ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・25のスキルと知識がバイヤーを変える

今回からは、「ほんとうの調達・購買・資材理論」にふさわしく、調達・購買担当者に必要なスキルと知識を解説していく。私は前回、次のような調達・購買のスキルと知識体系についてふれた。

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そこで、今回は1回目として、「調達・購買 業務基礎」のAである「調達プロセス知識」をとりあげたい。そんなこと知っているよ、という方々もぜひお読みいただきたい。きっと新しい発見があるはずだから。

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ここで、まず「Purchasing」と「Sourcing」の違いについてとりあげたい。下の図は、企業の調達プロセスを分解したものだ。

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Sourcing(ソーシング)とは、業界調査から、サプライヤーの選定や価格決定を行う。Sourcingは「契約業務」と訳されることもある。また、Purchasing(パーチェシング)は、発注から納期調整、検収(サポート)等を行う。Purchasingは「調達実行」と訳されることもある。

私見では、自動車業界と電機業界の一部は、このSourcingとPurchasingを完全分離しており、人員もわけている。自動車業界では、Sourcing担当者がPurchasing担当者に「10年以上も会ったことがない」事態がありうる。Purchasingは納期フォローなど大変な業務ばかりだから、それに携わらない人は幸運ともいえる。ただ、サプライヤー決定と価格決定のみを行う担当者は、納期を追いかけない関係上、生産管理に疎くなってしまう可能性がある。実際に、納期や発注処理の煩雑さを知ることが、Sourcing業務にも深みを与える。

さて、話をSourcingからはじめよう。

・Sourcingで重要なこと

Sourcingは主に次の三つのプロセスにわかれる。

RFI (Request for Information):情報提供依頼
RFP (Request for Proposal) :提案依頼
RFQ (Request for Quotation):見積依頼

そしてこの三つを総称して、RFxと呼ぶ。

この三つだ。いきなり英語ですまない。でも、難しいことじゃない。RFIは、「おたく(サプライヤーのこと)何ができるの」と質問表を送ることだ。RFPは、「おお、そんなことができるなら、具体的に調達品の提案をちょうだいよ」と提案依頼書を送ることだ。RFQは「なるほど、その仕様は良さそうだから、見積ちょうだいよ」と見積り依頼書を送ることだ。

通常この三つのプロセスは完全分離していない。RFxが混在したまま調達活動をやっていることが多い。ただし、それぞれのプロセスにおいて注意すべきことがある。

まずはRFIだが、一般的には次のような情報が網羅される。

生産品目から特色まで。重要なのは、次の通りだ。

1.担当者の単独保有資料としない(担当が替わるごとに何度も同じ調査をしているところが多い)
2.できるだけA4一枚にまとめる(部門で一括管理しておくべきだ)
3.質問項目をあらかじめ決めておき、担当者間のばらつきをなくす

そして、1枚で100%ではないにせよ、誰もがそのサプライヤー情報を理解できるようにすることだ。不動産屋を思い出してほしい。不動産屋の担当者が「物件はアタマに入っている」といったら信用できるだろうか。A4一枚にまとめ、概要を俯瞰できるからこそ営業できるのだ。このようにA4一枚でサプライヤー情報を作成すれば、RFIを一過性のものとせず、その後も利用できる資料となる。しかも、開発・設計部門から新規サプライヤーの相談があったときには、これをそのまま「物件情報」として使えるのだ。

また、重要なのは「ノックダウンファクター」の明確化だ。「ノックダウンファクター」とは、自社が譲れない条件のことだ。調達担当者がつまずく項目は繰り返される。調達・購買担当者がせっかくヒアリングして見積りをとっても、最終的には社内合意が得られない、とか。品質管理部門から反対される、とか。生産管理部門が納得していない、とか。それらは、すべてRFI段階の「ノックダウンファクター」の不明瞭さに起因する。自社の絶対条件に合致しなければ、サプライヤーの見積りがいかに安くても、質が良くても、むなしい。すべての調達・購買担当者は、RFI時に、各部門をまわって、この「ノックダウンファクター」をヒアリングすべきだ。

そして、RFPで相手の仕様を確認したあとに、RFQを経る。その際、RFQはこのようなフォーマットが考えられる。

ここでは、見積依頼対象から、不良品発生時の条件までを網羅した。RFQとは、見積り前提となる各種情報の漏れを防止するためのものだ。そして、定型化することによって、多くのサプライヤーに展開するためのものだ。それはサプライヤーを公平に扱うことにもつながる。

