「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 7(牧野直哉)

前回は「持続可能な調達」を脅かすリスクの1つ目として「順法リスク」についてお伝えしました。順法リスクが脅かされる場面は、これから述べる4つのリスクに比べると、非常に限定されるはずです。しかし、昨年来日本の大手製造業で行われてきたさまざまな不正問題が取りざたされています。「持続可能な調達」の実践を考える時、新しい事をあれやこれややるよりも、まず法律やルールにのっとった事業運営が、社内各部門と外部リソースを含めて行われているかどうかの確認が、まず必要となる点を、事実が示しているともいえます。それでは残りの4つのリスクについて解説を加えます。

(2)調達リスク
調達リスクに関しては、ここで事細かに述べるよりも、読者のみなさんは十分にその内容をご理解されていると思います。調達しなければならないモノやサービスの供給が途絶、断絶するリスクです。具体的には次のような供給断絶リスクを想定しています。

①資源枯渇による供給断絶(地下鉱物資源や水産資源)
②農産物資源の天候不順・異常気象による供給断絶
③天然災害の被害による供給断絶(大地震や洪水、火山噴火)
④安全管理不備による供給断絶(火事、事故)
⑤労働問題による供給断絶(ストライキ)

これら5つの問題への対処は、すべて異なる対応が必要です。また購入対象によっても具体的な対応方法が異なってきます。調達・購買部門におけるサプライヤー管理の観点では、③~⑤について具体的なアクションが必要です。③では、サプライヤーにBCP(事業継続計画)があるかどうかといった確認になります。また今後は、④と⑤について場合や企業からサプライヤーの確認が求められ、サプライヤーに何らかの問題がある場合には、バイヤー企業として適切に影響力を行使する必要性が高まります。「影響力の行使」とは、問題点の改善や是正が行われない場合、発注を停止するといった意思を明示して、サプライヤーに改善を促すものです。

(3)販売リスク
販売リスクは、事業運営が持続可能な状態でない場合に、顧客への販売に影響を及ぼす事態です。先ほどの調達リスクで、サプライヤーに対して影響力を行使するのがバイヤー企業にとって重要になると述べましたが、バイヤー企業からの影響力行使は、サプライヤーにとっての販売リスクになります。

(4)評判リスク
評判リスクは、自社が組み込まれているサプライチェーンで発生した問題のマスコミ報道によって発生します。バイヤー企業としては清廉潔白であったとしても、サプライヤーが人身売買や、その結果で発生する児童労働、奴隷まがいの強制労働に手を染めていたり、環境破壊などに対する配慮を怠っていたりといった場合、サプライヤーだけではなく、サプライヤーに対して仕事を発注していたバイヤー企業にまでマイナス影響が波及し、ブランド価値を損ねるリスクです。有名企業や大手企業の場合、サプライチェーンの問題を批判するネガティブキャンペーンの対象になる可能性は高く、注意が必要です。この点に関し日本企業で積極的に対応しているのは、アパレルや小売りといったサプライチェーン上で消費者に近い企業です。しかし最近では、女性向けの下着を販売製造する企業に対して、このネガティブキャンペーンが仕掛けられた事例も発生しています。当然ながら、時の経過に伴って対象となる企業は拡大します。

(5)株価リスク
これまでに述べたような持続可能な事業運営が実現できていないと、投資家が判断した場合、株価の下落につながる可能性も秘めています。この株価リスクは、これだけが単独で起こるのではなく、他のリスクが顕在化した結果では波及的に発生します。近年ではESG投資といった環境、社会、企業ガバナンスを基準にした評価もあります。ESGでもサプライチェーンの取り組みが評価対象になるケースが多くなっています。

こういったリスクの顕在化は、いつどのような形で起こるかは誰もわかりません。したがって、過度にあらゆるリスクを想定して準備をする必要はありません。最低限のルールや法律を順守する姿勢と実践が欠かせません。

そして注意すべき点は、ルールや法律はあくまでもグローバルスタンダードであると前提します。では、グローバルスタンダードとは何か?と思われるでしょう。日本企業に通って高リスクのポイントは、グローバルスタンダード(その多くは欧米の考え方)と、ビジネスパーソンの認識に大きく乖離がある部分です。そして最も大きなリスクは、大きく乖離がある部分を理解していない状態です。結果的に日本企業のビジネスパーソンは全く悪気なく過去からの習慣を踏襲して行動した結果、思わぬリスクの顕在化に直面するのです。次回以降は、日本における一般的な企業行動が、グローバルスタンダードに照らしたときに大きなリスクになるケースを述べていきたいと思います。

(つづく)

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