ケースに潜む10の課題 2(牧野直哉)

前号に引き続き、2回目です。

本テーマのケーススタディは、72号を。そして10の課題1~3は、増刊73号をご参照ください。

4.現地工場に必要な日本人リソース

【ケース記載内容】
残りの10%は、現地パートナーの伝手によって、QCD、特に品質に問題ない、付加価値の低い部品のみを採用しました。調達部門に限らず、製造、品質保証、生産管理も、日本人の駐在員を置くことはしませんでした。立ち上げ前1年半、インド工場のキーマンとなる人間の日本での研修と、立ち上げ後1年間日本から出張ベースでのサポートをおこないました。現在は、各部門でマネジメントレベル(部課長)での週次でのミーティングによって、インド工場とのコミュニケーションが図られています。また、実務担当レベルでも、年一回ずつ選抜メンバーによる相互訪問がおこなわれていて、語学の得意な社員は、スカイプを活用して現地のサポートを日常的におこないつつありました。

【問題点】
海外に工場を立ち上げる場合は、各部門で日本人を置くことが最も早いと考えがちですが、間違いです。確かに計画段階から生産までに要する時間は短くなるかもしれませんが、その後の生産をしながらもおこなわなければならない改善活動を踏まえた場合、立ち上げ当初から現地雇用者を活用すべきです。日本人を多く派遣してしまうと、日本人オペレーション⇒現地人オペレーションへの移行という新たな難題・移行プロセスが生まれ、結果的に非効率となる可能性が高くなります。また、国民性や文化的な背景の違いを考える場合、雇用する従業員全員に日本人の国民性や文化的な背景を理解させるよりも、一部の現地マネジメントにのみ理解させ、現地工場での展開は彼らに立案し、実行して貰う方が得策です。
調達・購買は、商取引という現地の文化に根ざした活動をする上でも、現地雇用者の経験を活用する路は大きいといえます。また日本人の駐在員を現地へ置く場合、家族を含めると数千万の費用が発生しますが、現地雇用者であれば、数倍から数十倍の人員を雇えるとの点も見逃せない点になります。

【解決方法】
(1)日本にあるノウハウの中で、
①普遍的に日本と現地の両方で継続的に活用が可能なもの
②日本と異なるノウハウが必要なもの
があることを理解します
→日本式の押しつけは、現地進出したことで得られる発展可能性(伸びしろ)が失われる可能性が高くなります。また現地雇用者も定着しづらくなります。日本の考え方を理解し、明確なアウトプットがあれば、現地で勝手にやってもらう位の方がベターです。
(2)調達・購買で、Purchasingにまつわる部分は、進出先の商慣習をベースに構築することにする。従い、現地で信頼できる人材を雇用することが最重要目的

【必要なバイヤースキル】
(1)情報力
現地での雇用(各国で異なる)に関する情報は必須
(2)異文化コミュニケーション力
調達・購買の世界での、日本ではあたりまえの用語が、現地ではどのような意味を持つのかを、捉え、理解し、日本に周知する力

5.調達の現地化によるコスト削減の推進

【ケース記載内容】
インド工場の立ち上げ以降、インド人社員主導で、ノックダウン部品の現地調達化が進められました。日本製をインド製に置き換えるだけで、インド工場の資材費が日本対比で削減されるわけです。2008年の立ち上げ当時、6ポイントの差だった日本とインドの資材費の差は、今年は16ポイントに広がっていました。現地の人件費は日本よりも低く、総コストでは、2007年の日本でのコストを100とする場合、今年(2012年)には、インドでのコストが78と24ポイントもの差が生まれていたのです。

【問題点】
今回の問題点への解決策を考えても、ノックダウンで現地工場を立ち上げて以降、現地化によるさらなるコスト削減をおこなうことは必須になります。
現地調達の障害は、要求スペックの前に、日本で作成される要求仕様書や図面に代表される資料類が、現地で活用できないことです。ここでの問題点は、日本国内であたりまえとなっている日本人同士の取引を前提とした情報授受の方法です。

