ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

<7 利益を出すコストダウンと改善手法> 

8.コスト全体を見極める ~トータルコストダウン思考の重要性

トータルコストダウンとは、直接材料費・購入費といった枠にとらわれず、コストの対象を広くとらえ、コスト削減の対象を従来よりも広げる考え方です。コスト削減アイデアに手詰まり感がある場合は、視点を変え全体を見ると、手付かずの分野の発見に至るケースもあります。

調達・購買部門では、サプライヤーからの見積金額のみで判断する「部分最適」を回避するためにも、トータルで考えて、全体で考えた上での意志決定が必要です。

☆トータルコストダウンについて

トータルコストダウンには、大きく分けて

(1)全社、全員といった多くの人間を巻き込むコストダウンと
(2)コスト発生範囲のとらえ方を広げ、より多くのコスト発生要素を含めて取り組むコストダウン

があります。

トータルコストダウン活動には具体的に次の4つの方法があります。

①全社ぐるみのコストダウン活動(上記(1)のケース)
調達・購買部門とサプライヤだけでなく、自社(バイヤー企業)とサプライヤ双方の関連部門を巻き込んで実現を目指すコストダウンです。バイヤーには、折衝能力、購買品の知識に加え、ファシリテーション能力や、リーダーシップ能力が必要です。

②あらゆる分野の手法・技法を総合的に活用したコストダウン活動(上記(1)のケース)
VE(Value Engineering:価値創造)/VA(Value Analysis:価値分析)、IE(Industrial Engineering:生産管理工学)や経理・財務知識、製品知識、説得力、情報分析能力といったあらゆる分野の専門知識を駆使して、合理的な価格を追求する活動です。これは、バイヤー一人が追究するよりも、社内の知見を集めて実行するケースが多くなります。

③ライフサイクルコスト(上記(2)のケース)
製品の生産時点だけでなく、稼働時、メンテナンス時、最終的には廃棄時のコストまで含めたコストを母数として低減を求める考え方です。

④見積金額だけで判断しない考え方(上記(2)のケース)
見積金額だけで判断するのでなく、購入に際して関連部門を含めて発生する監査、立ち会い検査、物流・保管に関連する費用などを含めた評価をおこなって、コストダウン活動へとつなげます。

☆ポイントは全体を掌握すること

企業におけるコストダウンへは、生き残りをかけた永続的な取り組みです。効果のある活動を継続するためには、従来とは異なったメンバーや、違った範囲といった「刺激」を活用した活性化が必要です。そのためには、調達・購買部門では全体感をつかみ、停滞感にはトータルコストダウンの考え方で、視点を変えて刺激を与え、活動を活性化します。

☆トータルコストダウンの展開

1.時系列への展開

次のグラフを御参照ください。

<クリックすると、別画面で表示されます>

このグラフは、

・暦年の円ドル為替レート(折れ線グラフ)
・前年対比の為替の変動割合(棒グラフ)

で示しています。ここで、2012年から継続する円安傾向に呼応する形で、サプライヤーから値上げ要求を受けた事態を想定します。2012年時点の為替レートと、現在の為替レートを比較すれば、海外からの輸入品について値上げ要求もやむを得ないと判断できます。しかし、それ以前からの継続購入品の場合どうでしょうか。

2007年から2011年にかけて、一貫した円高基調でした。今回の円安で価格の見直し、値上げを要求されたアイテムが、円安の前の円高基調で、価格の見直しをおこなっていれば、今回の値上げ要求は妥当と判断できます。今回の円安基調での価格見直しの要求は、過去の経過の中で、前回の価格見直しがどのタイミングでおこなわれたのか。その時期によって、まったく判断の方向性が変わってきます。

2.「隠れたコスト」との考え方

また今回の円安では、その前の円高基調に呼応する形で、海外展開を進めた企業には、デメリットが顕在化している例があります。現在進行形で、生産の日本国内への回帰が伝えられているのが好例です。

円高基調の下での海外進出する根拠は、グローバル基準で高くなってしまった日本国内の人件費です。円安基調では、日本国内の人件費も相対的に安価となり、海外進出を進めた勢いが揺りもどされている構図です。

次の資料をご覧ください。

<クリックすると、別画面で表示されます>

これは、企業の海外進出に際して発生する人件費以外のコストをサマリーしてまとめたものです。企業内で発生するコストは多岐にわたります。もちろん、その中で人件費の割合は高くなります。しかし、単純に人件費だけで判断できるかといえば、それ以外に上記の資料にあるようなコストが発生しています。今回の円安基調では、上記要素のコストも、為替レートの変動によって相対的に高くなっています。今回の円安基調では、こういった「隠れたコスト」も含めて、総合的かつ長期的な視野での状況判断が必要なのです。

(つづく)

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