牧野直哉の「グローバルバイヤーになるための英語術」
第二回 自己紹介
数社への訪問を予定して海外へ飛び出せば、出張中ずっと自己紹介を繰り返しているようなものです。普段日本で働いているバイヤーにとって、この自己紹介の場を英語スキルの研鑽の場としないのは、とてももったいない話です。そして、海外でのビジネスにおける最大の難所とも言える「食事」の場面でも、この自己紹介で培った英語力で乗り切ることが可能です。
自己紹介では、どのようなお話をするのでしょうか。
1.自分の紹介
2.働いている会社の紹介
3.自分の担当業務の紹介
会社の出張で行くのだからと、この3つだけで済むと思っていませんか。どんなことでも英語で表現できる人であれば、特別な準備は必要ないかもしれませんが、少しでも英語での会話に不安を持っていれば、その不安は事前に払拭しなければなりません。少しでも不安がある場合、プライベートな旅行であれば楽しさが減るだけです。しかし会社の業務の場合は、もしかすると大きな損害を被るきっかけにもなる可能性=リスクがあるのです。このようなリスクはできるだけ安全であるうちに排除する・・・・・・これも海外出張での重要な準備になります。自己紹介にも奥行きとひろがりを持たせる準備が必要なのです。
まず、自己紹介の内容ですが、上記に書いた3つでどのくらいの時間、話をすることができますか。そして、どのような場面で上記3つの自己紹介の話をするか、思いをめぐらせていますか。
私はこんなアイテムを準備しています。
1.自分の紹介
2.家族の紹介
3.自分が住んでいる地域の紹介
4.自分が住んでいる家の紹介
5.通勤方法の紹介
6.最近日本で起こっていること
7.海外で話題になる一般的な日本のこと
8.乗っている車
9.趣味
10.働いている会社の紹介
11.働いている会社の場所の紹介
12.働いている会社の組織の紹介
13.同僚の紹介
14.関係部門の紹介
15.業務フローの紹介
16.業務サイクルの紹介
17.意思決定のルールの紹介
18.自分の担当業務の紹介
19.担当事業の将来見通しの紹介
20.訪問先の国で起こっている出来事
「えっ、こんなにたくさんも」と思わないでください。20項目のうち、18項目は一回作ってしまえば、何度でも使いまわせる内容になります。そして実際に自己紹介として話をしていくうちに、コンテンツが加わってきます。自分で実際に話しをした相手から受けた質問は、貴重な次回へネタとして、「見直し」という復習の機会を得ることができて、以降の自己紹介の内容に深みを与えてくれます。
最初にそれぞれの内容の活用シーンです。
1)初めて会った自己紹介:1
2)会議室での会話の冒頭の紹介:1.10.11.12.18
3)打ち合わせの中での紹介:14.15.16.17.18.19
4)業務外のあらゆる場面:1~20
私は、英語が得意でない日本人が英語を話そうと思う場合、英会話を、話のキャッチボールと捉えるべきではないと思っています。ここぞとばかりに、バッティングピッチャーの気持ちになって、何十球も何百球も投げ続ける覚悟が必要だと考えるのです。従い、自己紹介という形でこれだけの英語のコンテンツを準備すれば、出張の主な目的である打ち合わせ以外のあらゆるシーンに対応できるのではないか、と考え、実践しています。
もう一つ、この自己紹介で話せるビジネス会話で重要なこと。それは「百聞は一見にしかず」です。皆さんが普段持ち歩いている携帯電話で、皆さんの普段の写真をいろいろ撮影することをオススメします。ちゃんと話し言葉で状況を伝えられたとしても「ほらほら、こんなだよ」と見せることで、話への理解を深めることができます。画像情報がパソコン、携帯電話でより手軽に扱うことができるようになった今、活用しないのはもったいなと思うのです。
そして、それぞれの項目に関して、下記内容はぜひ付け加えた方が良い内容です。
1.自分の紹介
名前の由来を、自分の名前に使われている文字の意味とあわせて説明する。
2.家族の紹介
人数、性別、年齢
3.自分が住んでいる地域の紹介
関東であれば、東京から電車で何分とか、車だったら何キロメートル。都会か郊外か。家の近くに何があるか。
4.自分が住んでいる家の紹介
集合住宅か一軒家か。間取りはどうなっているか。
5.通勤方法の紹介
車か電車か。通勤中に何をしているか。通勤がいかに過酷か。
6.最近日本で起こっていること
ニュースで報じられていること。
7.海外で話題になる一般的な日本のこと
京都、日本食、着物、アニメ、
8.乗っている車
どんな車にのっているか。なぜその車を買ったのか。憧れの車はあるか。
9.趣味
帰宅後や、休みの日はどのように過ごすのか。
10.働いている会社の紹介
会社案内に書いている内容。
11.働いている会社の場所の紹介
関東であれば、東京から電車で何分とか、車だったら何キロメートル。都会か郊外か。会社の近くに何があるか。
12.働いている会社の組織の紹介
所属部門の組織図があれば、それに基づいて説明。重要なのは、自分がどのポジションにいるかを明確にすること。ケースバイケースで、社内ルールで持っている権限は、はっきりと告げたり、告げなかったり、ぼやかしたりするケースあり。
13.同僚の紹介
人数、男女の構成比、年齢構成
14.関係部門の紹介
それぞれの関係部門の役割、責任分担を話す
15.業務フローの紹介
どんなプロセスを経て発注に至るのか。
16.業務サイクルの紹介
自社の業務サイクルを時系列で説明する。将来的なビジネスの話をするときには不可欠
17.意思決定のルールの紹介
話の内容によって、社内のルールとして毅然と説明する
18.自分の担当業務の紹介
どんな仕事をやっているか?