【解決方法】
(1)進出先の現地の状況に合わせて、日本の社内と現地社内の情報に格差が生じないための手立て
(2)具体的には
①言語の選択(グローバル言語としての「英語」を採用すれば、他の国へ進出する際も再活用が可能、しかしアジアの場合は英語圏が少ないし、自社内の英語の浸透度を含め検討する)
②これまでの社内資料(図面、仕様書、社内規定)の、現地で理解可能という前提でのバイリンガル化
→この問題は、進出元となる日本の社内で、海外への進出を、実際に業務に関係する担当者だけでなく、社員全員が「当事者意識」を持てるかどうかにかかっています。項目4のケース中に「日本へ呼んで研修した」とあります。遠く海を隔てた場所からきても、机を並べた同僚と同じ感覚で接することができるかどうかが重要なポイントになります。全社一丸となって、進出先の工場との一体感を生むことが必要です。

【必要なバイヤースキル】
(1)語学力
日本人が英語を学ぶと同時に、進出先雇用者に、英語、そして日本語の習得を奨励する
(2)海外渡航・滞在スキル
慣れない国での一定期間の滞在を想定した様々な準備。できれば、だれと決めずに、だれでも進出先最寄りの空港や、至近のホテルまでは一人でたどりつき、休日等も過ごせる精神力
(3)社内への影響力
進出先含めた一体感を、日本の社内でどのように醸成できるか。
→上記(2)は「そんなこと……」と呆れられた読者の方もおられるかもしれません。しかし、慣れた行程の中でトラブルに遭遇し、それ以降精神的なダメージによって、海外の業務にはご無沙汰となってしまった例に何度も遭遇しています。また実際のトラブルの経緯を聞くと「なんで、そんな……」という、明確な原因が存在します。この辺は、進出先の一般常識を学び、理解して実行するという点では、立派に「スキル」と考えるわけです。

6.2012年の顧客要求

【ケース記載内容】
インド以外への直接輸出分、国内販売で最終仕向地が新興国分も、円高に悩まされていました。坂本ディーゼルの顧客への販売は、約70%が円貨での取引で直接的な円高による差損はインド工場へのノックダウンの受け取り迄含めた財務的な処置により、限りなくゼロに近い状態でした。しかし、外貨でビジネスをおこなっている顧客からのコスト低減要求はすさまじく、2012年度は、概ね2~3割のコストダウン要求がありました。同時に、震災後一年以上が経過し、サプライチェーンは寸断による供給不安は解消されていましたが、国内の顧客からは、坂本ディーゼルが一部顧客に供給しているインド工場の製品への興味が多く示されることになったわけです。

【問題点】
多くても年に2~3回のサプライヤーミーティングに、新聞の見出しのようなありきたりな要求をしてしまうことです。
経験したことがない今日の難局を乗り越えるためにこそ、サプライヤーのリソースを活用すべきです。サプライヤーとの協業体制をより強化し、困難な状況を打開すべきです。そのようにサプライヤーにも感じて、考えに同調して貰うためには何が必要でしょうか。ありきたりな一般論でなく、もっと自社のビジネスにフォーカスしたテーマ・方針を、まずバイヤーとして考え尽くした上で、提示することが必要なのです。バイヤーが考えなければ、当然サプライヤーも考えません。バイヤー企業として、現状認識と、見通しをおこなった上での、他社と異なる課題形成をおこなうことが、調達購買の競争力の重要な構成要素となるのです。

【解決方法】
ケースでは「円高」が大きな要因としてとらえられていますが、円高の影響としては
①外貨建ての売価による、演歌ベースでの減収
②ドル建て評価での人件費の高止まり
が、マイナス要因として挙げられます。また、日本の産業構造を考えれば、原材料を輸入しているケースもあり、円高にはメリットも存在するはず。その辺まで踏み込んだうえで、問題を仮説化して、サプライヤーへの要求を行う必要あるわけです。
もう一つ、円高が問題となるのは、レートによって相対的に高額になる日本企業の正社員に費やされる人件費です。この部分へのアプローチを、サプライヤーへのコスト削減と同時並行で社内的に実践することが必要です。行動に裏打ちされた上で、サプライヤーへの要求を行なえば、より説得力をえた首長となるはずなのです。

【必要なバイヤースキル】
(1)情報力
(2)情報分析能力
(3)課題形成能力
(4)意思伝達能力

<つづく>

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