教養としてのコンビニエンスストア戦略パート3(坂口孝則)
<コンビニエンスストア各社の動向は、まさに日本企業の先端動向を示しています。ここでは調達・購買担当者を読者として想定しているものの、教養としてのコンビニエンスストア戦略をルポしていきます>
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・3.コンビニ商品開発の実態と特徴、今後の戦略
ここから話を商品開発に転換し、その実態と特徴を説明する。
コンビニエンスストアにたいしてもっとも大きい消費者ニーズは、中食(持ち帰って家庭内で食べる食事の形態)商品をはじめとする食品類であり、各社ともここに注力している。スーパーとの差別化ポイントは24時間営業にあり、コンビニ各社はお客の冷蔵庫を代替しているともいえる。そして同時にこの食品類開発に各社の戦略も透けて見える。
・3-(1)-①コンビニ商品開発の実態
コンビニエンスストア業界ではセブン-イレブンが先行した商品を、他社が後追いする傾向が続いてきた。たとえば、サラダをカップ状にしたのも、赤飯をおにぎりにしたのも、ツナマヨネーズを売りだしたのも、セブン-イレブンだった。これは本社の企画力としてセブン-イレブンが優位性を誇っていることを示す。
ただし、生鮮食品を取り扱ったのは、ローソンが先行したし、惣菜もファミリーマートやローソンが先立った。その意味ではセブン-イレブンの優位性とは、先行していても後追いであっても、商品の改善力で圧倒的な品質の商品を具現化するところにある。
セブン-イレブンの商品開発は同社主導でおこなわれる。まず商品コンセプトを提示し、手をあげたメーカー各社を競合させる仕組みだ。セブン-イレブンはメーカーの技術力をリサーチのうえで最大限の提案を引き出す。また、厳しい目標コストを提示する。高いレベルの商品仕様が決定しており、競争も激しいため、必然的にコストはギリギリまで抑えられる。
コストの多寡によって売価を決定する方法を原価主義といい、逆に理想売価からコストを逆算する方法を非原価主義と呼ぶ。つまり「コストがいくらかかるか」を考えるのではなく「コストをいくらに抑えねばならない」と考える方法だ。
セブン-イレブンは非原価主義によって、取引メーカーから最大限の強みを引き出しているといえるし、その徹底した状況からセブンプレミアムなどの高価値商品が生まれているともいえる。
セブンプレミアムにたいし、ローソンは前述のとおり、健康志向を全面に押し出し差別化しようとしている。また、ファミリーマートはセブン-イレブンを正面から追い越そうとする意気込みが随所に見られる。悪くいえば「セブンと似たようなラインナップだが、後追いの有利さを活かし、価格と品質で勝負しようとしている」のだ。たとえば麺類(セブン-イレブン「つけ麺」にたいしてファミリーマート「極太つけ麺」)だったりチルドハンバーグ(セブン-イレブン「金のハンバーグ」にたいしてファミリーマート「ハンバーグステーキ」)だったりといった商品では明確な対抗意思が感じられる。
・3-(1)-②コンビニ商品開発における他業態との差別化
ところでコンビニ各社と付き合うメーカー各社が、高品質・低価格の商品を具現化できるのは、もちろんその数量の圧倒さにある。と、同時に、コンビニ各社の表示戦略にも要因がある。コンビニ各社は商品パッケージに製造者名称を記載している。これは消費者を安心させる目的があると同時に、メーカー側に高品質維持のプレッシャーをかける目的がある。もちろん、製造者名称が記載されなければ品質がおざなりになるわけではない。ただ、自社名が記載される以上はメーカーが結果的に高品質・低価格の商品を”作ってしまう”傾向がある。
これまで、プライベートブランド商品の食品パッケージには、「製造所固有記号」の使用が認められてきた。記号と数字を使って生産者を表示する方式で、販売者さえ明記していれば問題とはならなかった。プライベートブランド「トップバリュ」で有名なイオンや「みなさまのお墨付き」などがある西友は、これまで販売者(自社名)を表示するものの、製造者名称については記載してこなかった。
2015年4月に施行された食品表示法では、2016年4月に「製造所所在地などの情報提供を求められた場合の連絡先」や「製造所所在地等を表示したWEBサイトのアドレス等」、もしくは「当該製品の製造を行っているすべての製造所所在地等」のいずれかを併記しなければならない。プライベートブランド販売の各社は、この法律施行によって、製造者が明らかになってしまうと戦々恐々だ(なぜならば他社のプライベートブランド商品と同じメーカーだと判明してしまうし、または海外メーカーゆえに悪印象を消費者に与えてしまうかもしれない)。しかし、コンビニ各社はむしろ以前から製造者名称を記載し、逆手にとることで消費者へ安心感を与え、製造者にたいしては品質を向上させるプレッシャーとしてきた。
