統計の使い方(坂口孝則)
先日、某有名SNSの秘密の会合に行ってきました。名前はいえないものの、facebookかTwitterか、mixiか、Instagramか、そこらへんのどこかです。この某社では、投稿を莫大な金をかけて分析しています。いまでいうところのビッグデータというものです。そして、さらに衝撃的な結果を聞きました。
それは、投稿の時期によって内容が異なるというのです。たとえば、新商品の家電商品があったとします。それを消費者が、たとえば新発売のニュースを知って、さらに購買して、感想を述べるにいたるとします。
●認知
●欲求
●検討
●購買
●感想
このフェーズにわけます。もちろん、なかには厳密に分類できないものがあるのですが。そうすると、その投稿の時期によって内容が異なるというのは、次のとおりです。
●認知→価格、使用感、機能、デザイン、色柄
●欲求→見た目、音質、画質、サイズ、色柄、機能
●検討→音質、画質、バッテリー、使用感、見た目、サイズ
●購買→音質、画質、バッテリー、使用感、サイズ、見た目
●感想→音質、画質、価格、バッテリー、使用感、サイズ
という投稿の差異があるといいます。これが、ビッグデータをいろいろと探った結果です。
私は衝撃的だといいました。なぜ衝撃的だったのか。率直にいえば、「分析しなくても、これくらいほぼ予想できるじゃないか」という意味でした。ほんとうに驚きました。だって、ビッグデータを長時間、コストも人材も投入して語ったのが、この結果だったのですから。やっているのは日本で一流といっていいデータサイエンティストです。しかし、こんなの、自分自身の感覚に問うてみればわかります。しかも、これを分析成果として語っている。ほんとうに衝撃的でした。
ビッグデータとは、なにか私たちが夢を見る対象にすぎないのかもしれません。この結果でマーケティングを変えることはできないでしょう。すくなくとも、もっとベーシックな統計の学習をしたほうがはるかにいいはずです。
さらに、先日、まったく違う広告代理店に行きました。そこではDMPの使用がさかんです。DMPというのをご存じない方に紹介しておくと、データマネジメントプラットフォームの略です。つまり、これまでの消費者の行動を分析して、商品を買った人間の特性を明らかにしようとするものです。
担当者は自信満々にその分析結果を見せてくれました。しかし、私からいわせれば、上記の結果とほぼ同じ。「牛乳を買うのは、牛乳が好きなひとだ」「家を買うのは、家族持ちで、家に興味があるひとだ」といったもの。あらら、これはあかん、阿呆や。と思わざるをえませんでした。
どうも、私たちはビッグデータ幻想を持ちすぎているようです。ビッグデータや、いま流行りのAIさえあればなんでもできるという幻想。
私は、むしろ、タイトルにあげた「統計の使い方」としては、まったく別のものを考えています。これは近代マーケティングの超越です。まだうまく言葉にできません。しかしあえていうのであれば、「これまでまったく消費者像に入っていない層を消費者化していく」というものです。
統計上は、「こういうひとが商品を買う」のを見つけるのではなく、「こういうひとは商品を絶対買わない」を見つけること。そうすれば、そのひとが、なぜ商品を買わないのか考えることができます。そのひとたちが考えている常識をくつがえすような宣伝広告を考えること。それがレッドオーシャンとすら考えられていなかった領域をブルーオーシャンに変えていくこと。そんなことを漠然と考えています。
それにしても……。ビッグデータの活用が日経新聞では喧伝されていますが、実態はこんなもんかあ、と感じたこのごろです。
(つづく)