シングルソースサプライヤに対処する方法(牧野直哉)
●ケーススタディ4~リスクヘッジ対応の複数社購買化
自社製品の材料となる化学品の原材料を購入している。現在使用している材料はシングルソース品が多くなっている。複数社購買を目指しても、似かよっている原材料はあるものの、微妙に性状が異なり同一品としてあつかえないケースが多くなっている。製品は複数の原材料を混ぜて製造をおこなっており、1つ材料を変更すれば、他の材料との兼ね合いによって発生する影響が、最終的に製品にしてみないと分からない状況になっており、実質的にシングルソースを打破できない状況が継続している。
調達・購買部門として安定的な原材料調達とコストリダクションの両立を目指しており、特に東日本大震災以降、地震や津波、事故など、大規模災害などが発生しても、原材料を調達できる体制作りを進めている。しかし、サプライヤの製品が類似であっても、同一ではなく、微妙な違いでも最終製品の仕様に影響を与えるため、多くの原材料で複数社購買ができていない。
●ケーススタディのポイントと解説
1.コスト削減と供給断絶リスクの両立
この問題はすべての調達・購買部門が直面する課題です。そして、このケースでは、シングルソースを原因としてリスクヘッジができない、コスト削減も進まない2つの問題に直面しています。1つの原因によって2つ以上の問題が発生している場合は、まずそれぞれの問題に分割して、対応策を見いだします。その上で、2つの問題に効果的な解決策を施します。まず、リスク。対応のセオリーは、次の3つのステップで進めます。
①想定するリスクを特定する
サプライヤからの供給がストップするサプライチェーン断絶リスクを分類していくと、様々な原因へとつながっています。今年の例では、大地震、工場の事故、火山の噴火の発生によって、一時的なモノも含めてサプライチェーンの断絶が発生しました。昨年を思い起こしてみると、大きな水害が発生しました。大雨の結果で、洪水が発生したり、土石流によって人命や建物に被害があったりしました。大地震でも、津波の被害もあれば、今年の熊本地震では大きな揺れによる建物の倒壊が発生しました。
「想定するリスクを特定する」と述べましたが、実はこれが非常に難しいのです。特に自然災害を対象にすると、リスクはどんどん広がって増えてゆきます。4月に発生した熊本地震では、被災者から「熊本は地震が少なかったのに」といった声が聞かれました。日本国内は、どこで大きな地震が発生してもおかしくないですね。問題は、地震によってどのような被害が想定されているかです。地震の揺れや、地盤の弱さによる建物の被害か、それとも津波や火災といった二次的な被害なのか。こういった点は今、全国の地方自治体によってハザードマップが公開されています。また国土交通省が公開している「国土交通省ハザードマップポータルサイト(http://disaportal.gsi.go.jp/index.html )」では、「重ねるハザードマップ(http://disaportal.gsi.go.jp/maps/#17/35.675984/139.744758 )」が公開されています。サンプルでは国会議事堂のデータを提示していますが、いずれのリスクからも「範囲外または未整備」とされています。サプライヤの所在地にどのようなリスクがあるのかが一目りょう然です。
②リスクの顕在化によって生じる被害を見積する
サプライヤ所在地におけるリスクが判明したら、サプライヤに災害想定リスクへの対応状況を確認しましょう。現在の所在地にはこういったリスクがありますが、リスクが顕在化した場合、従業員の生命をどのように守るかを確認します。決して、リスクの顕在化した場合の、納入を維持する方法を聞いてはなりません。サプライヤの従業員の皆さんが無事であれば、事業再開への可能性が高まります。先ほど御紹介した「重ねるハザードマップ」では、洪水、土砂災害、大規模盛土造成、治水地形、明治期の低湿地といった分類でリスクが提示されます。顕在化する可能性の高いリスクには、具体的な対応手段の整備をサプライヤに確認します。
③想定される被害に具体的に対応する
もし、想定されるリスクに対して、具体的な準備がおこなわれていない場合は、サプライヤに対応をうながします。「具体的な準備」は、リスクが高まった際にとるべき行動の決定です。先日、東日本大震災の発生後に、多くの人命が津波によって失われた小学校における対応を巡った裁判の判決が下されました。マスコミ報道によると、地震に襲われ、津波警報が発令されている中で、教職員が対応をめぐって話し合いをしていたそうです。話し合いが事前におこなわれていたら、多くの命が助かったかもしれない、そんな認識をあらたにする出来事でした。
<つづく>