ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

4-9効率化に大きく関係する情報システム

「情報システム」とは、すこし使い古された表現かもしれません。「使い古された」とは、従業員100以上の企業では、パソコンの普及率が99.9%となっており、多くの企業では、日常的にパソコンを業務に活用しています。規模が大きくなれば、さまざまな情報システムを活用して仕事を進めています。改めて、調達購買業務を進める上で必要な情報システムの活用のポイントを、次の3つの観点から考えてみます。

(1)日常の発注業務の効率化

調達購買業務の中で、注文書の発行や発注見通しのサプライヤへの連絡は、欠かせない業務です。しかし、注文書の発行業務自体、あるいは発注見通しの連絡自体に費やす時間はできるだけ少なくすべきです。こういった意思伝達こそ情報技術(IT) ツールを活用し、時間をかけずに効率性を優先してサプライヤへ提供しなければなりません。近年では、インターネットを活用して、時間とコストをかけない電子データ交換(EDI:Electronic Data Interchange)の仕組みが一般化してきています。こういった仕組みの活用によって、情報伝達のスピードが大幅にアップします。バイヤは効率化を高め、生み出された時間は、他の業務へ振り向けます。注文書を発行する前工程となるサプライヤ選定や、重要なサプライヤとのリレーション構築により多くの時間を費やします。

(2)取引状況の一元管理

サプライヤとの取引の記録は、価格情報だけではありません。納期対応状況や品質状況も定期的に確認し、将来的な発注方針決定への基礎資料に活用します。しかし、サプライヤとの取引に関わる各種データが、担当部門に分散していると、データ収集に時間と手間が必要になります。サプライヤとの取引実績を正しく理解するために、分散されたデータを蓄積する仕組みを構築しなければなりません。蓄積されたデータは、サプライヤ評価に活用して、次なる発注に備え、効率的な調達購買業務を実現させます。

例えば、定期的におこなうサプライヤ評価を考えます。調達購買部門では、発注価格情報や、設定納期、発注数量といった情報が蓄積されています。調達購買部門における情報に対し、実際の納入が正しく遂行されたかどうか。納期遵守率や、受入れ検査での合否と、調達購買部門の情報を合わせ見て、初めてサプライヤ評価が可能となります。サプライヤ評価が円滑におこなわれない場合、このデータの収集にまつわる問題を疑います。えっ!そんなことで?と思われるかもしれません。しかし、データが一元化されていないので、一元化に労力を費やしてしまう。あるいは、データの一元化が無いままで、サプライヤ評価をおこなった結果、評価結果が属人的になり、活用できないとの結果につながってしますのです。

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(3)新たな購買手法の活用

調達購買プロセス上のサプライヤとの情報の授受を、インターネットを介しておこなったり、サプライヤをリバースオークションによって決定したりできるようになっています。先に述べた購入結果を一元化して管理し、調達購買活動の成果も、サプライヤ毎、バイヤ企業の事業毎といった括りで一覧できるようなサービスも提供されています。

ここで、調達購買業務の基本からは少し外れますが、日本企業と米国企業の双方で調達購買業務を経験した私が感じている両社の違いについて述べたいと思います。まず、日常的なバイヤ実務は、日本や米国だけでなく、私が一緒に仕事をしている中国、韓国、インド、フィリピンでも、さほど大きな違いはありません。これは、商取引に関する文化的な背景の違いと、国の差というより、個人的なスキルの違いによって、アウトプットに差が生まれます。このような調達購買業務をバイヤと個々のサプライヤで見た場合、各国による違いはありません。

一方、マネジメントレベル、日本企業では課長以上部長クラスまでの業務が大きく異なります。まず、日本企業でありがちな、担当者レベルが資料をまとめて、課長以上クラスがレビューする頻度が、米国企業ではかなり少なくなります。これは、レビュー用の資料をまとめなくても、いつでも最新の実績へアクセス可能な環境を情報技術(IT) ソリューションで実現しています。マネジメントクラスは、その資料を参照して意志決定をおこない、さらなる上層部への報告をおこないます。課長以上~部長クラスまでの情報技術(IT) スキル、情報リテラシーは、総じて米国に代表される海外企業の方が高いのです。

これは、私の持つイメージで、近年ではその傾向が薄らいでいるとも思いますが、まだ日本の出世・昇進に情報技術(IT) スキル、情報リテラシーが影響するケースは少ないと感じています。しかし、現在私が勤務する企業でも、情報技術(IT) をもっとも活用しているのは、ミドルマネジメント層であり、新しいソリューションの導入にも積極的です。日本で語られる「失われた××年」の記事に何が起こったか。パソコンの一般化が始まったのが、1995年11月に発売されたWindows95 です。今、家庭でもオフィスでも街中であってもインターネット環境の普及が進み、ネットへの常時接続の恩恵を受けています。しかし、さらにどう活用するのかを真剣に検討し、実務に反映しなければ、日本企業の調達購買部門に代表される間接部門の生産性は改善せず、グローバル市場での戦いがさらに不利になるのではないかと感じています。

●ユーザーとしてのフィードバック

これまで述べたように、業務を円滑に進める上で、情報システムはとても重要です。欧米企業では、サプライチェーンや、それを支える情報システムの重要性を認識して、サプライチェーン部門に独自の情報技術(IT) 部門を抱える例が多く見られます。  それほどに調達購買業務と情報システム部門は密接な関係をベースにしたやり取りが必要です。

そのためには、まず情報システム担当者が調達購買業務を正しく理解しなければなりません。サプライチェーンが海外にまで拡大し、サプライヤからの納入だけを切り取っても、バイヤ企業内ではさまざまな処理がおこなわれて初めて、円滑な納入が実現されます。したがって、調達購買としてシステムのユーザーとして、システムの使い勝手の改善への協力を惜しまず、加えて調達購買部門のプロセスの意義を情報システム部門へ伝えるのは、より効率的な仕組みをつくるために必要なのです。

(つづく)

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