シングルソースサプライヤに対処する方法(牧野直哉)

前回まで、シングルソースサプライヤについて、様々な観点から分析をおこないました。今回からシングルソースサプライヤへ対応する「戦略」を述べます。シングルソースサプライヤは、その独占状況に応じて、4つの戦略を活用します。今回は4つの戦略の概要を述べて、次回以降具体的なケーススタディを含め、解説をおこないます。

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●独占状態:「協調戦略」と「打破戦略」

独占=発注できるサプライヤが1社しかいない場合、まずは1社しかいないサプライヤと協調して、バイヤ企業の要求内容のQ:品質とD:納期の2つは最低限実現を目指し安定的な供給を確保します。サプライヤはどうやって市場における差別的優位性を確保し、独占的な地位を築いたのでしょうか。ほぼすべての場合、価格競争に巻き込まれず、安定的な利益確保を目指した結果です。独占サプライヤと交渉するバイヤ側から見ても、さまざまな購入条件の中で、購入価格交渉の難易度がもっとも高いはずですね。競合がないのであれば、価格以外の条件を優先させた購入条件の確保を目指します。協調戦略とは、サプライヤの独占状態を作った努力に敬意を表しサプライヤの主張を尊重しつつ、自社の要求の通しやすい点を探します。自社に有利な要素が少なく、劣勢を強いられる厳しい交渉が想定されますね。ここで多くのバイヤは、独占サプライヤの対応に嫌気が差して、関与の度合いを減らしてしまいます。自分では、サプライヤを相手にしないといった強気の姿勢かもしれません。しかし、これこそサプライヤの言いなりです。サプライヤに言いなりにならざるをえない状況を作ってしまったバイヤの責任感を誠実に感じて対処します。

また独占サプライヤですが、本当に独占でしょうか。どんな企業でも、サプライヤの探索能力は、限定された能力です。世界に広がったビジネスの、すべての事業活動を網羅した上で「独占」と判断していませんね。したがって、独占と位置付けているサプライヤとは協調戦略の構築を狙いつつ、一方では必ず存在する、別の供給ソースの探索を同時並行的におこないます。

●発注できるサプライヤが2~6社:「発注戦略」

発注可能なサプライヤが2社以上存在する場合、存在するサプライヤは、お互いに対抗心を燃やして、バイヤ企業の仕事を争って受注競争をおこなってほしいですよね。そういった状態を創り出すツールが「発注」戦略です。まず複数サプライヤが存在するといっても、2~6社では複数社寡占状態を疑います。複数社寡占状態かどうかを判断するには、次の方法で自社の発注額の推移を確認します。

(1)自社製品の新製品発売(モデルチェンジ)サイクルを確認する
(2)発注する製品もしくは製品カテゴリーの発注金額のデータを(1)の年数以上の期間にわたって集める。
(3)(1)の年数以上の期間で、複数のサプライヤの発注シェアの変動があるかないか。また発注するアイテムの変動があるかどうかでも判断可能

複数社購買体制が確立できていると思っていても、発注シェアやアイテムを確認して複数社の間でアイテムのすみ分けを確認できる場合があります。サプライヤ各社にも得意分野に違いがあり、サプライヤの特性を理解した上で発注している場合もあるでしょう。しかし競合状態とは、サプライヤがバイヤの意志によって変更ができる状態を維持しなければ機能しません。したがって、長年にわたって複数サプライヤのシェアが、製品あるいはカテゴリーで固定している場合は、まさに複数社寡占状態にあると判断し、積極的に発注するサプライヤを動かす取り組みをおこないます。ここで、動かしたくても動かせないのであれば、複数社による寡占状態です。打破すべき状態になります。

●発注できる7社以上:競合が機能する「関係構築戦略」

直接材の場合、どんなバイヤでも数量をまとめて生まれる量産効果を期待するでしょう。同じ製品やカテゴリーに7社以上サプライヤが存在しても、各社同じように管理したり、コミュニケーションを維持したりするのは手間が発生します。したがって、同じ製品やカテゴリーに7社以上のサプライヤが存在し、競合環境を構築するには、次の3つの条件整備をおこなった上で、各社と関係を構築しなければなりません。

(1)バイヤ企業の関与が少なくても確保される品質レベル
(2)バイヤの関与が少なくても維持される関係
(3)バイヤ企業の関与が少なくても理解される購入要求内容

まず(1)は、自社の要求内容より、何らかの規格にもとづいて、多くの顧客を既に確保しているといった実態で確認できます。(2)は、金額的に安価であったり、バイヤ企業の要求内容が高度でなかったり、限定された打ち合わせによって納入条件が決定できるアイテムです。(3)は説明を省略できるくらいに明文化された購入仕様が一読して理解できる内容が必要です。

自社の購入製品やカテゴリーで購入可能なサプライヤ数に沿って、4つの戦略を活用して、自社の要求条件に適合した発注を実現します。

(つづく)

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