・3-(1)-③コンビニ商品開発における中央集権化特徴
コンビニ各社とも、本社に多くの権限が集中しており、中央集権型の商品企画が行われることにも特徴がある。たとえば、コンビニではコーヒーの販売が集客の目玉になっているのはよく知られている。コンビニエンスストアでは店頭でのコーヒー販売が好調で、2015年には大手5社で19億杯を超える予定だ。14年度が15億杯だったから、実に3割以上の成長率となる。コーヒーとの「ついで買い」消費が見込めるドーナツ販売を各社とも拡充する見込みだ。これら大規模な全店舗展開は強い本社の力抜きには考えられない。
たとえばセブン-イレブンではセブンカフェで100円コーヒーを販売しており、これがそれまでコーヒーチェーンに向かっていた需要を取り込みはじめた。この圧倒的な成功は、本社主導によって、複数メーカーを共同開発させたことにあった。カフェの豆は味の素ゼネラルフーヅが担当しており、コーヒー機は富士電機が担当していた。ほんらいは別々で開発が進むところを、本社主導で富士電機とともに味の素ゼネラルフーヅが最高の味が実現できるように徹底的に作りなおされた。さらに本社は富士電機にたいして2万台のコーヒー機をまとめ交渉し、導入コストを最適化したうえで全国のセブン-イレブンに納入した。
・3-(2)コンビニ各社がこれから歩む道
さて、コンビニ各社は今後、どのような戦略で闘おうとしているのだろうか。大きくマトリクスで各社を配置した。
横軸が「地域最適」か「全体最適」か。速水健朗さんは『フード左翼とフード右翼』(朝日新書)で「地域主義」と「グローバリズム」なる軸を使用したが、ここでは「グローバリズム」ではなく全国均一ていどの意味を設定する。そして縦軸は、セブン-イレブンなどに見られる「自社単独主義」なのか、他社との技術連携などから新商品を生み出そうとする「他企業連携主義」か、とした。
【セブン-イレブン】
意外に知られていないものの、セブン-イレブンは地域限定商品を拡大しようとしていることだ。スーパー各社はプライベートブランド商品を乱発し全国の品揃えを均一化しようとしたが、セブン-イレブンは違う方向に進みつつある。
セブン-イレブンはもちろん全国展開するプライベートブランドの品質向上には努めているが、同時に、地域限定商品の劇的な拡充を目論んでいる。現在は、その地域限定商品の比率は10%にすぎないというが、それを2017年までには50%(!)に引き上げる。地域の特性を考慮したうえで、商品仕入をかなり細かく実施する。
以前、コンビニエンスストアが広がるほど、日本は金太郎飴のような均一化が生じると危惧した論者がいた。しかし、現状は、その逆に進んでいるのである。セブンは、売上高2,793億円(2014年2月)の万代と組むと発表したが、この意味は、その地域限定商品の点から読み解かねばなるまい。つまり、地域独自商品のサプライチェーンを有すことが、これ以降の差別化と成長にとって欠かせないと判断したのである。
セブン-イレブンはたとえば力を入れるスイーツを、地域商品の代替ととらえている。地方の点在していた街のケーキ屋が減るなかで、定番商品をセブン-イレブンで買ってもらいたいとする。同社は2011年から2013年にかけて商品供給量を二倍に伸ばした。女性の購入比率は5割を超え、セブンカフェとあわせてさらに集客をねらう。
セブン-イレブンは今後も圧倒的な強さを活かし、それを地域最適な商品販売へと舵を切っていくだろう。
【ローソン】
あらためていうまでもなくローソンはエンターテイメントチケットを全国販売できる強みをもっている。全都道府県に進出しているからだ(なおファミリーマートも全都道府県に進出している)。セブン-イレブンはチケット販売を集客ツールと位置づけているものの、ローソンの場合は、単独で利益を生む構造となっている。ローソンは店舗運営上、商品の全店舗への水平展開を得意とする。
ローソンのロッピーで買えるのはエンタメチケットにとどまらない。生鮮食品から医薬品、宝くじに、そして各種保険までにいたる。ローソンではアマゾンジャパンと提携を進めるが、これは単にローソンでアマゾンの商品を受け取るサービスではない。シニアがローソン店舗からアクセスすれば、オペレーターが親切丁寧に”はじめてのネットショッピング”を指導してくれる。それによってシニアをローソンに引き寄せ、比較的ブランドスイーツチが起きにくいネットショッピングを、ローソン・アマゾン連合に固定しようとしている。
