ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

値上げ対応 4 ~サプライヤーの本気度測定法

今回で4回目となるサプライヤーからの値上げ申し入れへ対処に関するお話。今回は、値上げの申し入れ方法によって、サプライヤー側の本気度を測る方法について考えてみます。

サプライヤーからの値上げ申し入れを、次の4つのステップで考えます。

1. サプライヤーからの値上げ意志表示前
2. 口頭での値上げ要請、あるいは打診
3. 文書での値上げ要請 1
4. 文書での値上げ要請 2

これは、一般的な産業購買におけるサプライヤーからの値上げ要請の方法をモデル化しました。しかし、サプライヤーとのリレーションの状態によっては、すべて最初のステップから始まるわけではありません。そのようなモデルに当てはまらない例も触れながら、述べてゆきます。

もう一つ、この4つのステップを設ける理由があります。想定したモデルにそって対応すれば、値上げ要請の50~70%はサプライヤー側から実質的に値上げ要請を取り下げます。なぜそうなるのかも、本文中でお伝えします。

1. サプライヤーからの値上げ意志表示前

これは、口頭にしろ、文書にしろ、サプライヤーから具体的な値上げ要求が無い状態です。過去20年間を振り返っても、調達購買部門の担当者/バイヤーが置かれていた状況です。より安く、より高品質で、より早く調達するために、試行錯誤を重ねている段階です。そのような中で「値上げ」を意識する、あるいはサプライヤーからの値上げ要請に対処するような事態は、バイヤーとしてもっとも避けたい事態です。

しかし、これまでに述べたような外部要因によって今、値上げ要求を受ける可能性は日増しに高まっています。したがって、この段階はまさに今、多くのバイヤーが置かれた状態と言えます。

この段階でのサプライヤーへの対処は、基本的に積極的なアクションをサプライヤーに対して行ないません。調達購買側から、自分たちに不利な状況を生む可能性が高いアプローチを行なう必要はありません。1つだけ、例外を設けます。

過去に同じような局面、円安の進行や、原材料費の市況の高騰、あるいは別の根拠によって、値上げ要求を受けたサプライヤーです。特に、調達購買部門として不本意な形で値上げを実現してしまったケースが実績としてある場合です。例えば、値上げを受け入れなければ、納入を停止するとか、サプライヤー社内での立場を失うといったような理由で、やむを得ず値上げを受け入れた実績です。調達購買側から話を持ち出さないのではなく、あらかじめ値上げする場合に必要なステップの連絡を考慮します。一度、値上げ要求をおこなって、実現したサプライヤーには、値上げ要求を行なうことへの心理的なハードルは無い、もしくは著しく低くなります。したがって、このようなサプライヤーに対しては、先手を打つのです。具体的な先手の方法は、3つめのステップとなる「文書での値上げ要請 1」でお知らせします。サプライヤーへの対処のポイントは次の3点です。

(1) 前回値上げ時の対応の問題点を指摘する
(2) バイヤー企業として、値上げ要請にも対処する姿勢を鮮明に打ち出す
(3) バイヤー企業側の値上げ受入には、社内コンセンサスの醸成が必要で、サプライヤーの協力が不可欠

できれば前回の値上げの実現プロセスの問題点を具体的に指摘します。そしてサプライヤー側だけでなく、当時のバイヤー企業としての対処も確認します。サプライヤーからの再三にわたる値上げ要請を無視して、その挙げ句に納入停止や優先順位の見直しがおこなわれたのであれば、好ましくない値上げであっても、その責任の一端はバイヤー側にあると認識します。その場合は、今回は同じ対処はしないと明言しても良いでしょう。

そして、この段階でもっとも重要なポイントは、調達購買側での値上げ対処に必要な準備です。と、いっても、特別な内容ではありません。普段から日常的に行なっていれば、こうした値上げ対応だけでなく、調達購買部門/バイヤーの本来的な業務に役立つアクションばかりです。具体的には2点です。

① 原材料費の市況動向の確認

これは、購入のプロであれば日常的におこなっているはずですね。行なっていなくても、心配ありません。インターネットで検索すれば、時系列の市況データの入手は容易に行えます。インターネット以外では、毎週月曜日に日本経済新聞朝刊に掲載される「景気指標」欄に掲載されているデータを確認します。このページには、景気を読み解くための様々なデータが網羅されています。

ここで「データの読み方」について。データとは、ただ眺めているだけでは、なにも理解できません。ただの数値の羅列です。日経新聞の「景気指標」欄でも、時系列の記載がありますが、それを見ただけでは「上がっている」「下がっている」しか分かりません。ここで、データの読み方を見るための本をお知らせします。

日経新聞の数字がわかる本 「景気指標」から経済が見える 小宮 一慶 (著)
( http://goo.gl/ccTih )

景気指標に加えて、必要な原材料費の市況があれば、次のポイントで必要な原材料を明確にして、同じようにどのようなトレンドを示しているのかと、その背景を理解してください。

② 購入品に含まれる原材料費の種類と割合に関する情報

これこそ、日々の購入価格分析の成果が問われる課題です。これは、後のプロセスにおける値上げの妥当性の判断にも必要な分析です。値上げの局面がなくても、購入価格に関する分析を行い、理解するのはバイヤーにとって必須の業務です。もし、行なっていない場合は、今回の値上げ想定局面を利用して、自分が担当する比較的大きな意味(購入額であり、供給源の希少性や、自社における重要性)を持つアイテムから、少しずつデータの整備を行ないましょう。購入品に含まれる原材料費の種類と割合の理解は、難しい作業です。難しさの多くは、データが揃えられない、割合がつかめない、そしてなによりそういった作業を行なう時間が無いでしょう。作業開始当初は、とても大きな負荷をともないます。しかし、こういったプロセスを経ずに値上げ要求が到来したらどうなるでしょうか。値上げ要求の内容を判断する術が無いから、話を聞かずに拒否してしまうのです。そのような状況と決別するために必要なのは、皆様の行動だけなのです。

<つづく>

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