低くなっています。
このような例では、断絶するサプライヤーを1社選べとの問いに、全員がC社を選択するのではないでしょうか。しかし、実現には多くの困難が想定できますね。理由は、少なくても各期に分散して納入をしていただいているという現実です。
ここで、C社が導入期に納入している5%分についてです。この5%は、導入期といっても具体的にはどのような段階でしょうか。もし、試作・サンプルの購入であれば、これをA、もしくはB社へと転注することはできないでしょうか。もし、転注することが可能であれば、少なくとも製品のライフサイクルによって数年後にはC社とのビジネスは自ずと無くなることになります。そして次の表をご覧になってください。もし、上記の数量割合のまま、同じ割合で時間が経過したと仮定します。
さて、時の経過とともに、上記表2の割合へと変化しました。当然市場環境にも変化があるはずですから、当初の見通し通りの割合で一寸の違いなく推移していくことはありません。しかし、少なくともC社との取引の先細りは明確です。この段階になって、C社が巻き返しを期して新規のビジネスに積極的になれば、購入側としての危機は回避できる可能性があります。しかし、成熟期に全体の40%を占めていた売上は、衰退期へと移行することによって減少することが予測されます。取引全体の利益率は減少するのです。そのような中で、利益率の低い導入期へのビジネスに積極的に力を入れるかどうか。積極的になる源泉に乏しい状態になっているといえるのです。こうなってしまえば、C社との取引におけるリスクは明白になっています。が、これはライフサイクルを基準とした納入割合の分析を行っていれば、早い段階での掌握が可能です。
では、早い段階で掌握したら、どうすれば良いのか。
表1の段階で、C社の盛況期も含めたモノ・サービスへの今後の展開への目星をつけます。具体的には、導入期のモノ・サービスと同様に、盛況期のそれにも転注可否を模索するのです。もしここで、目星をつけることができれば、あとはその実行へのタイミングをはかるのみに集中することが可能です。そして、時の経過とともに、C社が衰退期のみのモノ・サービスの供給となった時点で、ラストバイをバイヤー主導で模索する。そして、C社とのビジネスは終わりへと近づくことになるのです。
ここで仮に、C社の表1時点での盛況期へのモノ・サービスが、実は転注できないとの判断が下されることもあります。そのような場合には、その理由を導入段階で各社の取引条件から排除することで、将来的なサプライヤーの固定化を防ぐことも可能です。
最近でも、大手電機メーカーでのサプライヤー数の集約という話題が新聞紙上を賑わせました。私自身も、これまでのバイヤー経験の中で「サプライヤー数の削減」というテーマに突然取り組んだ経験を持っています。しかし、現在進行形で進んでいるビジネスで、いきなり取引関係を断絶するということは、社内外から大きな反発を生む可能性が非常に高くなります。サプライヤーからの反発は、供給品の著しい値上げや、供給停止に及びます。バイヤーとして最も避けなければならない事態です。しかし、一方でサプライヤー数も無尽蔵に増やすことはできません。数量の増加によるコスト削減は、それだけに頼るバイヤーもどうかと思いますが、捨てるにはあまりにも惜しいコスト低減の一手法であるからです。
私が過去の苦い経験から学んだもの、それはサプライヤーとの関係は自然消滅が一番良いということです。それを無理に行うからこそ、いろいろな軋轢が生まれます。しかし、軋轢とは今日突然に生まれるモノでなく、過去にさかのぼれば、ずっと以前にその芽は生まれているといえます。これまでに述べてきたとおり、自社のモノ・サービスのライフサイクルという判断基準をサプライヤーのそれに当てはめることで見えてくるサプライヤーの未来の姿があります。その姿を先読みして、自然消滅への道を開くことが、マイナスインパクトの少ないサプライヤーとの関係を断絶する手段なのです。