ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

新規サプライヤーを開拓する方法 2

前号は以下のようなポイントでお話をさせていただいた。

・新規サプライヤー開拓に、都道府県レベルの中小企業振興団体を活用する
・各団体主催の商談会へ出席すれば、一日で20社のサプライヤーとの面談が可能
・サプライヤーの皆さんが目にする自社の要求を明確に、分かりやすく明記する

そして、今回は商談会そのものの対応についてのお話である。

● いざ、サプライヤーの皆様との面談

主催団体によって、12分~40分の時間がサプライヤー1社との商談に確保される。普段、サプライヤーの営業パーソンとは有意義な雑談に花を咲かせる私も、この時ばかりは、特に12分の場合は早速本論へ入ろうとする。ここで、注意すべきポイントは次の2点である。

(1)面談しているサプライヤーは、自分(バイヤー)、所属している会社そして、この商談会への参加目的をどこまで理解しているかを判断する。

(2)上記(1)で、サプライヤーの理解が低いなと感じる場合は、限られた時間をバイヤー主導で進める。具体的には、どんな製品・サービスを提供できるのかを明らかにすることに集中する。

商談会という場で数百社のサプライヤーの皆さんと面談して見出したこと、それは限られた時間の使い方の優劣が、サプライヤーの評価となってしまう危険性である。シンプルに言えば、特筆する技術が無くとも上手に説明できたサプライヤーは好印象だし、なかなか上手に自社のアピールができないサプライヤーは、残念ながら評価も低くなってしまう。どちらのケースが多いかと言えば、圧倒的に後者が多い。実際に説明が不得手でも、企業としては確固たる技術力を兼ね備えているケースもあるのだ。逆のケースももちろんあるが、昨今の不況の中で受注拡大を目指して、昨日まで違うことをやっていました~というサプライヤー側の商談会出席者も結構多いのである。

営業としては百戦錬磨としても、12分しかないにもかかわらず、会社紹介を創業何年から始められる方もいる。いや、意外に多いかもしれない。これまでの経験へ裏打ちされた営業としてのセオリーがそうさせているのかもしれないが、12分しかないのだ。であれば今が、現在がどうなのかが大切。したがい、申し訳ないと思いつつも、話を途中で遮って、現在進行形の今の姿を聞かせていただくこともある。

そして、この話は以前のマガジンでも触れているが、商談会に出席されている受注を希望する企業で、もっとも印象に残らないPRとは次の3つである。

① なんでもできます

② なにかお役に立てることはありませんか

③ (商談の終了際に)なにかあったらよろしく御願いします

このような「なに」が横行するのは、発注側・バイヤー側の責任も大きい。発注側から課題を提示して、その課題を忠実に実行するサプライヤーをこれまで、そして今現在も求めているからである。しかし、この三つの「なに」によって、発注側からすればサプライヤーの固定化、価格の高止まりを生み、受注側は一社依存度が高まって、運命共同体化してしまっているのだ。

最短で12分しかない商談の時間で、いかに相手を理解するか。バイヤーに課せられているのはその一点に尽きる。そして12分間を有意義な使用方法を知るサプライヤーは少ない。限られた時間が原因でサプライヤーが何をしているのかがよくわからないと言ってしまえば、商談会に来た意義が無くなってしまう。重要なのはインタビューする力、相手の得手・不得手を聞き出す力である。

私が必ず行う質問は、次の四点である。

1) 現在の顧客の構造(主要なお客様はどちらですか)

2) 社長の経歴(社長さんはもともと何屋だったんですか?)

3) ○○さん(商談している相手)の経歴

4) 売上金額

もし、資料を持っていれば、チェックするのは製品の写真や、サービスの内容がわかる部分を必ず相手の前で参照する。その部分は会社案内のたいてい中程に掲載されていて、創業何年……という通り一遍の説明では、12分では行き着かない部分である。

当然新規にサプライヤーを採用する場合には、数多の調査項目が存在する。実際初期評価として私が普段使用している評価項目も25項目、採用可否に至れば、その判断項目は数倍になる。しかし、商談会にそのような多くの項目を評価する時間はない。上記の4つの質問は、資料がある場合に読めば事足りる内容を極力排除して、尚かつバイヤーとして判断可能なネタを効率的に聞き出すためのキーワードが含まれているのだ。

1)の顧客構造には、バイヤーの所属する会社との類似性を図ることができる。自社と競合関係にある顧客を持っていれば、潜在的なサプライヤーとなる可能性が高まる(当然、別の問題はクリアする必要がある)。

2)3)は、規模にもよるのだが、社長自ら売り込みにきている場合など、その人の経歴=会社の経歴と判断できるからである。重要な企業理念の一つとしてゴーイングコンサーン(going concern)を考えるとき、初期段階の評価として、歴史を語ることができる企業は、まず話をするに値するためである。

4)の売上げは、この数値からいろいろな相手の内情を類推できるからである。資本金や売上高から、いろいろな参考データを得ることができる。新しいサプライヤーが本当に自社にとって有効かどうか。社内の関連部門を動員するに足る相手かどうかを判断する場合に、一つの目安となるはずである。

このような質問をおこなっていろいろな話を聞いていれば、あっという間に12分という時間は過ぎ去ってしまう。限られた時間での手段を尽くして、それでも自社とのビジネス上の接点を見いだせない場合、その場でその旨をはっきりと先方へ伝えた方がよい。下手な期待を持っていただいても困るし、バイヤー自身としても次へと意識を集中するために、である。

一方、何らかの可能性が見いだせそうな場合は、具体的な今後について正確に伝える。私の場合、サプライヤー側のできることが限定される場合には、サンプルでの見積依頼を行う旨をその場で伝える。設計や開発が絡む場合には、どのような形であれ次の機会を持ちたいとの意志を伝える。いずれにしても、サプライヤー開拓のほんとうに重要な部分はここからなのである。

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