面白いのは、ローソンがアマゾンとの連携に見られるように、他企業とのシナジー効果を狙っていることだろう。ローソンは、その他にも、きわめて面白い取り組みを行っている。
たとえば同社は、食品メーカーの研究開発部門を訪ねて、商品化できていない”埋もれた”技術を発掘してきた。食品メーカーだけでは先行開発して確立した技術を商品として具現化できないケースも多い。しかし、ローソンは圧倒的な消費者データベースをもっており、その情報をすりあわせれば、商品化に近づく場合もある。しかもローソンは商社をバックにもつため、素材や原材料の選定や調達にも携わることができる。
有名なのはロッテと味の素の技術を結びつけ、体内脂肪を減らす「ウォーキングプラス」を商品化した。その他にもローソンは、食品メーカーの研究所などから積極的に施術情報を情報収集し、消費者ビッグデータと照らしあわせて、莫大な数のオリジナル商品を作ろうとしている。そこで強みは共通ポイント「ポンタ」のデータで、どのような商品をどのような消費者が購入しているか、そして頻度までを把握している。
ローソンはビッグデータ分析とともに、他企業との柔軟に連携し闘っていくだろう。
【ファミリーマート】
ファミリーマートはゲリラ戦を仕掛けているように見える。新型フラッペのカフェフラッペはシャーベット状の飲料で、爆発的なヒットを記録した。これはガリガリ君の技術を転用したこのフラッペはほどよい食感で男女問わず人気を博した。この商品に見られるように、ファミリーマートにはユニークかつ、一点突破的な商品が目立つのだ。
その他、ファミリーマートは「俺の」スイーツや、「大人」のポテトサラダなどの高付加価値商品が生まれている。
まさかのコラボが、ユーグレナとのもので、ファミマはミドリムシ(ユーグレナ)飲料を発売した。ベンチャー企業ユーグレナと開発した「ヨーグルト葉酸プラス」「くるみ&クランベリーのパン」「フルーツロール」を通じて、ビタミンやミネラルが豊富という健康志向をお客にPRした。
ファミリーマートの商品開発として特徴的なのが、そのような自社ユニークな商品企画を立てつつも、他の団体とタッグを組むことだ。同社はたとえば高校生が発案したお弁当を販売したり、お客からの声を広く集めたりする活動を継続してきた。最近では、サイバーエージェントのアメーバ会員と共同で新商品開発を試行した。具体的には女性ブロガーの代表者と打ち合わせを実施し、いくつかの商品候補を絞ったうえで、2500万人をこえる全会員にたいしてネット投票を促す仕組みだ。スイーツなどを中心に、外部の声を使うことで同社は商品開発を進めようとしている。
【その他+地方コンビニ各社】
そしてその他のコンビニチェーンや、地方のコンビニ各社は、地域の独自色で勝負しようとしている。
サークルKサンクスでは、たとえば能登の食材を利用した弁当や洋菓子を2015年4月に発売した。地方の豚肉等の食材を使用する商品はいまでは珍しくないものの、同社の取り組みが新しかったのは、パッケージに生産者の顔写真を載せたことだ。スーパーなどではよく見る機会のある顔写真付き商品も、コンビニエンスストアではほとんど例がなかった(スリーエフが温州みかんや神奈川県産トマトや甲府市巨峰に生産者の顔を貼ったなどの例外があるのみ)。これも、サークルKサンクスが若い女性を引き寄せる施策の一環だった。
またサークルKサンクスも、全国で人気となった地域限定食材を使い販売している。弁当でも人気のものを取り上げて全国販売するといった取り組みも行っていた。
スリーエフでは、ローソンやファミリーマートと差別化するために、銘酒を使った「酒まん」を2015年に発表した。これは酒蔵と組んで、地元の消費者にアピールする商品開発の一例で、地域色を全面に出す戦略だった。
ニューデイズでは、食品メーカーと連携し、おにぎりの商品開発数を増やしている。同社の親会社であるJR東日本はもともと駅弁などで、地方独自の食品開発に強みを持つ。ニューデイズでは意外なほどおにぎりの数が多いと印象をもつひとは少なくないが、しかも、その品揃えは地方によってわけるというこだわりぶりだ。
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これまで、約1万字を使い、代表的なコンビニエンスストア各社のターゲティングから各社の将来展開までを説明してきた。
現在の闘いはコンビニエンスストア同士のそればかりではない。スーパーマーケットやドラッグストア、GMS、さらにはネット通販大手もいる。全国5万店を超え、10兆円市場となったコンビニエンスストア業界は一瞬たりとも安穏とはしていない。強者と勝者になることを夢見て、業界各社はうねりを続けている。
=コンビニエンスストア各社の動向から日本のいまがわかる~この連載おわり=
<了>