ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
6-11 サプライヤマネジメントの基礎 ~どのように関係を終わらせるか
今回は、これまでの話とはすこし趣向を変えて、サプライヤとの関係の終わりとその方法論について考えてみます。新しく開拓したり、関係を拡大したりするサプライヤがいる半面、取引関係を終えるサプライヤの想定も必要です。取引関係を終わらせる場合、バイヤ企業からの突然の取引停止の通告は、サプライヤ管理、そしてリスクマネジメントの観点からも絶対に避けなければなりません。
過去にサプライヤからの購入を通じて、バイヤ企業は事業の遂行ができていました。現時点では、サプライヤとの取引継続になんからの疑問符があるわけです。しかし、サプライヤの過去の貢献には敬意を持つべきです。一方で、過去の貢献のみで、最悪の場合バイヤ企業にはデメリットがあるにもかかわらず、取引を継続すべきではありません。これは、バイヤが持たなければならない重要な「バランス感覚」の1つです。
☆なぜサプライヤとの関係を終わらせるのか
サプライヤマネジメントは、様々な要因によって起こる事業環境の「変化」に対して、バイヤ企業の要求事項をサプライヤが維持しているかを確認するためにおこないます。しかし事業は、時間の経過と共に変化するものです。経営環境のみならず、バイヤ企業が打ちだした戦略や、戦略にもとづいた顧客に提供する製品、サービスの変化は、サプライヤへの発注内容にも大きな影響を及ぼします。
バイヤ企業がさまざまな変化に対応するのと同じく、サプライヤも対応し変化に追従し続ければ、取引関係は継続します。しかし、さまざまな変化の結果、サプライヤの持つリソースと、バイヤ企業のニーズがミスマッチとなる事態も想定しなければなりません。過去に重要であったサプライヤが、無条件に現在から将来に渡って重要であり続ける保証はありません。双方の進む方向性や、バイヤ企業として求めるリソースと、サプライヤの持つリソースが明らかに異なる場合、サプライヤとの取引関係の解消を検討します。
☆避けるべき事態
近年さまざまな理由、具体的にはグローバル化や急激な為替変動に対応するために、海外サプライヤとの取引が拡大しています。海外のサプライヤとの取引を開始する際、国内サプライヤの取り扱いには注意が必要です。
下請中小企業振興法は、このような事態を想定し、取引停止には相当な猶予期間をもった予告を親事業者(発注側)に求めています。この法律の悩ましい点は「相当な猶予期間」明確に定義されていない点です。突然の発注停止はバイヤ企業への依存度が高いサプライヤにとって死活問題です。実際に、相当の猶予期間を争点に損害賠償を請求し、認められた判例もあります。突然の取引停止は、トラブルの原因となる可能性が高く、バイヤ企業としては避けなければならない事態と認識しましょう。
具体的な期間が定義されていない状態で、調達購買部門が求めるのは、発注停止との判断をサプライヤに納得してもらう以外に手立てはありません。これは、発注停止/取引終了への準備です。
☆取引終了を準備する
継続的に購入してきたにも関わらず、購入が減少したり、、海外サプライヤからの購入したりする場合は、その根拠と購入計画をサプライヤへ提示します。伝えるべきポイントは「原因」「理由です。あらかじめ取引を続けられない理由を伝え、改善の余地を確認します。その上で、改善の意志がない、あるいは結果が得られなかった場合に、初めて取引停止へと移行します。
過去に大量の発注を行っていても、時代の変遷と共にニーズが減少し、発注量が減っている購入品の取り扱いは、難しい対応を迫られます。購入数量が少なくなった過去の大口購入先との関係など、多くのバイヤにとって触れたくないテーマです。しかし、調達購買部門にとっての発注権とは、大きな権限であり「力」です。調達購買部門としての責任を果たすためには、無駄にせず、効果的に活用しなければなりません。新規発注がなく、将来的に発注量は増えないサプライヤは、サプライヤを変更する際に生じるコストを見極め、発注を継続するのか、それとも取引関係を終わらせるのかを決定します。突然の取引停止を避けるためには、あらかじめ準備するしかないのです。
(6章終わり)