19.担当事業の将来見通しの紹介
海外とのビジネスでは、一回の面談がとても貴重です。従い、販売動向や、技術開発動向の、外部へ開示してよい内容があれば準備をしておくと、訪問相手には会社を代表しているという印象が残る。
20.訪問先の国で起こっている出来事
テレビの衛星放送を見れば、主要国のニュースは毎日放送されています。毎日チェックするのは億劫でも、出張の前はその準備の一環として大きな見出しだけでもチェックするのは、話の切り出しに有効。
日本でテレビの地上波のニュース番組を見ていると、日本国内の出来事と、欧米諸国の出来事が中心に報じられている印象を受けます。項目20のチェックで訪問予定の国のニュースを見ると、国によっては日本で起こっていることがトップニュースになっているケースがあります。我々が思う以上に、日本という国は海外から注目されていると思います。したがって、項目6、20は相互に関連しています。現地で報じられている内容を事前に知っていれば、聞き取りづらい英語も、キャッチできる可能性が高くなるのです。
それぞれの項目の準備方法ですが、次のプロセスでおこないます。
①日本語でそれぞれの内容を書き出す
②ネットの翻訳サイトで、翻訳する。
③翻訳した結果を覚える
この三つのステップで完了です。但しそれぞれのステップには、注意して頂きたい点があります。
①ですが、まず日本語で説明できなければ、英語での説明など無理です。したがい、最初は日本で書き出しましょう。もしかすると、ここで思いの外、自分の置かれた状況を説明できない自分に気づくかも知れません。その場合は、思いを巡らせながら、日本語でちゃんと自己紹介ができるようにする必要があります。紹介内容は思うままを書き出して良いのですが、翻訳サイトやソフトを活用する場合に備えて、できるだけシンプルな文章にするべきです。いくつもの接続詞を繋げた文は、いったい何を言いたいのかわからなくなるし、フリーで提供される翻訳サイトでは、内容の詳細のチェックが期待できないためです。実際の場面で目指すべきは、何も見ることなく話をすることですから、できるだけ短くそして数多くして、少し忘れても大丈夫にしましょう。
②の翻訳ですが、英訳できる人は自分でやっていただいて構いません(そうであれば、こんなアクションは不要でしょうけど)。この記事に興味を持ってお読みいただいている皆様であれば、一冊くらいビジネス英語の本はお持ちではないでしょうか。そんな本の中にも素晴らしい例文はたくさんあります。そんな例文を活用する、いわゆる英借文も良い手段です。本から探すのは面倒くさい人は、思いついたままをワードへ打ち込んで、翻訳ソフトやサイトを活用して、内容を一つ一つ文にする。この細分化というか、単純化のプロセスで重要な事は、必ず主語を明確にしてください。私なのか、我々なのか、彼なのか、彼女なのか、上司なのか。翻訳されるソフトによっても癖があるので、どんなソフトやインターネットサイトで使うかを決めたら、使い続けることが重要です。
③の覚えるですが、極論すれば私は覚えなくてもいいと思います。テーマごとにパソコンの中にデータを持っていて、海外出張の時にプリントアウトして持ってゆく。それで十分だと思います。ちなみに私は、写真の様にテーマごとに情報カードを作っています。そしてそのカードは手帳の中に収納して、いろいろなタイミングで見直すようにしています。一枚を読むのに一分はかかりません。時間がないことが悩みの皆さんでも、手帳を見るときに数十秒、来るべき海外出張へ備える時間を持ってはいかがでしょうか。活用シーンによっては、そんなメモやカードを見ている場合ではないので覚える必要はあります。しかし、我々は英語を母国語としない国の国民であり、海外で、英語で自分を語る困難さへ挑戦しているとの自信と誇りを持って、堂々とメモを見ながら話すことをすべきです。何も話さずにただ時が過ぎ行くのを待つよりも、メモを見ながらでも話そうとする気持ちを持つ方が尊いとは思いませんか。
つづく