このRFQで重要なことは、三つある。

1.上図のように見積り条件を明確化するとともに、「RFQは進化させるべき」と心がまえを持つことだ。RFQを繰り返していると、足りなかった条件や、失敗した項目があるはずだ。それを次回のRFQ時には追加するのだ。もしコンプライアンスが問題になれば、その条件を追加する必要がある。上図を見て、「不足している」と思う項目があれば、RFQに付与する内容となる。そして各品目ごとにRFQを書きなおしつづけ、引き継ぎ資料とすべきだ(現状では引き継ぎ資料は、せいぜい価格表ぐらいだ)。「RFQは進化する」のである。

2.(品目によってバラバラなためサンプルを提示できないが)RFQのときには、バイヤー側が希望する見積り明細フォーマットに記載してもらうことだ。見積りをとったあとに、「このコストはどういう内訳だ」と訊くのはみっともない。それならば最初から見積り回答フォーマットを用意しておくべきだ。もちろん、見積明細など、入手できないと言うバイヤーもいるだろう。ただ、既存品は無理でも、新規品から見積明細をもらうように努力することはできる。これを外資系の一部では「オープンポリシー」と呼ぶ。見積明細をオープンにしてくれることが、取引条件だとしておくのだ。これはとくに新規サプライヤーにたいする強力なメッセージとなる。

3.目標価格を提示することは過去より議論がある。適正原価が試算できるのであれば、目標値は提示しても良いと考える。競合であるならば、それ以下の価格になる可能性がある。また、一社しか対応できない製品の場合は、あらかじめ目標値を共有することで「原価を創りこむ」発想が重要となる。くわえて、目標値を設定することで、バイヤー側の厳しさを表現できることは忘れてはならない。相見積りをとって比較するだけのバイヤーと、原価計算ができるバイヤーと、どちらがサプライヤーにとって「手強い相手」と映るかは自明だろう。もちろん、事前の原価計算ができない場合は目標価格公開は無意味だが、その場合でも「いくらだったら取引可能と考えるか」の基準を持っておかねばならない(だってそうしないと、見積りを提示されて「いかがですか?」と訊かれても、何も答えることはできないだろう)。そのためには、同じく事前に開発・設計部門との討議が必要だ。

・品質管理で重要なこと

次に、発注方式や在庫管理の項目がある。ただ、当該領域は、MRP(生産管理手法)の発達と、それを進化させたERPパッケージの浸透により強調する意味が薄らいだ。そこで、次に品質管理に移りたい。

ここで、バイヤーのみなさんに「品質」とは何か? と訊いても、なかなか明確な回答を得られないだろう。「品質保障」ならば、なおさらだ。下の図に、「品質保証」の定義を書いたものの、よくわからないというのが本音ではないだろうか。

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バイヤー企業は「仕様書」「図面」「口頭指示」「試験規定等」を渡す。しかも、サプライヤーには、「法規制」「社会通念」「倫理・常識」「その他ルール(!)」も遵守したうえで品質を確保することを依頼する。サプライヤーからすれば正直にいって、何をどこまで守ってよいかわからないのだ。

そこで、各社では「取引先品質保証協定書」(あるいはそれに順ずるもの)をサプライヤーと締結するはずだ。

 

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バイヤーは、この「取引先品質保証協定書」に無頓着なひとが多い。しかし、自社の「取引先品質保証協定書」を必ず読んで理解しておくべきだ。各社の品質基準を定めたISO9001では、次の項目を明確にすることになっている。おそらく、みなさんの会社の「取引先品質保証協定書」にも次の項目が網羅されているはずだ。

・品質管理要領
・経営者の責任
・品質保証体制
・仕様の管理
・設計の管理
・文章の管理
・取引先の管理
・部品等の識別管理
・工程管理
・検査、試験
・検査、測定および試験装置の管理
・不合格品の管理
・是正処置および予防処置
・取り扱い、保管、梱包および引渡し
・品質記録の管理
・品質監査
・教育・訓練
・有効期間

暴論を申し上げる。調達・購買担当者はこれらの詳細を完全に把握する必要はない。ただし、どのような項目が規定されているかは理解しておく必要があるなぜなら、それによってサプライヤーとの無意味な言い争いが回避できるからだ。たとえば、不良品を受け取った場合に、「工程管理」項目がちゃんと盛り込まれていれば、中間工程の管理徹底について、堂々と申し入れできる(サプライヤーの営業マンが「最終的な不良品率を下げるから、中間工程なんて関係ないでしょう」といった言い訳は通用しなくなる)。

これまでの先人たちのトラブルは、契約書という形で再発防止を試みていることが多い。それならば、それを使わないのはもったいない。

また、その他で重要なことも挙げておいた。

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・品質管理で重要なこと

今回は、25のスキルと知識の解説として、基礎の基礎(プロセスと品質)を説明した。。

 

<つづく>

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