ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

決定版!サプライヤーマネジメント 13

~サプライヤーとの関係を継続する方法

前号までは、新規サプライヤーの開拓について述べてきました。今回からは、既に取引のあるサプライヤーとの関係を、良好に継続するための方策について述べてゆきます。

サプライヤーマネジメントとは、

・サプライヤーを区別して扱い

・その代償として自社により優位性のあるサプライヤー側のリソースの提供を求めること

です。この原則にもとづいてサプライヤーとの関係を良好に継続するということは、次の2つの要素が必要です。

1. バイヤー企業側から見て「区別」しつづける

2. サプライヤーからは、他の顧客(バイヤー企業)からみて、優位性のあるリソースを提供しつづける

さて、ここで問題です。上記に示したことを「しつづける」ためには、どのような方策が必要でしょうか。ここで重要な点は「漫然と結果論で続いた」のでなく、意志を持って「続ける」ための方策です。私は2つの要素が必要だと考えています。

1つ目は時間と成果の共有体験による一体感の醸成です。企業同士とはいえ、企業=法人を構成するのは人間です。バイヤー企業とサプライヤー担当者の間で、なんらかの課題/問題を一緒に解決に導いた同じ体験が、関係の根幹を為します。学生時代の同窓生、同じ部活動の仲間、戦友といった仲間は、時間を隔てもその時の共有体験によって当時の関係を再現することができます。しかし、これだけでは人と人との友人関係と変わりません。営利を追求するためのサプライヤーとの関係構築では、もう一つの要素が非常に重要になってきます。

2つ目の要素は、適度な緊張感です。関係を構築し、良好な状態で継続するために、もっとも避けなければならない事態は「馴れ合い」です。一定の規模以上の企業で組織される取引先協力会が、なぜ機能しないのか。多くの場合、会合や懇親会といった活動の中で、新陳代謝がおこなわれずに、双方に甘えの気持ちが生まれ、馴れ合い関係になっていることが原因です。「馴れ合い」状態は、一見すると良好な関係と判断できます。どちらかがどちらかに依存している関係が問題です。サプライヤーは、QCDを確保した発注品の納入を確実に実行し、プラスαの便益をバイヤー企業へ提供する。バイヤー企業は、サプライヤーの円滑な納入をサポートし、より良い取引条件を模索する改善活動を継続的に実施する、そんな相互補完な関係が必要なのです。そんな関係の中での「緊張感」は理解しづらいものです。そこで、とてもわかりやすい例を挙げます。

ここにあるテレビ番組をご紹介します。

NHKスペシャル 激動 トヨタ ピラミッド http://p.tl/pYTW

自動車メーカーの名前が冠された番組だったので、ご覧になった方も多いことでしょう。日本のあるTierⅡサプライヤーがインドネシアに進出する姿をレポートしています。このサプライヤーは、現地企業を買収することで進出を図ろうとしていました。買収交渉が佳境に入り、現地に進出している顧客を訪ねていたときの事です。(番組開始後、約20分くらいの場面)

顧客を訪ねた社長の表情が思わしくありません。ナレーションでは「どうも様子がおかしい……」とあります。そこで社長はみずから思いを口にします。

「来たこと(進出したこと)を(お客様から)「良かった」と言ってもらえると思った」

「ところが「ふ~ん、来たの」という、あまり歓待していない印象」

「進出したのは良かったけれど値段が合わなければ使えないよ、というクールな反応が多い」

こんな話をした後、社長は苦悩の表情を浮かべ、車外の景色に目を移します。

この「クールな反応」こそが、サプライヤーマネジメントにおいて、関係を継続する際に必要な「緊張感」を顕著に表しています。背景として、取り上げられた自動車メーカーは、この国に1970年代には進出を果たしていました。私が仕事の関係で実際にこの国を訪れていた90年代中盤には、現地で設計・製造した自動車が、販売台数でトップになっていました。そんな頃から約20年が経過しています。同じ番組の中では「すべての部品を現地調達化する」との目標が掲げられた工場が紹介されています。ビラミッドの頂点にある自動車メーカー、そしてTierⅠサプライヤーにとって、現地で部品を確保することは現時点で大きな課題ではないわけです。課題はコスト。そんな中で、進出したというだけで歓迎されると考えるのは、少し甘い考えだったのかもしれません。

そして、この番組に登場する社長は、安穏とできない実情を感じ取って、進出先の競争力強化・自社の生き残りに矢継ぎ早に対策を施してゆきます。今回切り取ったシーンで、仮に歓迎されたとしましょう。時の経過によって、最終的には同じ取り組みに進むかもしれません。しかし、歓迎によって安堵することで、次なる課題への対策は少し遅れるでしょう。番組の中では、親会社の副社長が「スピード」を再三強調していました。「クールな対応」は、次なるアクションへの布石となったわけです。まさに緊張感が生んだ好ましい結果といえます。

今回より話を進める「サプライヤーとの関係を継続する方法」では、良好な関係の中で、どのように緊張感を保ち続けるのかが大きなテ-マです。サプライヤーが能動的に動き打開策を見出すための緊張感。次回から、その具体的な方法について、述べてゆくことにします。

<つづく>

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