Q&A(坂口孝則)

2016年12月9日、ご質問を受け、それに答える講演を行いました。それがなかなか面白かったので転記します。

Q:最近、少量生産が話題になっていますが、少量生産でもコスト削減できる方法を教えてください。

A:これはうちの会社の小冊子にまとめましたのでご覧ください。

くわえて、真面目に答えときます。

少量生産というのは、いわば歴史的な回帰と思って良いでしょう。というのも、そもそも、19世紀は繊維をはじめとして個別生産が主流でした。大量生産が始まったのは20世紀なってからです。

20世紀なってから大量生産が始まり、そして、わずか数十年しか大量生産の時代はありませんでした。そこから個別ニーズにフォーカスして「B O P」 と呼ばれる。bottom of the pyramid、あるいはマスカスタマイゼーションの時代がやってきたわけです。

そこで少量生産では、もっとも優秀なのが日本であるといっていいと思います。なぜならば個別生産の需要が高かったのが日本で、現在でも日本ほどカスタマイズ製品を作っている国はありません。また、日本が最もミシンの普及率が多かったのは事実であり、そもそもカスタマイズが好きな国民なのですね。したがって個別生産といえば日本だといえるんです。

だから少量生産を新しい時代の試練と考えるのではなくて、これまで日本が歩んできた有利な道である、と考えれば新しい側面が見出せるでしょう。

Q:これからIoT の時代と言われますが、調達部門として備えておくべきことは何でしょうか。

A:まず簡単に言っておくと、これからIoT の時代と言われますが、早々にすべきことはありません。なぜならばIoT というのは、生産技術あるいは設計部門に関係あることであって、調達購買が直接関係あるとは考えにくいからです。

とはいえ調達部門も無変化ではありません。部材の寿命設定に関して、大変大きな革命が起きるでしょう。というのも、設計部門は部材を「10年使いたい、あるいは20年使いたい」「お客さんがそう希望している」と超・長寿命部品を使いたい。そういうはずです。

しかしIoTの時代になって、具体的にどれくらいお客さんが使うかという観点から設計できるようになる。遠隔で調査できますからね。例えば洗濯機のモーターというのは30年を設定していますが、実際、家庭に入った洗濯機が何年使われるかというのがIoT によって具体的にわかるわけです。

例えばその答えが5年であるとしたらこれまでのように30年の部品は使う必要ありませんし、5年でいいわけです。したがってその観点から、コスト削減が可能になるでしょう。

Q:調達購買の現場を離れられても、最新の情報を入手する秘訣を教えてください。

A:誤解なさってるようですが、私は調達購買の現場を離れてはいません。調達とかのコンサルティングをずっとやっています。コンサルティングは口を出すだけではないかと思う人がいるかもしれません。しかし私のコンサルティングは、実際に調達と購買の現場に入り込んで一緒に業務をやるわけです。

だから、それはほとんど自分自身が社員として業務をやっているのと同じだと思います。とはいえ、この答えはご質問者に対して冷たい答えだと思いますので、やや教科書っぽい答えをしてみたいと思います。それは何かというと特に英語圏の今ページを見るということです。

私がお勧めしたいのは、サプライチェーンブレインというサイトです。私のネタのほとんどはこのページからだと言って差し支えないでしょう。従ってサプライチェーンブレーンや、あるいはISMのホームページ見てください。概ね私の情報入手先が分かると思います。

Q:TPP の破談についてどう思いますか?

A:まずTPP というのは、トランプ、プーチン、パートナーシップと呼ばれています。環太平洋の連携が崩れた代わりにアメリカとロシアの連携が強化されたという意味です。これマジ冗談ではなくかなり真実だと思います。

ところでTPP でアメリカが参加しないのは残念ですが、もちろんその他の国で締結すること可能ですので、日本よってプラスの面が残っていないかというとまだプラスの面が残っていると思います。

それではトランプ次期大統領が言うところの、日本車やあるいは中国車にたいして関税をものすごくかけるというのは本当に真実味があるのでしょうか。私はないと思います。というのも、番組でご一緒した経済産業省官僚の方いわく「本当に20%とか40%くらいの関税を掛けようと思えば、WTO対して提訴することができる」というのです。

WTOは自由な貿易を推進する立場ですから、もちろんあまりに高額な関税を認めません。そして実際、現在のところ、そういった自由な貿易を無視して高い関税をかけ、自国産業を保護しているケースはほとんど敗訴しているのです。従ってトランプさんが言いたい意味はわかりますが、ほとんどの場合はそれほどの高関税率をかけることができずに頓挫すると思ったほうがいいでしょう。

従って、これは実際的な話として、さほど恐れることはないのです。

Q:新しい調達部門のあり方について教えてください。

A:あまりにも複雑な話なので簡単には言えません。でも簡単に答えます。それは「金融屋と現場屋に分かれる」ということです。金融屋とは為替のこと考えたり、あるいはグローバルな部品のやりとりについて構成部品レベルにおいても考えてあげることです。

そして現場屋というのは、これまでの調達購買者ありかたに近いでしょう。文字通り現場に入り込んでいて、サプライヤの生産効率を高めるのが仕事です。

これまであまりにも後者の現場屋が重要視されてきました。しかし私はそれが必ずしも答えだと思いません。もちろん現場の改善は必要ですが、もっと俯瞰した、あるいは鳥瞰した目で調達購買部門の戦略を考える事も必要なのです。したがって現場を改善すると同時に、大きな戦略を作る仕事も大変重要になってくると思います。

Q:サプライヤに対するこれからの接し方についてお考えのところ教えてください

A:これまたものすごくざっくりとした質問ですね。従ってざっくりとしか答えようがありません。

ただし、サプライヤに対する接し方ということで、最も大きな事実はそのサプライヤの数が減らざるを得ない事です。

というのも国内生産が減っていくのは、嫌ですが、たしかであり、製造業の比率が下がるのは事実です。

したがって日本で物を生産するというのは、トランプさんのような政治家が出てきて国内回帰しないかぎり難しい。縮小せざるを得ない。新しい産業によってGDP を高めるしかない。我々製造業は物が減る中で、いかにサプライヤマネジメント行っていくか考えざるを得ません。

もっと言うと少数のサプライヤをいかに食わせていくかを考えるしかありません。重要なのは三つでしょう。1.サプライヤ評価を徹底する 2.サプライヤ評価に従って、これからどこと付き合うか、冷酷ながら決めること 3.付き合うと決めたサプライヤに対しては発注量を増やしてあげる。当たり前のことばかりです。ただ、それによって評価が良くないサプライヤは発注量が減るはずですよね。当たり前のこと徹底することに、これからも、肝要があるような気がします。

(つづく)

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