ほんとうのBCP作成方法 2(牧野直哉)

今回連載でお伝えする「ほんとうのBCP」にまるわる問題意識を以下の通り図示します。


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まず日本における災害対策は、阪神淡路大震災以降は、様々な取り組みが行われました。一例を挙げれば、阪神淡路大震災で家屋の倒壊による被害者が多かったにも関わらず、初期医療体制が整っていなかったために被害を拡大させました。この反省に基づいて、災害発生時の医療体制が構築されたのです。DMAT(災害派遣医療チーム Disaster Medical Assistance Team)と呼ばれる組織です。

2011年の東日本大震災では、犠牲者の多くは津波によるものであり、大地震であっても、人命への影響は阪神淡路大震災とは異なっていました。この例は災害発生後の対応の難しさを示しています。同じ地震でも震源が異なれば、震度が同じでもその被害は内容も大きさも異なるのです。

発生する災害と被害内容によっては、発生後対応に手間取るケースもあるでしょう。しかしこれまでに発生した事態に、特に行政の対応は進んでいます。企業のBCPの策定は進み、昨年発生した災害では「BCPが機能した」と回答する企業も増加。行政と企業の取り組みは、確実に進歩しています。あとは私たち個人の備えでありBCPです。

昨年の6月に発生した大阪の地震では、発生した当日の夕方のテレビに「店に食料がない」とインタビューに答える人が映っていました。確かに高度に整備されたサプライチェーンの機能を前提にしたコンビニエンスストアは、必要の都度店舗に足を運べば、自宅の冷蔵庫をほぼ不要にできるほどです。しかし最新の情報では、行政から各家庭で大規模災害を想定した一週間分の食料備蓄を呼びかけています。かつては3日分でした。災害発生のたびに支援物資が被災者に届かない問題がクローズアップされます。災害発生後の混乱の中、支援物資を届ける方策が見つからないのが実態でしょう。(熊本地震直後の状況はこちら https://business.nikkei.com/atcl/report/15/258308/042100027/?P=1 )

災害発生時、同じ被災者であるはずの地域行政の担当者が、市民の最低限の安全と生活の確保に奔走します。しかし詳細まではシミュレートできません。発生した都度対症療法的に対応せざるをえない中で、生活全般の必要物資をすべて行政に依存するのは少し虫が良すぎる、私はそう考えます。災害発生後の一週間を何とか食いつなぐ被災者自身の自助努力が必要です。

発生のたびに異なる状況を想定し、状況ごとに機能するBCPを立案するには、行政と企業だけではなく、個人レベルでもBCPの主旨を理解し、災害を想定した行動計画が必要です。行政、企業、個人の3つの取り組みが同期・整合しなければ、BCP全体が機能しません。しかしどんな災害が発生し、具体的な被害は、発生するまでわかりません。個人で、災害発生に備えどんな準備をすれば良いのでしょうか。

災害発生を想定した準備では、最低限守るものへ焦点を絞った対処が欠かせません。何を守るかといえば、自分と家族の命です。命さえあれば、その後行動できます。今回の連載行政や企業で作成したBCPとリンクする「個人版BCP」で、自分と家族がどのように命を守るかについて手順と方法論を、「個人版BCP」を記入して実現します。


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個人版BCPは以下のリンクからダウンロード可能です。
http://ur0.link/KWyg

個人版BCPとは、災害発生時にまず慌てない、冷静に最適な判断し、的確な行動を実践するための最低限の準備です。飽くまでも「個人」なので、最低限自分自身に加えて家族の命を守るために必要な内容を絞り込みました。網羅されていない内容、特に事前準備については、連載の中で触れます。

1.リーダーの設定

まず家族で災害発生時に最終的な意志決定を行う「リーダー」を設定します。夫婦+子供の家族構成では、夫婦のいずれかがリーダーになれば良いでしょう。問題は高齢化社会の進展で、夫婦いずれかの両親と同居している、あるいは両親が近くに居住している場合です。その場合は、事前に両親と話をしてリーダーの意志に従う合意をとっておきましょう。これは大きな災害で自宅から避難が必要になる場合に欠かせない前提条件です。

昨年私の居住地域では、2度大雨による避難勧告が出されました。結果的には2回とも避難を要する事態ではありませんでした。しかし避難施設がどんな場所かを一度見ておきたかった私は家族に「避難しよう」と提案しました。

私は今、妻の両親と同居しています。妻と子供は避難に同意しています。しかし両親は「大丈夫だ」の一点張りで動こうとしません。初回の避難勧告では無理に避難しなくても良いかと諦めました。

そして二度目の避難勧告では、私もかなり強く「避難しよう」と説得しました。しかしこれまた「大丈夫」の一点張りです。確かに大丈夫でしょう、私もそう思っていました。しかし大丈夫=それほどひどい状況でないからこそ、避難施設まで周囲の環境を確認しつつ移動してみたかったのです。ところが説得すればするほどにかたくなに避難を拒否します。

この経験から、災害発生時の安全確保には。避難要否の判断を行うリーダーと、判断に従う行動が欠かせないと確信しています。「避難しませんか?」ではなく、「避難するので準備してください」と言わなければならないのです。避難の要否は、各個人の危険度の感じ方に大きく依存します。人は皆「大丈夫」と思いたいですね。でも自分が危険と思っていれば、危険を回避する行動が欠かせません。そういった家族を組織に見立て、行動が一体化できるかどうかが、まず家族全体の安全確保に必要なのです。

次回は、具体的な作成方法です。

(つづく)

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