連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)

今回は、オマケ編として書きます。しかし、私が思うに重要なことを示しています。

・サプライヤ市場、自社内分析

今回、「サプライヤ市場、自社内分析」の補足編としていくつかを述べておきます。寓話をお話します。

<寓話①>

次息子は大学を卒業しグローバル企業の調達・購買部門で働きはじめました。父親は小さな町工場を営んでいました。息子は父親の仕事をやや低く見ていました。息子はひさびさの家族団らん時、自慢げに仕事の話をはじめました。

「パパさあ。うちのプロキュアメントのダイレクターからは、エマージングマーケットからのソーシングをアクセラレートするために、ユニークネスのあるストラテジーを作るのがロールっていわれているんだよ」

父親はゆっくりと頷いて話しました。「平凡なやうだが、そのやうな話を聞いて、君は成長したなとおもふつてゐたよ。君の力が發揮できる場なら、眞劍にやつてくれ」

「オーケー。いまビジネスをスケールするために、いまリサーチしていてね。チャイナまわりをスタディしているんだ」

「私の考へでは、鐵鋼の廻りはたいさう好調と云つて良いね。とくに自動車は民族系の伸びが昨年から二厘ほどあがつたね」

「ええ、サプライズだな。そのソースはどこなの」

「工場で鐵板部品を作つてゐると、受注を眺めれば、ニュウスを聽く以上に經濟がわかつてね。米國の飛行機事業からも受注してゐるから、景氣に敏感になるとゐうわけだ」。

「わあ、それはグレイトだな……」

息子は恥ずかしさから無言になっていました。個々の生産を見ていた地方の父親のほうがはるかに世界経済に詳しくなる逆説……。そのとき世界は、厳粛な顔をした父親のものでした。

<寓話①の説明>

個人的な経験で恐縮ですが、以前電機メーカーで調達担当者をやっていたときに、小さなボルトメーカーの社長さんと話したことがあります。

若気の至りというか、こちらはいわゆる大企業だったので、こちらの方がさまざまな情報に精通していると思い込んでいました。しかし、その企業はNASAの関連や軍事産業などから受注を受けるメーカーだったのです。

そうすると、ネジの生産だけでも、その数やあるいは内容から、世界経済のマクロ的な状況に、むしろ詳しい場合があり得るのです。ビジネスパーソンにとって、ミクロとマクロ、両方とも必要です。そして多くの場合、大企業の方が情報をたくさん持っていることも事実です。

しかしながら、中小企業の超ミクロ的な観点から、マクロがより見えることも、ときには事実なのです。これを「定点観測」等の大げさな言葉で語るつもりはありません。ただ、サプライヤからは、彼らの立場から、世界がどう見えているのか、これを意識して日々接していると面白い事実が見えてきます。

<寓話②>

むかしむかしあるところに、購買王様がいました。購買王様は「うーん、なんで組織人材の2割は使えないんだろう」と悩んでいました。「おおそうだ! それなら、その2割を辞めさせればいい!」。購買王様はさっそく面談を開始しました。

「いや、あのね、ほら、会社から辞めろっていうわけじゃないよ。でもさ、君のキャリアを考えるとさ、どうだろうか、このままここにいても双方が不幸になるっていうかさ。いいたいこと忖度してくれるよな。うんうんそうだよ」と高度抽象言語で説得し続けました。そして残り8割で組織を作りはじめました。

すると、なんと、先鋭だけで作った組織が、ふたたび2割の落伍者を生みました。「しかたないなあ。またこの2割を……」。その瞬間に雷が鳴り響きました。突然、神様が出現しました。「あのさあ。組織ってわかる? 構造は構造として、ふたたび2割を創り出すんだよ」。購買王様は驚きおののき、「あわわ、そんなはずは……」と震えるのがやっとでした。

神様は続けました。「アリとキリギリスじゃなくて、人間というのは場面によって変わるんだよね。与えられた問題を解決しないとまた同じ問題が降りかかるよ」。王様は「いや、といっても、組織のアウトプットをあげるのが私の仕事で……」。神様は「その2割がいても、全体のアウトプットをあげる努力はできるよ」と遮るように、いい、そのまま消えていきました。購買部長は、自分もこれまでの部長のなかでは、2割にあてはまるかもと思っていました。

<寓話②の説明>

サプライヤーの集約が、調達部門の一つのテーマです。教科書的には「サプライヤーを評価し」、「優れたところで部材を集約していく」……、これがセオリーです。しかしながら、問題が完全になくなるはずはありません。

集約した先でも、問題は生まれます。例えば、納期遅れが頻発しているサプライヤを、違うサプライヤに切り替えたとします。それだけで問題が完全に解消するでしょうか。切り替えられたサプライヤに対しては、短納期発注など、こちらの発注のミスがあったのかもしれません。また、生産管理体制に、根源的なエラーがあるかもしれません。

組織も同様です。パレートの法則では上位2割が、8割の結果を左右すると言われています。しかしながら上位2割だけの仕事をしても、仕事の成果が何倍になるケースをほとんど知りません。人間には、ある意味「余裕」が必要なんですね。

人員も然りです。これまで、どんな精鋭を集めた組織でも、必ずその中で、優秀と平凡の、2対8に分かれるのです。むしろその8割を前提として全体の底上げをすることを忘れてはなりません。

<寓話③>

あるところに、数々の悩みを抱えた青年が絶望していました。そこに、ひょいと神様が登場したのです。

「おい、兄ちゃん、どうした?」

青年はただちに訴えました。「おお神よ。あなたはなぜ私に多くの試練を与えるのですか」

神は答えました。「なんだよ。兄ちゃんは、毎日、天気のことで悩むのか」

「転機……?」

「いやいや、天気だよ。雨とか晴れとか、雷とかさ」

「いえ……それには悩んでも仕方ありませんので」

「天気は自分の問題じゃないってことだよな」

「はい……。たしかに……」

「それなら、自分の問題だ、と認識したものにたいしては、答えは用意されているよ」

「そうなんですか」

「ああ、それが、『問題と認識する』の意味だからな」

「私は何をすれば……」

「答えを探せよ。もう大人なんだから」

頭を腕で包んだ青年の前には、神様はもういなくなっていました。

<寓話③の説明>

カール・マルクスは、「問題が認識される時、既に答えは用意されている」と言いました。私はこの言葉が大好きです。

人間は、そもそも自分のキャパを超える問題を、問題と認識することはありません。上司になるとは、それまで問題と認識すらしなかったことを、問題として認識する意味です。かつて「人間は無能と呼ばれるまで出世する」と格言がありました。さすがにそれは皮肉に過ぎますが、自分の能力を、どんどん、どんどん、超えたところに新しい問題が設定されるのです。そしてしばらくすると、「かつてない問題」が「よくある障害」と認識できるようになります。

したがって、悩みを抱える事は決して悪いこととは言えません。なぜならば、それは成長の段階を上っているに過ぎないからです

。神様は天気について悩むのかと聞いています。気象予報士であっても、天気がどうなるかに悩む人はいないでしょう。悩むとは、その人のキャパを神様が察知して(こんなことを書いていますが、私には特定の宗教への帰依はありません)、その問題を設定するのです。

逆に悩みを抱えない事は、成長止めていることと同義なのかもしれません。

<つづく>

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