興味深いレポートと、これからのバイヤー2(牧野直哉)

2月に非常に興味深いレポートが経済産業省より発表された。Twitterでも多くRT(リツィート)されていたので目にされた方も多いのではないだろうか。と思って、自分の周囲のバイヤーにも聞いてみると、意外にも知らないバイヤーが多かった。従い、今回以降数回にわたって、この資料を元にした記事を書いてゆくことにする。

日本経済を巡る現状と課題」(PDFファイルにリンクしています)

50枚のシートは次の6つの項目で構成されている。

1. 日本経済の行き詰まり
2. 産業構造全体の課題
3. 企業のビジネスモデルの課題
4. 企業を取り巻くビジネスインフラの課題(産業の立地競争力)
5. 諸外国の産業政策の積極化
6. 日本の産業構造の方向性

1~5に記載されている内容は、1月に開催された「2010年を読み解くバイヤーの集い」でも同じような内容がパネラーの皆さんより提示されていた。

私は、このレポートを読んで2010年を読み解く~で語られていたことをより一層深く印象付け、今思い起こすに至っている。そして、日本の多くの企業と、そこに所属するバイヤーが、企業そして個人レベルで1~5に記載されていることへ現時点での答えを見出すことが、この新年度にも、そして自らのバイヤーとしての将来にも役立つと考える。そして、内容を踏まえたバイヤーとしての課題と、現時点での想定される対応策について、述べてゆきたい。

● バイヤーとしての課題 2~バイイングパワーの正体

レポートの20ページに「各産業の主要プレーヤーの概要」という記事がある。その内容は、液晶テレビ、鉄道、水ビジネスや、先日韓国がUAE向原子力発電所の受注で大きなニュースとなった原子力発電といった日本以外に大きな市場を持つ産業に関して、日本、北米、欧州およびアジア他での具体的な企業名が挙げられている。参照してみて驚くことは、日本の企業数が群を抜いて多いことだ。

そして次のページには、同じテーマで日本と韓国の比較が行われている。比較対象になった産業は、自動車、鉄鋼、携帯電話、電力と石油元売りだ。これが携帯電話だけの例示であれば、サムスン、LGという日本でも有名な企業があり、特殊な例かとも思える。しかし、自動車だけでなく、鉄鋼、電力、石油元売りといった基幹産業が含まれている。そして、この記事の主旨とは、日本より国内市場の小さい韓国の方が1企業当たりの国内市場は大きいということ。そして、自国市場に企業数が多いが故に、国内で消耗戦を行ってしまうのだ。一方韓国企業は、自国市場はあくまでもグローバル市場へむけての足場であるとの位置づけを語っている。

そして、この例示の場合は、企業規模によってグローバルマーケットでの存在感に大きな差が存在することを示唆している。その大きな差の一翼を、バイイングパワーが担っており、自ずとコスト競争力に差が出ていることは、同レポートの19ページに掲げられた日本企業と海外企業の利益率の差を見ても明らかである。

この分析自体も非常に興味深いが、ここではバイヤーが常に追い求めるバイイングパワーに置き換えて考えてみることにする。

バイヤーが、その不足に悩み、他社よりも有利な条件を引き出すために不可欠なバイイングパワー。では、バイヤーはなぜバイイングパワーを求めるのだろうか。ここに、いくつかバイイングパワーの定義を説明したHPを紹介する。

新規開拓.com バイイングパワー 

マネー辞典 バイイングパワー

goo辞書 バイイングパワー

バイイングパワーとは、大量購買をおこなうことによって有利な条件を引き出させるための力といえる。バイヤーはいつでも、どんな状況下でも最適な購入条件を求める。どのページによっても大手小売業による例を用いているが、産業購買系バイヤーでも、究極的にはバイイングパワーの極大化を目指していることは同じである。

しかし、先ほどのレポートに提示されている例からすると、こんなことがいえないだろうか。

1. 日本と韓国の国内市場は、日本の方が大きい

2. しかし、それぞれの国で同じセグメントにおける企業数の差、具体的には日本企業の多さによって、企業1社あたりの市場規模は、相対的に日本の方が小さくなる

3. 1社あたりの市場規模の大きさの差が、それぞれの企業のグローバルマーケットでのバイイングパワーに影響を及ぼしている

そして、これをスケールは異なるが、我々バイヤーとサプライヤーの関係に置き換えてみる。キーワードは「相対的」である。私が考えるバイイングパワーの源泉は2つある。バイヤーがサプライヤーに対してバイイングパワーを発揮できている時を考えてみる。

一つは、販売市場でのバイヤー企業側の市場占有率によるものだ。販売ボリュームの増加によって、購入ボリュームも増加しバイイングパワーを発揮するケース。先に挙げたバイイングパワーの定義にあった大手小売のケースが該当する。そしてもう一つ、個々のサプライヤーにとってのバイヤー企業の存在感。存在感とはそのサプライヤーの売上に占めるバイヤー企業の割合である。売上(=発注額)の全体に占める割合が高ければ高いほどに、バイヤーはそのサプライヤーに対してバイイングパワーを持つことになる。バイイングパワーとは、絶対的にもそして個別のサプライヤーとの関係で、個別にも相対的にも存在するのである。

バイイングパワー不足を嘆く前に、自社の発注ボリュームの与えるインパクトを考えてみてほしい。発注ボリュームが、サプライヤーの持つ他の顧客との相対的に少額であると判断されているからこそ、バイイングパワーが発揮できないのである。はっきり言おう、舐められているのだ。まずこの真実に目を向けることが必要なのだ。

サプライヤーへのバイイングパワー不足により、サプライヤーへの影響力の欠如に悩んでいるとする。であれば、もっと企業規模の小さい、現時点でのバイヤー企業側の発注量によって、サプライヤー側での売上占有率が高くなるような規模の企業ってないものだろうか。数だけで言えば、日本に法人は百万社以上もあると言われている。なかなか言うことを聞いてくれないサプライヤーの対応を嘆く前に、自社の発注規模で真の感謝とともに、意向をくみ取ってくれるサプライヤーを探すことが必要なのだ。

自社の発注ボリュームが、サプライヤーにとって少なすぎる事態は往々にして起こる。そして代替可能な規模の異なるサプライヤーも存在しないようなサプライヤーであっても、影響力は確保する必要がある。が、そのようなケースでは、代替サプライヤーを確保するアクションと比較しても、自社の影響力の行使には、大きな困難と多大な時間が必要だ。繰り返すが、バイイングパワーとは、絶対的な規模に裏打ちされるだけでなく、相対的なものでもある。もし、適切な規模の代替サプライヤーが存在する可能性が少しでもあるのなら、サプライヤーへの愚痴で自らの鬱積を発散するのでなく、サプライヤーを能動的に変更するという本来的なバイヤーの業務を遂行すべきなのである。

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