ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●リスクが顕在化したときに、どうやってサプライチェーンを維持するか

リスクが顕在化したとき、調達購買部門としてどのような対応をすれば良いのでしょうか。それはまず、顕在化したリスクが自社にどのような影響を及ぼすのかを明らかにして対処します。

前回、調達購買部門で考慮すべき8つのリスクを述べました。

(1) 供給に対する顧客の要求(または需要)
(2) 価格(国際的な為替レートの変動含む)
(3) 競合企業の動きによる影響(特定し、競争力を判断)
(4) 生産能力(技術の進歩を含む生産に必要な要素)
(5) 技術予測
(6) 供給資源
(7) 規制
(8) ロジスティクスリスク

それぞれの内容は、バックナンバー(増刊109号)をご参照ください。企業の事業運営において想定されるリスクは、社内部門で分担された責任に応じて、各部門で主体的に対処しなければなりません。調達購買部門で、主導的な役割を担って具体的な活動を行なうリスクとは、(1)供給に対する顧客の要求(または需要)(2)価格(サプライヤーからの購入時)(4)生産能力(サプライヤーの質的、量的両面での能力評価)(6)供給資源(7)規制(8)ロジスティクスリスクの6つです。そして、6つの要因が絡み合って発生する供給停止は、なんとしても避けたいのが調達購買部門、そしてバイヤーの願いです。しかし願っているだけでは事態は改善しません。この6点に関して、まず想定される具体的なリスクを特定しなければなりません。なにが起こっても、事業を維持する、供給を継続するのであれば、前回も述べましたが対応すべき事象は無限大に拡大してゆきます。6点に関して、個別にある状況を想定します。「想定する」のですが、ここではリスクの特定をおこないます。そして、特定したリスクが顕在化した場合に、あらかじめ設定した代替案を実行してゆきます。ここでは日本国内で発生が懸念される震災といった大規模災害を例にして考えてみます。

☆なによりもまずやること

大規模な震災でリスクが顕在化した場合の対処は、まずサプライヤー、バイヤー企業(自社)、顧客の3者の状況を正確に掌握するところから始まります。

災害によって、サプライヤー、バイヤー企業(自社)、顧客のいずれかが被災した場合を想定します。バイヤー企業(自社)が直接的に被災した場合、優先しなければならないアクションは「復旧」となるはずです。早急に復旧するためにも、災害に遭遇に際して従業員の生命の安全の確保が最優先です。したがって、大規模災害の発生時は、まず自分がどのように生き延びるのかを考えなければなりません。普段仕事をしているときに想定されるシチュエーションにはどのような状態かを考えてみます。

① 自社オフィスでデスクワーク
② 自社の他部門や現場で打ち合わせ/会議
③ 自社でサプライヤーと商談
④ 通勤、出張等で発生する移動
⑤ サプライヤーで打ち合わせ
⑥ 出張先での滞在(食事や宿泊)

自社のオフィスであれば、比較的冷静に対処できるかもしれません。自社で災害に遭遇した場合は、特に来訪者に配慮します。エレベーターのある建屋では、閉じ込められた人がいないかどうかといった確認もおこないます。

問題は④~⑥のケースです。最近では、国内外の出張に携帯電話の携帯が必須となったため、以前に比べて出張時の訪問先、宿泊先の確認が疎かになっていませんか。以前は、訪問先、宿泊を伴う場合は宿泊先の連絡先を、出張前に報告していました。また、私が自分で一番恐れているシチュエーションは移動中です。都内の在来線や地下鉄、私鉄、新幹線などに乗車していた場合にどうすれば良いのでしょうか。私は移動中に大規模災害に遭遇した場合に備えて、遭遇した場所とシチュエーションをでエリアを分割し、それぞれのエリアに応じて対応を決めています。例えば東急東横線の渋谷~多摩川間であればこうする、とかです。

2011年の東日本大震災発生以降、サプライチェーンの維持は、さまざまな検討がおこなわれました。しかし多くの検討例で抜け落ちていると感じるのは、サプライチェーンの維持の前に、従業員の命をどのように守るかです。サプライヤーの供給可否を確認する従業員をいかに失わないかが達成されて、初めて次のステップに移行できるのです。

しかし、上記④~⑥のケースは、企業内であっても画一的に対応できる内容ではありません。オフィスは同じでも、住居はそれぞれ異なります。したがって、個人ベースで遭遇した場所に応じた対応を、あらかじめ自分で決定しなければならないのです。企業としては、そういった対処の実行を促さなければなりません。

☆供給を維持する必要があるのかどうかを判断する

大規模災害が発生した場合、供給の維持はサプライヤー、そして顧客の被害状況にも大きく左右されます。自然災害によるリスクの顕在化は、サプライヤー、顧客と自社の状況を見極めて、対応の優先順位を決定しなければならないのです。次の表をご覧ください。

<クリックすると、別画面で表示されます>

自然災害は、サプライヤー、顧客、自社の区別無く、同じように影響およぼします。供給を継続するための対処は、自社と顧客が無事、もしくは被害が軽微であって、サプライヤーが被災したケースです(上記表4のケース)。この場合、バイヤー企業として顧客に貢献するために、サプライチェーンの維持しなければなりません。それ以外の7つのケースは、特別な対応の要否を関係部門と協議します。震災で被災した場合、自社及び、自社従業員の安全確保が第一。続いて顧客も安全である場合に初めて「供給継続」を検討します。顧客と自社の安全が確保され、被害がない、もしくは軽微である場合は、サプライヤーの供給状況がクローズアップされるのです。

☆リスク顕在化時の対応

まず、マスコミの報道を通じて、被害の程度を掌握します。この「被害の程度」の掌握は非常に難しいのは、前回の震災でも実感しています。当時、私は東北で大きな被害を受けた地域のサプライヤーと取引をしていました。震災発生直後は、震度の大きさで、被害の程度を想像しました。続いて、あの津波です。サプライヤーの所在地は、マスコミでも大きく取り上げられた地域で、供給可否よりも前に、数日前に打ち合わせをおこなった担当者の消息が気になりました。続々と伝えられる報道で、早期の供給再開は絶望視していました。震災発生の翌日、サプライヤーの社長から電話をもらいました。従業員のほぼ全員と連絡が取れないとの内容で、とてもこちらから供給再開の見通しを聞ける状況ではありませんでした。しかし、津波は工場から数十メートル海側で止まり、工場が津波からは無事であると確認できました。最終的には、震災発生の4日後に従業員全員の無事が確認され、電力の供給の回復と共にサプライヤーの操業は再開しました。このケースでは、操業可否の見通しを確認するまでに4日必要でした。大きな災害の発生後は、相手の置かれた状況を配慮した上で対処しなければならないのです。

まず、正しい情報入手するのは重要です。サプライヤーの担当者が仕事の話ができる状況にあるかどうかをまず確認します。被害の度合いによっては、状況確認を控える判断も必要です。また、そのような事態に備えて、リスクが顕在化した場合の、バイヤー企業への連絡手段と内容をあらかじめ合意しておくのも有効な準備です。

続いて、サプライヤーの状況が自社に及ぶ影響を想定します。供給停止の期間が、数日なのか、数ヶ月かといった判断です。数日で復旧できる場合、供給再開を待つとの判断も検討します。供給停止が長期間の場合、代替サプライヤーや、準備していた在庫によって、供給停止を乗り切ります。

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